幼児期
第2話 私が赤ちゃんだ
小説家とは何者か。
あらためて問えば、それは幾つかの定義があると思う。
間違いないのは、小説を執筆しているものであること。
そして、一般的なイメージとしてはそれによって収入を得ていること。
では、どうしたら小説で収入を得られるようになるのか?
その方法は幾つかある。
マイナーだけれど、出版社に持ち込んでデビューする方法。
最近流行りなのは、Web小説が拾い上げで出版される方法。
そのWeb小説の広告収入なんてのもある。
でも、やっぱり昔ながらで、一番世間のイメージが強いのは新人賞を受賞して、作家デビューするというルートだろう。
「DENGEKI大賞、大賞受賞『泉 万華』様。おめでとう』
「ありがとうございます」
だから、これが今世での私の小説家デビュー。
前世のデビュー年齢の半分以下の歳でのデビュー。
若く、華々しい小説家人生の始まりだ。
◇◇◇
目が覚めると、私を覗き込んでくるメガネのおじさんと目が合った。
頭がぼんやりしているけど、やがて思い出す。ああ、私トラックに轢かれたんだ。
思い出して驚く。よくあれで助かったな私。
クビになってどん底だったけれど、その分の運が回ってきたのかもしれない。
そう思ってみれば、おじさんはいかにも手術中ですみたいな白いビニールの帽子を被っていた。お医者さんかな? 命を救っていただいて、ありがとうございました。
「あぃあいぁ」
お礼は言葉にしたつもりだけれど、麻酔のせいかまったく口が回らなかった。そんな私をおじさんは心配そうに眺めると持ち上げた。って持ち上げた!?
軽々私を持ち上げるおじさんにびっくりする。いや、太ってるつもりはないけど、こんな普通のおじさんに簡単に持ち上げられるほど軽いですとは口が裂けても言えない。大体、そんなの私がモデル位やせていたとしても無理だろう。
そんなことを思ってれば、私は女の人に引き渡された。細面のキレイな人だなと見上げて思った。って。この細い美人さんに私、抱きかかえられてるの? 噓でしょ?
「私の、赤ちゃん」
私が混乱していれば、美人さんは見た目にピッタリな細い声で呟いて、ぎゅっと私を抱きしめてきた。
……赤ちゃん?
◇◇◇
結論から言おう。
私が赤ちゃんだ。
いや、ごめん。端的過ぎた。
でも、それがすべてで、まさに結論なのだから仕方ない。
あの後、変なカプセルみたいなのに入れられて私は運ばれた。自分の持たれ方、運ばれ方、そのカプセルに入った事実。混乱していたが、ここらへんで私は自分のサイズ感がおかしいことに流石に気付いた。そして考えることを止めた。
……いや、違うんですよ。
やたら疲れるし、思考はまとまんないし、眠くなるし。
もう無理でした。ということで、私は寝た。
知らない天井だ。
目覚めて言ってみたかっただけを思い浮かべ、やることもないからその白い天井を見上げ。
あの細面美人さんに抱きかかえられ、美人さんにお似合いの素敵笑顔金髪イケメンに至近距離から変顔を見せつけられ、私は確信した。
私が赤ちゃんだ。
うんうん。近頃流行りだもんね。異世界転生。って違うか―。これは現代転生だよねー。
ここはどう見ても病院で、マミーとダディもどう見ても生粋のジャパニーズだもんね。あら、お母様。長い黒髪がお美しくてよ?
じゃなくて。
ぶんぶんぶんと頭を振ったつもりが、全然無理でした。首も動かせない。私が赤ちゃんだ。
思考停止に決めゼリフを乱発してみるが、なんで―? 疑問は尽きない。
輪廻転生? 私が主人公だった? アラサー無職系女子が?
なんてまあ考えてみたけど、答えなんか出っこない。私が赤ちゃんだ。
というのは冗談としても、確かなのは今ここに私の意識があること。
それだけは確かな事実だ。
なら、そのことに感謝して、私は今を生きていこう。
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