第3話 地下

 それから僕らは、パタリと連絡を取らなくなった。高校を卒業したのだから至って普通の事だとは思ったが、彼女からの連絡を今か今と待ち望んでいる自分もいた。これが未練だと言うのなら、そうだろうと思った。彼女と別れてから、日々増して行く寂しさや虚しさをどうにか埋める為に、僕は毎月の様に大学のサークルの合コンに参加した。そこで出逢った人と付き合ってみたものの続かず、結局半年後、僕は彼女のいるライブハウスに足を運んだ。


 薄暗い地下の階段を降りると直ぐに、三百人程のお客さんが密集していた。駆け出しのアイドルにしてはかなり集客出来ているなと言う印象だった。

 グループのコンセプトは”安定剤”。

「私たちがあなたの安定剤となり、悩みを打ち壊して笑顔にさせちゃいます」

 なんて彼女たちは自己紹介をしている。君の存在が僕の悩みの種なんだと心の中で呟くと、群衆がペンライトを振り、歓喜した。

 その歓声に彼女は嬉しそうに手を振って返す。自分だけがこの会場と一体化出来ていないのを僕はじわじわと感じつつ、うつむき加減で立っていると、突然隣に眼鏡をかけた高身長の男性がやって来た。

「新規さん? 誰推しで来たんです?」

「え……? あ、えっとまだ推しとか決まってなくて……」

 見るからに仕事が出来そうな男性。首からぶら下げたネームプレートに、PDとだけ書いてあった。プロデューサー、だろうか。僕がしどろもどろしているとすかさず男性は笑顔で口を開いた。

結絵ゆいえちゃん良いですよ。半年前に加入した子なんですけど、笑顔が素敵で、あれは中毒になっちゃいますよ」

「そう……ですか」

 彼女の名前にドキッとしながら、僕は男性の話を聞いていた。結絵ゆいえが加入してすぐに、センターに抜擢されたこと、ファン投票とチェキ売り上げが堂々一位になった事など、僕の知らない彼女の話を永遠と聞かされた。

 彼女の世界は、僕を置いて途端に色付き始めている。僕と彼女はもう、全く違う世界の住人なんだと、その話を聞いてようやく実感した。

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