世直し2〜姫の旅だち~(前編)

ここは世界一の守りを誇る鉄壁のガードラス・カタン王国。そこに誰よりも正義を愛する姫がいた。彼女の名はマモリア・シュゴールド・バーリアス。かつて「世界最強の剣士」と言われた国王アーマスと「世界最強の魔法使い」と言われた王女シルドラの間に生まれた少女である。

そんな二人の血を引いている彼女は、優れた剣術と魔術の才能に恵まれていた。また母の美貌もしっかりと受け継いでおり、その美しさは大陸全土にも知られ、他国からの縁談の話もひっきりなしであった。当の本人はそんな話には目もくれず、趣味の剣術の稽古と裁縫に打ち込んでいた。

そんな彼女には夢があった。しかしその夢は『今現在の自分の立場』では絶対に叶わないことを彼女は知っていた。キッカケがほしい。何かチャンスがほしい…マモリアは内に秘めたこの思いはもう爆発寸前であった…。



「はあ〜、この気持ち、もう押さえられそうにないわ。ワタシはどうすればいいのかしら…?」


マモリアはボーっと空を見上げながらため息をついていた。そんな彼女を心配そうに見守る男が二人いた。ガーディとリガードである。


ガーディ・アンスロット

ガードラス・カタン王国に代々仕えるアンスロット家の長男であり、王国近衛騎士団「ヴァリス・ヴァリアント」の団長である。

彼は正義感が強く真面目で部下想いの性格なため、部下たちからの信頼もアツい。

優れた剣術と防御魔術、回復魔術、補助魔術を扱うことができ、マモリア姫の剣術の先生でもある。マモリア姫とは兄妹のように育ち、彼女から実の兄のように慕われている。


リガード・マンスター

王国近衛騎士団ヴァリス・ヴァリアントの副団長。団長のガーディとは対象的に、勤務態度が悪く部下たちからの評判も芳しくない。しかし中にはそんな彼のことを「アニキ」と慕う者たちもいる。

元々は下級階層の人間で、傭兵稼業を生業としていた。ある日『お忍び』で城を抜け出してい姫が、町内で悪漢たちに拐われそうになっていたところを助けた功績により、騎士の身分を与えられ城に迎えられた。その後は圧倒的な腕っぷしとその独特な魅力により王国近衛騎士団の副団長にまで上り詰めた。


「ここ最近の姫様はずっと様子が変だあ!何か誰にも言えないような辛いお悩みでもあるのだろうか?ううう、心配だあ!あああ、心配過ぎる〜!私は、私はどうすれば良いのだぁぁぁぁぁっ!!!」


ガーディが取り乱しながら姫の様子を見ていると、リガードが笑いながらカレに語りかける。


「悩みね〜『好きな男』でも出来たんじゃないのかぁ?姫さんも年頃だからよ〜」


「ひ、姫様に好きな男だとおっ!?のあああああ!私は、…私はどうすればあああああっ!ガーディ、何か知恵を貸してくれえ!!頼むううううう〜ッ!!!」


「おいおい、そんな大声出しながら取り乱すなよ!みっともねぇな〜。ったくよ〜!ホントしょうがねヤツだ〜…おおーい!姫さんよ〜!ガーディのヤツが、何か『大事な用事』があるってよ~!!」


リガードが大声でそう叫ぶと、ガーディは慌てた様子で彼に抗議する。


「なあっ!?リガードぉ!ちょ、ちょっと待てぇ!いきなり過ぎるぞぉっ!!わ、私はまだ心の準備が…」


リガードの声に反応し、マモリアが二人の側にやってくる。より一層挙動不審になるガーディの様子を不思議がりながらも、マモリアは喋りはじめた。


「ワタシに大事な用事ですって?ガーディ…、そんなに慌ててどうかしたの?ねえねえ、なーに?言ってみなさいよ〜」


「あっあっあ、あの、その……、…あっ!いや〜今日も天気がいいですね〜あっはっ

はっはっはー!!」


「天気がいいですって?そう?今日すごく曇ってるけど……」


「おいおい、相棒〜落ち着けよ〜。何か姫さん『大切なこと』を伝えたいんだろ〜」


リガードは面白がった様子でガーディを煽ると、ガーディはカレを睨みつける。


(リガードめ〜〜〜覚えてろ〜〜〜〜〜っ!!)


「ねえガーディ!もったいぶってないで早く言いなさいよ〜。あー、さては…何か『エッチなこと』を言おうとしてるなぁ〜!!ガーディのスケベ〜」


マモリアは頬を赤らめながら、ガーディに対して少し軽蔑の眼差しを送る。


「おっ!姫さんよ〜察しがいいね〜!実はガーディ(相棒)の『相棒』が姫さんにナニを……って!ごふうううううッ!!!」


突然リガードに顔に、ガーディの鉄拳が容赦なく炸裂する。


「イッテーなあっ!何すんだよガーディ!!」


「今、姫様の前でとんでもなく下品なことを言おうとしたからだあッ!!!」


「下品なことってなーに?あっ!やっぱりそーゆースケベなことを…、ワタシに…したいのぉ?ガーディ…?」


マモリアは頬を赤く染めながらも、満更でもない様子でガーディを見つめた。


「ち、ち、違います!違いますよ姫様〜〜〜!おい!リガードが変なことを言うから、姫様に誤解されてしまったじゃないかあああっ!!責任取って一緒に誤解を解いてくれぇっ!!!」


「わかった、わかったよ相棒〜。まあ姫さんよ、アレだアレ!ガーディのヤツ、最近の姫さんのずっと元気がない姿を見てよ〜心配で心配でたまらないだってよ〜!心配過ぎてもう夜しか眠れないし、食事も1日3食しか喉を通らないらしいぜ!!」


「説明の仕方に少し悪意を感じますが…まあそう言うことです。姫様…、何かお悩みがあるなら、我々に遠慮なくおっしゃてください!」


マモリアはしばらく考え込む素振りをした。そして何かを決心した強い眼差しで2人の顔を見つめると、自分の『アツい思いに』ついて語り始めた。


「2人に…、うんうん、みんなにずっと黙って今日まで生きてきたけど…ワタシ、ワタシね……」


ガーディとリガードは息を呑んだ。


「ワタシ、…『正義のヒーロー』になりたいのおおおおおおおおッ!!!」


その発言を聞いてふたりは、ガクッと身体のバランスを崩してしまった。


「正義のヒーローになりたいですか…私はもっとこう深刻な悩みかと……」


「おい相棒〜そんな言い方はね〜だろ!…姫さん詳しく言ってみな!俺でよかったら全力で力になるぜぇっ!!」


「なぁっ!?自分だけ抜けがけをするなリガード!姫様、このガーディ・アンスロットもお力になりたいと思います!!」


「よかった〜!2人ならきっと賛成してくれると信じてたわ!ガーディとリガードだーい好き〜〜〜!!えへへ♪」


そう叫ぶとマモリアは側にいたリガードに抱きつく。リガードも満更でもない様子である。しかし背後から『強烈な殺気』を感じると、慌ててマモリアを引き剥がす。


「やーん!リガードにもっとギューってするの〜!!」


「お、おう!姫さんよ〜、頼むからそれくらいにしてくれ…。マジでよ〜。う、後ろの『怖い顔した兄さん』に殺されちまうぜ……」


「怖い顔した兄さん?え〜、だーれそれ?もしかしてガーディのことぉ?」


「ヒメサマ、ワタシガソンナコワイカオノオトコニミエマスカ?ミエマセンヨネ?……なあ、オマエもそう思うよな…?『相棒』……」


「お、おおおおおうぅうっ!もちろんだぜ相棒!ブラザー!!…そうだ!姫さんよ、話の続き頼むぜぇ!」


「うん!実はワタシ、もう正義のヒーローになる準備も出来ているのよ!そうだわ!ちょっと2人ともワタシの部屋に来てよ〜!!」


マモリアはそう叫ぶと、リガードとガーディの手を引っ張り走り出す。


「ひ、姫様!そんなに手を乱暴に引っ張らないでください…」


「ははは!いいじゃね〜か!いつもの元気な姫さんに戻ってくれたんだしよ〜」




「じゃあワタシが『準備オーケー』って言うまで絶っっっっっっ対に入っちゃダメよ〜」


そう言い残すとマモリアは、自室の外で2人を待たせると自分は部屋の中に入っていった。


「うあーうあーうあー…、姫様の部屋に入るなんていつ以来だろうか?ああああああ、キンチョーしてきた〜!リガード〜私の心臓の音がうるさい〜〜〜!!私の心臓の鼓動を止めてくれないか〜〜〜〜〜〜っ!!!」


「あー、うるせ〜な〜!マジで心臓の鼓動を止めてやろうか?」


「オッケー!2人とも入っていいわよ!」


「おう!姫さんがお待ちかねだぜ相棒!おらぁっ!いくぞ!!」


そう言うとリガードは、激しく取り乱すガーディの腕を無理矢理引っ張りながら入室する。


「ま、待てーーーーぇッ!リガード、私は、まだ…こ、心の準備がーーーーーっ!!!」


「?…なーに?どーしたのガーディ…」


「ははは、なんでもないですよ〜姫さん!…おい!いい加減にしろガーディ(小声)…ったく情けねーなぁ」


「す、すまないリガード。……いやしかし、あああ…、心が安らぐ…、部屋中が姫様のにおいで満たされている!ここは天国だあああああっ!!なあ、そうは思わないかリガード?」


「おい!急に変なこと言い出すんじゃあねーよ!姫さんに俺まで同類だと思われちまうだろっ!!」


「うふふ、ガーディったら面白いこと言うのねぇ♪…おっかし〜〜〜!!」


「……よかったな相棒〜、姫さん、笑ってくれたぜ〜」


「あ、…ああああっ!なんかよく分からんが、スッゴくハッピーだぁ!」


「さてと…じゃあね。今から目を瞑って!ワタシがオーケーするまで絶っっっっっっっっっ対に目を開けちゃダメよぉ♡」


「またですかい姫さん、もったいぶりますね〜こりゃあ…期待しちまいますよ!!」


「姫様、目を閉じました〜!姫様の許可が出るまで絶っっっっっっっっ対に目を開けません!…こちらはいつでも準備はオーケーです!いつでもどうぞぉ!さあさあさあ…、さあああああぁぁぁぁあああああっ!!!!!」


(ガーディ、おまえは本当に姫さんが絡むとキャラがおかしくなるよな…。「残念なイケメン君」だぜまったく…。まぁおまえのそーゆーブレない真っ直ぐなところ、…俺は嫌いじゃないけどよ……)


「はい!準備オーケー!じゃじゃじゃじゃあ〜〜ん!!2人とも目を開けてみて♪」


「こ、これは…凄い!!」


「ひゅ〜、こらまた随分と…これ、全部姫さんの手作りですかい!?」


2人が目を開けると、そこには部屋中を埋め尽くすレベルの姫の『手作り衣装』が溢れていた。


「どう?凄いでしょ〜!リガードの言う通り全部ワタシの手作りなのよ〜!ほらほら見て見てこの衣装かわいいでしょ!こっちの衣装は胸のリボンにこだわっててね〜。でこっちの衣装は……」


マモリアはとても可愛らしい笑みを浮かべながら、2人に手作り衣装のこだわりについて解説していく。そんな彼女をガーディとリガードは、微笑ましい気持ちで見守った。


「あ〜もうっ!つい楽しくなっちゃって、大事なこと言うの忘れてたわ!ワタシね、この衣装の中で最高傑作のこの衣装に身を包んで、『悪党を懲らしめる世直しの旅』をしたいのぉっ!!」


そう言うとマモリアは部屋の奥から一着の衣装を持ってきた。その衣装は『如何にも正義の味方』と言わんばかりのマモリアの趣味、理想とする正義像、そしてアツいこだわりが凝縮された逸品であった。


「おおおおお!姫様、とても素晴らしい衣装ですね!是非着たお姿を私たちに!!」


「おう!姫さんよ〜相棒の言う通りだぜぇ!せっかくだから着た姿も見せてくれよ!姫さんの『勇姿』を拝ませてくだせ〜!!」


「え、えー困ったなー、そんなに見たいかー、どうしよっかなー、えーえーえー、ま、まあ…2人がそんなに見たいって言うなら〜、…特別に着てあげようかしら?」


マモリアは少し嫌がるような素振りを見せるも、満更でもない様子である。


「あー嫌ならいいっすよ別に〜」


「着るわぁッ!!!!!」


(あっ即答した!)


マモリアは「絶っっっっっ対に覗かないでね!」と2人に釘を刺すと、ウキウキした様子で部屋の奥に向かった。そして数分後…


「じゃ…、じゃじゃじゃあ〜ん!!ど、どうかしら?似合うかな?かな〜?」


マモリアは自慢の正義の衣装に身を包むと、少し恥ずかしそうにしながら2人にそう尋ねた。


「おーーーっ!姫さんめっちゃ似合ってるぜ!こりゃ~イイもんを見せてもらったぜ!!」


「え?そうかな…えへへ、えへへへへ♪…ねえ、ガーディはどう?ワタシ、似合ってる…かな?」


「いやいやホントにスッゲー似合ってますぜ姫さん!なあ相棒、おまえもそう思うよな?……?おい!さっきから何をずっと黙ってるんだよ!何とか言えよ〜〜〜」


リガードはそう言いながら反応のないガーディを叩くが、ガーディは微動だにせず、ずっとフリーズしたままである。


「おい!ガーディ!姫さんがリアクションを求めてるぜ!……なっ!?コイツ…立ったまま気絶してやがる………」


「え、ええええええ!!!ちょっとおっ!なんで?なんでなの〜!?」


「ったくよ〜、しょうがね〜相棒だぜ…おらあああああッ!ウェイクアップアパカ(アッパーカット)ぁっ!!」


〈どかーーーん!!〉


リガードの強烈なアッパーカットをうけたガーディの体は、勢いよく宙に舞うと、そのまま地面に激しく叩きつけられる。


「きゃあああああ!!!ガーディ!しっかりして〜〜〜!ちょっと〜リガードぉっ!いくらなんでも手荒過ぎるわよ〜!ガーディ!ねえガーディ!!しっかりしてーーー!…ガーディがしんじゃったよ~!うわーーーーーーん!!!!」


慌てた様子でマモリアは、ガーディのもとに駆けよると、泣きながら彼の名を何度も叫び続ける。


「だいじょ〜ぶ、…だぜ姫さんよ〜。コイツの体のことは、『よーっく知ってる』からな〜。ほら!お目覚めだぜぇ!!」


「ううう、私は……そうか!姫様の気高いお姿を見て意識を…って姫様?どうかされたんですか?」


目に涙を浮かべながら自分を心配するマモリアを見て、ガーディは不思議そうにそう尋ねた。


「ガーディのバカーーー!!心配したんだからね!そんな変なことで気絶しないでよ〜もうっ!!バカバカバカバカこのカバ〜〜〜!」


「そんなにバカバカ言わないでくださいよ姫様。あとカバって…えぇ」


「へへっ、姫さんの『アツいお目覚めのキッス』のおかげだなぁ〜(ニヤニヤ)」


「!?ちょっとリガード〜ぉ!!!そんな『エッチなこと』は断じてしてません〜!」


「姫さんのその可愛いリアクションごちそうさまでーす!!」


「や、やだぁ…何か顔から火が出そう…」


「リガード!よく分からんが、姫さまをからかうのはその辺にしろ!うううしかし、顎と身体中に激痛が…。まるで『顎に強烈なお目覚めアッパーカット』を喰らって、そのまま勢いよく宙を舞い、地面に激しく叩きつけられたような感じだ……」


「おう!大正解だぜ!流石は俺の相棒だな!!」


「ねえ……ガーディ、それで感想は?この衣装、ど、どうかな?かな~…」


「…すごくお似合いです!美しさと格好良さが両立した正にパーフェクトなお姿ですよ!姫様、このガーディ・アンスロット、危うく昇天しかけてしまいました。それくらい魅力全開でございます!!」


「~~~っっ!!!……う、嬉しい…な、ありがとうガーディ」


ガーディのこの言葉に、マモリアは満足の笑みを浮かべた。


「……よかったなガーディ。…応援してるぜ。さて!おふたりさん、仲睦まじいところ水を刺すようで申し訳ないが、ここからが本題だな!なぁ姫さんよ、その世直しの旅とかいうのなんだが、正直よ、危険がいっぱいだぜ?覚悟はあんのかい?思いつきや勢い、軽いノリだけで行こうとすると……死ぬぜ?」


普段のおちゃらけたリガードからは、とても想像もつかないような静かで、そして鋭い言葉にガーディは驚く。


「…覚悟は、あるわ……ッ!」


リガードは、この短い言葉からマモリアの強い信念と覚悟を読みとると、笑顔になった。


「…わかったぜ姫さん、ならこのリガード様に任せな!よっしゃ!そうと決まれば、今から色々と旅の準備もしねーとな!ガーディ、まあそんなワケだ。おまえにも協力してもらうぜぇッ!!」


「ああ!リガード、言われずとも私もそのつもりだ!!」


「流石は俺の相棒だぜっ!!!」


「姫様、このガーディ・アンスロット、どこまでお供を致します!!!」


「ガーディ、リガード…ありがとう……っ!!!」


マモリアは二人の優しさに感激し、目に涙を浮かべながら笑顔で、彼らに感謝の気持ちを伝えた。そして2人の元に駆け寄ると彼ら一人一人に抱きついた。リガードは少し照れくさそうにしながら、マモリアを強く抱きしめた。ガーディはあたふたしながらも、マモリア優しく抱きしめた。

姫の波乱とスリルに満ちた冒険の旅が始まろうとしていた…。(つづく)


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世直し姫の冒険〜プリンセスオブジャスティス〜 トガクシ シノブ @kamuizan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ