第2話 秘密の涙


「この婚約は破棄させてもらう!!!!」

かつての婚約者の大声が広間に響き渡る

予想していたとはいえ精神的に結構くるけれど

落ち込んでる暇はない

ここでの立ち回りで今後の私の人生が決まっちゃうんだから

アイリスはさすがに激高(そりゃそうだ今まで真っ当なアドバイスをして

女王になるため努力してきたのにこの仕打ちだもの)

それは悪手

ここで取るべくは…

ふらりと膝から崩れ落ちる

メイドが遠くからかっとんできて私の体の支える

従者が入っていい場ではないけど今それくら咎める人はいない

そして気丈に立ち上がり

「王子が…そうおっしゃるのでしたら…

わたしくしは従うまででございいます」

苦し気に顔を上げその目には

秘密兵器「ラメライナー」

部屋にあった古いアクセサリーの宝石を砕いて糊とまぜて作ったものだ

この時代そんなものはないからこれは当然

「おい、あの氷の妃候補アイリス様が涙を…!」

そうアイリスは人前で涙など見せたことがない

実際私も本当に泣こうかと思って体をつねったり小指をぶつけたりしてみたけど

この体なんと涙自体出ないのだ

悲しかったり痛かったりはするのだけど強烈な意思の力で涙がひっこめられる

この子苦労したんだろうな… どちらかといえばまあまあ泣く子で生きて来た私としては

アイリスにこの時点でかなり同情してしまった

こんな子の苦労もわからず一方的に糾弾する王子にも一泡吹かせたい

とまあ涙がダメならコスメの力

ラメの目元にそっと仕込んだラメのきらめきは正しく涙と受け取られたらしい

集まった要人たちも王子でさえもちょっと動揺している

「おい…アイリス様が泣くって相当だぞ…」

「ちょっといくらなんでもひどいんじゃないかしらねえ…」

そんな声も聞こえる

前世なら泣いて同情なんて割と泣く私でも嫌だけど

アイリスは十分されるべきだと思う

「と、とにかく これは決定したことだ 私はアイリスとの婚約を破棄し

このローズとの新しい婚約を宣言する」

王子は用意していたであろうセリフを気まずげに言ってこの場はお開きになった



「全く、そういう作戦ならば言ってくださればいいのに」

この子は従者のメイ さっき私が倒れた時に従者としてのルールを曲げて

駆け寄ってくれた子だ

「だって誰にも言わない方が本物に見えるでしょ」

私に幼い頃から使えてるメイは私の涙に誰より驚いた

だからまっさきにネタばらししたわけだけど

「まあおかげで妃候補から外れただけでなんのお咎めもなしになったもの

メイが駆けよってくれたことで効果は増したわ」

「…お嬢様らしくない作戦ですね、でもまあいいです

ただでさえあの王子…こんなお嬢様に恥をかかしてるんですから

これ以上何かしてた日には…」

そのあとはさすがに立場上言葉を飲み込んだらしい

「というかお嬢様、なんだか目元がいつもと違うようですが」

「ああこれはね」

作戦の内容をすっかり説明するとメイは納得いったようで

「まあ確かに今日のお嬢様は穏やかなお顔に見えましたね…

いつも氷のまなざしの女王と名高いのに」

「…そこまで言われてたとは知りたくなかったけれど」

メイは主従関係とは思えないほどずけずけとものを言う

最も私が子供の頃から改まった関係が嫌でそう望んだからなんだけど

「しかしお嬢様はずいぶんそのお顔つきで誤解を受けてるのは事実です。

そのあいめいくとやら続けられた方が良いのでは?」

「そうしたいけど肝心の製品が…あ!」

そうだ私妃候補降りて暇になったんだった

「決めたわメイ!私女性のための化粧品を作る!」

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悪役顔の令嬢だけどコスメの力で破滅逃れます! @salad86

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