第二章 弐の羽(1〜3)

    1 静原 古都



 朝の九時を少し過ぎた頃、笹井に聞いた待ち合わせの店へ向かっていた。どこか海外に来た様な路地裏だ。


 昨日は色々な事が起きて、家で頭を整理するのも一苦労だった。


 住所はここだ。Lich Traumeと書かれた看板を確認して店の中へ入った。


「いらっしゃいませ! お一人様ですか?」


 髪の綺麗な女性が声をかけてきた。


「あ、待ち合わせなんですが」


 席をぐるりと見回すと、まだ誰の姿も無いようだ。


「静原 古都さんね?」


 声の方を振り向くと、最初の店員さんに負けず劣らずの美少女が、二階からゆっくりと階段を降りてきた。


「笹井さんに昔から色々とお世話になっています“ みと ”と言います。話は聞いていますので二階へどうぞ」


 透き通るような声に聞き入っていると、みとは二階へ消えて行った。すぐ後を追いかけて、階段を登った。


 カウンセリングと書かれたプレートの部屋に案内され、いい香りのするハーブティーがテーブルに置かれていた。


「あの、笹井さんとはどういう・・・」


「昔からの“ 戦友 ”みたいなものです。私もたくさん助けていただきましたけど、警察というより笹井さん個人に協力しています」


 なるほど。と小さく言ってハーブティーを一口飲んだ。


「そろそろ来たかしら」


 みとが言った瞬間、下の方から声が聞こえた。そして、階段を登る音がする。


「お! 古都ちゃん来てたんだね」


 笹井とその後ろに隠れるように近江 るりの姿もあった。


「え!」


 つい大きな声で立ち上がってしまった。


「昨日あの後、この店で保護されたって電話をもらってね。一度帰って、また来てもらった」


「保護って? あの男はどうなったんですか?」


 昨日、よく利用していた情報屋の“ 田中 ”が大量殺人犯だった事。笹井と調べていた“ 近江 るり ”の居場所が分かったと思ったら、田中と血の付いたシャツ男が現れてバトルが始まり・・・そんな事がいっぺんに起こったからか、まだ頭が追いついていない。


「あの男がここまで連れて来たらしい。着いてすぐ見失ってしまったと教えてくれた」


 笹井が近江 るりの背中を、そっと前に押して部屋に入れた。声が出ないのか、お辞儀をして下を俯いた。


「その男、何故ここが安全だと分かったのかしら」


「何故かは分からないが、みとちゃんの周辺にいる誰かと繋がっているのか、もしくは俺が調べられていたのか」


 淡々と話す二人だが、疑問が浮かんだ。


「あの、何故この店が安全なんですか?」


 古都の質問に二人は一瞬止まった。


 みとが、にやっと笑った。


「蝶が嫌いな匂いを出しているからよ」


 どういう意味か分からないが、それ以上聞きづらい雰囲気だった。


「みとちゃんは、ある人達の保護活動をしているんだ」


「ある人達・・・」


 ますます訳が分からない。古都が首を捻っていると、階段を勢いよく駆け上がってくる音が聞こえた。

 バンッ!と大きな音をたてて扉が開いた。


「こら!何かあったら連絡しなさいって言ったわよね!」


 ものすごい剣幕で笹井の耳を引っ張る。


「いてて。冬花さん速かったですね」


 引っ張っていた耳をパッと話して、こちらをじっと見つめた。


「古都ちゃん?」


 見た事のある顔だ・・・昔・・・。


「え・・・? 冬花さん?」


 思い出した。私の先輩だった、下田 ひろのお姉さんだ。

 昔、ひろと一緒に訪ねた時に何度か会っていた。刑事だと話していた事も薄っすらと思い出してきた。


「お久しぶりです!」


 座っていた椅子から立ち上がった。

 ひろの事件の時は声をかけられる状態じゃなかった。それ以来会わないように避けながらお墓参りに行っていた。


「いつもお花を置いていってくれているのはあなたよね?」


 鼻の奥がつんとして、涙が零れそうになった。堪えながら頭を下げた。

「ありがとうね。余裕がなくて。あなただって妹と仲良くしてくれていたのに」


 声が出なかった。首を横に振って流れ出そうな涙を拭った。


「知り合いだったんですか?」


「それはこっちのセリフよ。なんで古都ちゃんと知り合いなのよ」


「ジャーナリストの彼女とウィンウィンな情報交換をするお友達なんです」


 冬花はにっこりと笑う笹井を冷たい目で睨みつける。


「気をつけなさいよ?係長にバレても、あたしは助けないからね」


 そこは上司として怒らないのか。古都の涙が一瞬で引いた。


「そして、あなたが近江 るりさんね。探していたのよ」


 笹井の横で隠れる様に冬花を見ている。


 るりは病院側からストップがかかり、頻繁な接触は禁止されていて、会うこともままならない状態だった。


「声がまだ出ないのは聞いているわ。思い出すのが辛いのも分かる。でも、早く犯人に辿り着かなければならないの。協力してくれないかしら」


 るりの目の前に立ってぎゅっと手を握った。

 暫く冬花の目を見てから小さく頷いた。



    2 『みと』と『いと』



 全員が部屋に集まって、席に着いた。


「最初に、見てもらいたい物があるの」


 テーブルの真ん中に一冊のシンプルなノートを置いた。


「これって・・・ひろさんがいつも持ち歩いていた物です」


「内容は聞いた事ある?」


「いえ。ただ、怪しい集団か何かを調べているって聞きました。一人で調べるって言って私は同行させてもらえなかったですけど」


「私宛に今日届いたの。一年経って今届くのも謎なんだけど・・・中に書かれている事をどう解釈しようとしても、どう信じればいいのか。私には判断できないから皆にも見て欲しい」


 パーマのかかった髪を無造作に掴みながら険しい表情を浮かべた。

笹井はノートに手を伸ばした。


 ノートの序盤には、ひろの決意のような言葉から始まり『不死』を研究する組織について調べた事が書かれていた。


「不死って・・・まじですか?」


 笹井は半信半疑だが、書かれていることを受け入れようと何度も見返した。

 そのままページをめくると、筆圧がどんどん粗く、箇条書きになっていた。鬼気迫るものを感じ、そのまま読み進めた。


    不死の研究

    葉山せり

    能力者の実験

    蝶の組織

    蝶のタトゥー

    カラス

    いとに会う

    タテハ


「蝶とかタテハとか、そういう組織があるって事ですかね?」


 古都は顎に手を当てて、小さく唸りながら文字を見返した。


「タテハというのは、るりちゃんを襲ったあの男です。古都ちゃんには田中で通していたみたいだけど、色んな名前を持っているみたいなんだ。こいつは、この街で多くの人を殺している殺人犯だ。遺体の近くに必ず蝶を置くというのが奴のスタイルだから、蝶と呼ばれる組織に必ず関係していると思う」


 蝶が遺体付近にある現場は例が無かった為、冬花もひろの事件の事で、同一人物の犯行ではないかという線で捜査もしていた。しかし犯人は特定できずに今日に至る。


 しかし、笹井は何度も接触しているという。そんな報告は受けていなかった。更に不信感が募っていった。


「あ、あの」


 みとは、目を丸くしてノートに手を伸ばした。


「この“ いとに会う ”って所、もし名前だとしたら、私の妹が“いと ”と言う名前ですけど」


「妹さんは何をされている方ですか?」


「まだ学生です。秋乃浦高校の三年生なんですが・・・」


 言いかけた所で笹井の顔を見た。笹井は一度頷いて、テーブルの紅茶を飲み干した。


「今から話す事は、信じる人だけ信じて下さい」


 笹井は突然立ち上がって、両手を顔の横で広げたまま全員の顔を見渡した。


「不死の研究、能力者の実験。書かれている事が現実に起こりうるって事?とても信じられないけど、信じないと話が進まないんでしょう?」


 冬花が話し終えた所で、みとはテーブルのノートを手に取った。


「私の一族は、昔から不思議な能力を持った人間が産まれてきました。私といともその中の一人です。能力といっても人それぞれで、私はほんの少し人の気配に敏感に察知できるだけなのですが、妹は人の痕跡や過去が見える力を持っています」


 いきなりの非現実的な話に冬花も古都も固まった。


「私の一族だけじゃなく、他にも色々な能力者がこの街にはいます。近江 るりさん、あなたも何か力を持っていますよね?」


「え! そうなの?」


 笹井が隣に座ったるりの反応を見る。一度顔を上げたが、また下を俯いてしまった。


「その話がここに書かれている“ 能力者の実験 ”に繋がるのね」


「はい。実験がどういう物かは分かりませんが“蝶の組織 ”と呼ばれる者が、その能力者達を探していて、襲われたり連れ去られてしまったという話も聞きました」


「あの・・・思い出した事が一つあって」


 古都が申し訳なさそうな顔で会話に入ってきた。


「この“ 蝶のタトゥー ”なんですが。昔ひろさんが、手の甲に蝶のタトゥーがどうとかって、電話で話していたんです。電話の相手は分かりませんが・・・」


「蝶の組織とやらが、蝶のタトゥーをいれているって事なのかな?」


「とにかく、いとさんに会うことはできるかしら? もうなんでも信じるしかないみたいだし・・・知っている事があれば何でも聞きたいわ」


 冬花は混乱しながらも、何とか話を受け止めた。


「連絡してみます。学校が終わり次第になるので、笹井さんに連絡をします」


 学校が終わるまでかなり時間がある。一旦こじれた頭を落ち着かせるには丁度いい時間だ。


「るりさんは私達が一度署で保護しますので」


 冬花はるりの肩にそっと手を置いて優しく微笑んだ。



    3 訪問者



 電話の音が世話しなく鳴り続け、バタバタと人の足音が途切れる事無く響き渡る。


「おい!下田と笹井は昨日からどこに行ってやがる!」


 低く太い声で近くの席に座る小平 慎(こだいら しん)に怒鳴った。


「知りませんよ~昨日の夜に緊急事態で2日休むってメールが来てそれっきりです。下田さんも連絡ありませんし」


 怒鳴られ慣れているからか、鬱陶しそうな顔でパソコンに向かったまま答えた。


「ただでさえ人足りなくて色々詰まってるのによ」


 ちっと舌打ちをして、デスクの上の煙草を握りしめながら部屋を出た。

 何日か家に帰っていないせいか、無精ひげが生えて頭もぼさぼさで若干痒い。


 係長としてここの署に就いてから、バタバタと毎日を過ごすのに精一杯で色んな事が疎かになっている。


 一階へ向かう為、中央にある階段を降りていると、がやがやとしたフロアの端で辺りを見渡す不審な男が目についた。

 握りしめた煙草の箱をズボンのポケットに入れてじっとその男を見る。

 遠くから見ていても、落ち着きがなく動揺した様子が分かった。ぐるりと周りを見渡してからゆっくりと男に近づく。


「何かお困りですか?」


 普段はまず使うことの無い営業スマイルで背後から声をかけた。男は振り向いて睨みつけてきた。


「あんた・・・大きい事件を担当したりするのか?」


 顔が真っ青だ。少し震えていて、目をずっとキョロキョロと動かしている。


「まあ、大きな事件というより“ 重い ”事件を担当する事が多いですかね」


「下田っていう刑事を知っているか? そいつに“ カラス ”とだけ伝えてくれ。それで分かるはずだ」


 男はそのまま足早に外へ消えていった。


「影沼係長!」


 二階から小平が携帯を振りながら叫んでいる。


「下田さんから電話です!」


 タイミングの良さに笑みがこぼれた。さっきの男は何者なのか。何にせよ面倒な事が起こると思ったのは、長年の刑事の勘というやつだろう。


 階段を早足で駆け上り、小平から電話を受け取った。


「無断欠勤してどこでお楽しみだ?」


 火の点いていない煙草をくわえて、にやにやと笑みをこぼしながら話し出した。


 小平は影沼が歩いていく後ろ姿を見たまま立ち尽くす。すると背後から声がした。


「珍しいね~。ぬーさんが笑っとる」


 同期で鑑識の音貫 葉月(おとぬき はづき)が驚いた顔でひょっこり現れた。


「ぬ、ぬーさん?」


「影沼だからぬーさん」


 すぐに返答してきたが、それ以上聞くのを止めた。


「俺が配属されてから、あの人が笑ったのは二回だけ。大体何か面倒な事が起こる時なんだよな」


 大きな溜め息で落胆した。


「どんまい!しんしん」


 もはや突っ込む事すらできない程に嫌な予感がした。





 電話を切って、鞄の中の取材ノートを取り出した。


「係長やっぱり怒ってました?」


 苦笑いをして冬花の様子を伺った。


「カラス・・・」


 ヒロが書き残した箇条書きのメモにあった文を指さした。


「あの、ノートにあったやつですか?」


「係長が署内で会った男が、そう言ったそうよ。私に伝えれば分かるだろうって」


 笹井は一瞬固まったが、信号が変わってすぐ我に返った。


「え? その男どうしたんですか?」


「そのまま消えたらしいわ。署に着いたら係長に話聞いて、聞き込みに出るわ」


 冬花の隣に座っている近江 るりは、じっと座ったまま俯いたままだ。


「安心して。あなたは一旦署に行って安全な部屋で保護します。荷物を取りに行って、私の家に来てもらうから」


 聞いた所、近江 るりは小さい頃から祖母に育てられて、今は一人暮らしをしている。


「じゃあ俺は、先に情報集めておきます」


「違法捜査はなるべく遠慮してよ」


 強めの口調で釘を刺す。笹井は不気味な笑みを浮かべている。


「人聞きが悪いですよ。僕はいつも真っ当に聞き込みをしています」


 どの口が言う。署に着いた所で、笹井は車に乗ったまま走って行った。


「さ、行きましょう」


 降りた冬花とるりは署内へとゆっくり歩いて行った。



 笹井の運転する車が停まったのは、署から二十分程走らせた場所で制服を着た高校生がぞろぞろと歩いている。秋乃浦高校と書かれた校門の近くで一人の学生が目に留まった。


 ロングヘアの女子高生がこちらに近づいてくる。


「笹井さんですか?」


 顔が小さく、細くて長い手足。顔はどことなくみと似ている。


「いとちゃんだね。笹井圭です。みとちゃんから聞いているかな?」


 笹井は車の中から、警察手帳を見せた。後ろで睨みつけてくる男が気になるが、見ない様にした。


「はい。姉がお世話になっているそうで、いつも笹井さんの話は聞いています。今回の事も、大体の事は聞いています」


「緊急なんだ。とりあえず乗ってもらってもいいかな」


 いとは頷いて後部座席のドアを開けた。扉が閉まった音がしてルームミラーを確認すると、いとと一緒にさっきの男も同乗していた。


「彼は?」


「いとの幼馴染兼ボディーガードの遊馬 雪(あすま ゆき)ですけど何か」


 棘のある言い方に敵意を感じた。すごく睨みつけてくる。


「ボディーガードなんて大袈裟なんです!能力を持つ人が襲われている事件が増えてるから、姉が勝手に言っているだけで・・・」


「みとさんから頼まれているので、俺も同行しますから」


 いとの言い分を無視して、ふんぞり返った。笹井は色々と察知して少し笑いそうになったが、平静を保ちながらエンジンを掛け直した。


「勿論歓迎だよ。ボディーガードがついてくれるなら心強い」


 ふんっと鼻を鳴らして偉そうな雪を見て、いとはため息交じりに呆れ顔だ。


「着くまでに簡単に話しておくと、例の組織に関する人物が警察署に現れた。しかしすぐに姿を消したらしい」


「私がそこで、痕跡を辿ればいいんですね」


 高校生とは思えない起点の利き方だ。みとを姉に持つだけある。


「話が早いね。優秀で助かるよ」


「姉には話したんですが、下田 ひろさんのノートに私の名前が書かれていたって。私が思い当たる人にそういった人はいませんでした。何か取材を受けたこともなくて」


「そう。どこでいとちゃんの事を知ったかだよね・・・とにかく今は情報を多く集めないと」


 重いエンジン音と共に車は警察署へと走り出した。







 署内にある、使われていない一室の扉が開いた。


「じゃあ、私は少し出るわ。すぐ戻るから何かあったら連絡して」


近江るりの一時保護で使う為に、署内の仲間に部屋の片づけを手伝ってもらっていた。


「はいはい。任せといて~」


 マスクをしていても分かる笑顔の素敵な女性は、敷村 菜津子(しきむら なつこ)という署内の友人だ。事務を担当しているが、カウンセラーの資格も持っている。非番にも関わらず駆け付けてくれた。


 荷物を部屋の隅に置いて、不安な表情をした近江 るりを見ながら扉が閉まった。閉まった途端に、携帯を手にして早々と歩き出す。


「あいつ、絶対何かアテがあって先に行ったな」


 冬花はぶつぶつと言いながら、笹井に電話を掛けた。コール音だけが鳴ったまま出ないので、舌打ちをして切った。


 するとタイミングよく、署の入り口に笹井の車が停まった。冬花はすぐ気づいて車へと向かった。


「あ! 冬花さん。係長に話聞けました?」


 笹井のヘラっとした顔も段々とイラつかなくなってきた。


 署に着いてすぐ、係長が会ったという“ カラス ”について聞いた。しかし絶対に教えてやらないと誓った。


「あんたが隠している事全て吐かないと教えないから」


 笹井の目には、冬花が角の生えた鬼に見えた。


「・・・ええっと。いとちゃんとボディーガード君です」


笹井の後ろから制服を着た二人がひょっこり顔を出した。


「は?」


怒りが一気に冷めた。今さっき集まった時に話していたみとの妹だ。


「彼女に痕跡を見てもらうべく、署まで連れて来ちゃいました」


 紹介されたいとは、軽くお辞儀をしてよそよそしくこちらを見ている。


「・・・聞きたい事は山ほど、そう山ほどあるけれど・・・時間がない。案内します」


 煮えたぎる怒りをギリギリ抑えて、署の出入り口付近へ案内した。


「係長の話だと“ カラス ”と名乗る男は、この辺りの壁に寄り掛かって会話していたらしいわ」


 冬花が壁を指さすと、いとが持っていた鞄を雪に手渡して前に出た。


 片膝をついてしゃがむと、右目のコンタクトを取り始めた。壁に顔がつくギリギリまで近づけて目を見開いた。恐らく周りから見たら異常な行動だろうが、そんな事を気にしている暇もなかった。


「公園が見えます。広くて・・・結構殺風景な」


 何かが見えているらしい。見えたものを淡々と話し出した。


「ベンチがあって、そこに座って辺りを警戒して見ていて・・・なにかに怯えているみたいな顔ですね」


「この辺りの公園だと・・・」


 笹井は言葉を詰まらせた。そこではないと思いたかった。突然頭の奥に痛みを感じた。


「秋來公園(しゅんらいこうえん)・・・例のバラバラ事件があった公園ね」


 笹井の変化に気づいたが、冬花はそのまま話を続けた。


「私が行く。名指しされたのも私だし。二人はここまでで、協力に感謝します。後日改めてお礼に伺います」


「お気をつけて。この男が怯えているものは何か分かりませんが、こちらに危害が及ばない保証はありませんから」


「ええ。笹井に送らせます」


 笹井はハッとして車へ向かおうとしたが、いとが引き留めた。


「大丈夫です。雪もいますし、そんなに遠くないので歩いて帰れます」


 どこまでもしっかりした子だと、冬花も感心した。頭を深く下げて、急いで秋來公園へ向かった。

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