第22話 試験内容
特待生についての説明の後、話は入試科目へと移っていく。
「試験は筆記試験、実技試験、面接の3つに分かれる。
筆記の内容は読解、計算、王国史、人物史、素材知識、魔物知識の6科目だね。それにさっきの論述が追加される。
実技は戦闘科と生産科でそれぞれ違う。戦闘科は武器術と魔法と総合戦闘、生産科は生産術と魔法と探索術だよ。
面接はそのままだね。ただ受験生1人に対して面接官は5人以上は居るはずだからそういう場に慣れてない子は大変だろうね」
暗にユリスならば面接も問題なく突破するだろうと言っているようだ。
「思ってたより科目が多いですね。読解とは何をするのですか?」
「読解は報告書のような文章を読んで各設問に答えるっていう科目だね。何を報告したいのかとか報告書の中で問題点として挙げられているものは何かとか、そんな設問が多いね。
他は大体わかると思うけど筆記試験中はスキルを使っちゃダメだからね。そこは気をつけるように」
「わかりました」
(やっぱ鑑定はダメか。使うと何かしらでバレるようになっているんだろう。
そうなると自力で解くしかないが歴史はまずいな…全く知らん。知識系は問題なさそうだが、逆にどこまで書けばいいのかの加減が分からん。採点者が知らない内容だと不正解にされかねないし。
…あれ?そう考えると筆記って結構やばいのか?)
釘を刺されたユリスは自力で解くことに決めるが、そこで思ったよりも筆記で落ちる可能性があることに気づく。
「ユリスちゃんどうかしたの?何か不安なことでもあるのかしら?」
「いえ…よく考えたら歴史には疎いし、素材や魔物は知っていてもどこまで書いていいのか分からないしで結構筆記がまずいのでは…と思いまして」
「筆記で落ちるとなるとちょっと問題ね…
そうだわ!ユリスちゃん、入試まで泊まっていきなさい。図書室から試験範囲の本を持ってきてあげるからここで勉強していけばいいわ」
「…え?
それはありがたいのですけど部外者がそんなに長期間王城に滞在してもいいのですか?」
シャルティアの提案に驚いたユリスは本当にいいのかディランに確認をする。
「うーん…父上に確認をとる必要はあるけど、まあ大丈夫じゃないかな。
ただ、今もそうだけど他の貴族にバレるとまずいから離宮の外には出ないでもらうことになるね」
どうやら満場一致で賛成のようだ。シエラは言わずもがなで早速お世話をするのだと張り切っている。
(もしかしたら滞在期間が伸びるかもって話だったが気に入られた…のか?にしてもいきなり2ヶ月も延びるとは)
「わかりました。
許可が出るようでしたらお世話になります」
「うん、了解したよ。
さて、筆記はこれで何とかなるだろう。
実技は…まあ中級ダンジョンを攻略できるんだから戦闘科なら落ちようがないよね。生産科でもあの魔道具作成の技術があれば大丈夫だろうし」
(そう言われても筆記みたいに落とし穴があるかもしれないしちゃんと聞いておかないと)
「とりあえず内容を聞いておきたいので教えていただけますか?」
「うん、構わないよ。
まず武器術だね。内容は学園の施設にダメージ測定器というアーティファクトがあるんだけど、それに向かって武器で攻撃するというものだよ。制限時間は30秒でチャンスは2回。一連の動きでの総合ダメージと技量を見るんだけど…何故か一撃のダメージだけを重視する子が多いね。
次に生産術。これは1番自信のある生産を試験官の目の前で行うという物なんだけど、あまり時間がかかり過ぎるものは減点となる。最大で1時間かな?ただ、10人前後で同時に行われるから、競ってスピード勝負みたいになる場合が多くて例年では30分で終わってるかな」
「なるほど、その制限時間だと魔道具を選ぶ人は少ないでしょうし狙い目ではありますね」
「まあそうだけど、戦闘の修行をするつもりなら戦闘科でないと厳しいよ?関連施設の利用申請とかは対応する科が優先されるから」
「あー…そういうことなら戦闘科ですね。
武器術…素手はダメですよね?」
「過去に例がないからなぁ…まあ、一応武器術だし格闘でもガントレットとかを着用している子しか居ないからやめておいた方が良いよ。
総合戦闘なら別に構わないけどね」
「そういえばユーくん、ボスも素手で戦ってたもんね…武器使えるの?」
「武器なら一通り使えるよ?1番得意なのは軽めの剣。ただ、気軽に使えるスキルだと威力は素手格闘の方が圧倒的に高いし、本気のスタイルで使うとなると手に入るレベルの武器じゃ数セット攻撃しただけで壊れるくらい消耗が激しくてね。戦闘中に壊れるのも嫌だから素手メインにしているんだ。
まあでも、この前いいナイフが手に入ったから試験ではそれを使おうかな」
「へー、他の武器も使えるんだ。
そういえば兜割も使えるんだし得意な剣なら相当なはずだよね…今度見てもらえない?」
「…離宮内だと無理だろうし入試が終わってから時間がある時にね」
続いて生産科の探索術について説明されるがなんて事はない、ただダンジョンを再現した空間に潜って指定の素材を採取してくることだそうだ。魔物は出ない設定にしてあるそうで素材の知識や選定眼を見られるとのこと。
戦闘科に決めたユリスではあるがダンジョンを再現してた空間というものが気になってしまい、若干心揺らいでいる。
だが、その後にアーティファクトを使用するが戦闘科でも利用の機会はあると聞いて、じゃあ戦闘科でいいやとすぐに軌道修正するのであった。
「聞き忘れてましたが、武器術試験ではスキルとかでステータス強化はしても良いんですか?」
「魔法でない強化系のスキルとかなら発動しても大丈夫だよ。
ただ、武器に魔力を纏わせたりしていると違反になることもあるから注意だね」
(魔纒は微妙そうだし、念のため発動しないでいた方がいいな。魔力還元は消費するけど纏う訳じゃないし大丈夫か?違反にされる可能性はあるけどチャンスは2回って言ってたしダメ元で使ってみるか)
「次は魔法だね。これは魔法とあるけど別に魔力をメインに使う遠距離攻撃なら何でもいいという感じで結構判定はゆるいんだ。
遠くの的を破壊する試験なんだけど、見る内容は威力と命中精度、全破壊するまでの時間の3つだね。」
魔法とは『〜魔法』というスキルを覚えていると使用できるもので、発動には各魔法に対応する魔法名を発声する必要がある。発動できる魔法の威力や規模、軌道などの要素がほとんど予め決まっており、ただ発動するだけなら術者が決めるのはターゲットくらいなものである。
応用力は低いが魔法書などに記載されている習得条件さえ満たせれば、容易に習得出来ることから幅広い層に使用されることが多い。
一方で属性魔法の才能が壊滅的だと言われているユリスが使うのは変質や上位変換と操作を併用し、属性変換した魔力を直接制御して魔法のような現象を起こすというなんちゃって魔法だ。
初めの頃は魔力を放出してぶつけるくらいしかできなくて近接戦闘の補助としてしか利用できなかったが、今ではオリジナルの魔法を超える威力を出すことも可能になるうえ、色々と自由度が高いためにユリスは密かに魔法って制約があるし結構不便なんじゃ…?と考える事もしばしば。
ちなみにこの魔力の属性変換を利用した魔法のような技術は制御方法こそ人によって異なるが魔術と呼ばれて一部では認知されている。もっとも使い物になるまでの難易度が高過ぎるために全く普及はしていない。
「最後に総合戦闘。これは試験官と1体1で模擬戦をするというものだよ。まあ総合戦闘というだけあってなんでもありだし、HPが0になった時点で場外に転送される特別な施設で行われるから思いっきりやっていいよ。
これは実戦的な技量や対応力を見る試験で、試験官を倒せなくても大丈夫。例年だと試験官を倒せる子は1人いるかどうかってところだね」
「試験官って20レベル台の騎士が務めることが多いから、ユーくんなら楽勝ね」
シエラから試験官の情報を教えられる。同僚がやっているのだから間違いないのだろう。ただ、試験官も評価に影響があるので秒殺は無いにしても結構本気でくるそうだ。
「ふーん、ならちょっと本気出そうかな。爆散しなければいいけど…
それで、残りは面接ですね。何か注意事項とかはありますか?」
何やら物騒なことを言っているユリスが面接についてディランに聞くが、纏っている雰囲気から何かあるようだ。
「面接ね…
普通の注意事項としては主に人物の思想について探ってくる質問が多い。それと、たまに不意を突くように問題が出されることがあるからそこに注意って感じかな」
(雰囲気が変わったな…
なんか厄介なことでもあるんだろうか)
「…普通じゃない注意事項もあるんですね?」
「さっきも言ったけど相手側が5人以上居るみたいなんだ。それだけならよくあることだし気にしないんだけど。前に気になる情報が上がってきてね。
何でも面接官の一部が平民に対してかなり威圧的な態度をとっていたそうなんだ。そして反発した子は思想に難ありとして低評価にされたと聞いている。
もし面接官に学園長がいない場合は同じことが起きるかもしれないから後で報告してもらえるかな?学園長がいた場合は何かされたら好き勝手やっていいよ」
ディランからまさかの面接官に対する反撃許可が出てしまった。
「分かりました」
(おそらくその面接官を解雇したいんだろうな。学園長には話を通しておいてくれるみたいだし何かしてきたら徹底的に叩いてやろう)
試験について大体を聞き終わり、他に何か聞きたいことはあるか聞かれた時にユリスはずっと気になっていたがなかなか切り出せなかったことを聞いてみた。
「え?今回の件で使用した月光蘭の薬のレシピかい?」
「はい、褒美としてでも構いませんので教えていただくことは可能でしょうか?」
(試験に集中したいし、出来れば懸念事項は無くしておきたい)
ユリスの言葉を聞いたシエラの雰囲気がそれまでの緩い感じから緊張へと一変、それを見て何かあると察したシャルティアが横から助けを出す。
「ディラン、あなたが苦労して解読したレシピなのは分かっているけど教えてあげることはできないかしら?
なんとなくユリスちゃんには教えてあげておいた方がいいような気がするのよ」
「……分かりました。少し待っていてもらえるかな」
ディランが紙に材料や製法を書き出していく。
待っている間にシャルティアが心配そうに尋ねてくる。
「ユリスちゃん、この薬に何かあるの?」
「いえ、おそらく薬自体に問題があるわけではないのですが、少し気になることが…
容体が良くなっているのであれば王女様は大丈夫でしょう」
「そう、それならよかったわ。でも気になることって…?」
「はい、書き終わったよ」
「ありがとうございます」
ディランがレシピを描き終わりユリスに手渡す。
その中身を見たユリスは目を閉じて天を仰いでしまう。
(……やっぱりか)
「そのレシピに何か問題があるのかい?」
「いえ、レシピには問題はありません。
私が師匠から受け継いだレシピにも同じものがありますので、出来上がるものは確かに兎獣人用の薬で合っています。
ただし…解毒薬ですが」
ユリスの言葉に2人の顔が驚きに染まる。
「な…解毒薬!?
ならカレンの容体がよくなったということは…」
「ええ、病気などではなく毒に侵されていたということでしょう。
魔物毒の中には病毒という病に侵されたような症状が出るものがあります。鼠や蝙蝠の魔物が持っていることがあるのですが、思い当たるとすればそれくらいでしょうか」
「なんてこと…!!
王城に魔物が潜り込んでいるってことなの…?」
「それは分かりません。
私も師匠が持っていた図鑑でたまたまそういう魔物がいることを知っただけですから実物は見たことありません。もしかしたら似たような毒を人が作れるのかもしれませんし、どこかの神造ダンジョンでのドロップ品や天然ダンジョンでの採取品にあるのかもしれません。
判明するかどうかは分かりませんが、一度王女様の周辺や献上品を徹底的に鑑定してみた方がいいでしょうね」
「そう…だね…
ユリスくん、すまないが今日はこれで終わりでいいかな?」
(流石にこの話を聞いて和やかに会談は無理だろうな)
「ええ、構いません。
それでは失礼します」
「ごめんなさいね。
図書室の本は明日には持ち出せるように手配しておくわ。多分夕方ごろになると思うけどシエラちゃんに持ってきてもらってちょうだいね。
シエラちゃん、後はよろしくね」
「かしこまりました」
ディランとシャルティアを部屋に残してユリス達は退出していく。
「あ、そういえば万能正常化薬のこと言い忘れた…まあ容体は良くなっているみたいだし別にいっか。
シエラ、容体が悪化し始めたら渡してあげて」
「ん、分かったわ。
今の心理状態であんなすごいものを見せるのはちょっと不安だしね。ただ、カレン様がちゃんと治るまでよ?
それ以降はユーくんに返すからね」
何であろうと全て治してしまう薬という特大の爆弾は今回は落とさない事に決まったようだ。これによりディラン達の心はこれ以上荒らされることなく、かろうじて正常と言える状態で報告へ向かう事ができたのであった。
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