第23話 国王への報告

―――sideディラン


ユリスから告げられた毒の存在に強く揺さぶられながらも2人は何とか平常心を保ち、今後の動きについて話を擦り合わせる。


「ふう…なんとも厄介なことになりましたね。まさかあの薬が解毒薬だったとは…あの解読できなかった部分なのでしょうね」

「ええ、でも原因を突き止めないとカレンの安全は保証されないわ」

「とりあえずは父上に報告、その後にカレンの部屋を確認ですかね。

 慌てて行動して犯人に気取られてもいけません」


魔物が入り込んでいたらもっと他にも被害があるだろうと誰かが毒を盛った前提で話を進める。


「そうね、容体は良くなっているのだから慎重にいきましょう。

 ジルバへの報告も最後にした方がいいでしょうね。この話を聞いたら他の報告なんて頭に入らないわ」

「分かりました。では少し早いですが行きましょうか」


ディランとシャルティアは軽く打ち合わせをしてからジルバの元へ向かうのであった。


「父上、よろしいでしょうか?」

「ディランか?シャルティアも一緒か。

 予定より少し早い気もするが…まあよいか」

「報告の内容が濃いので少しでも長くと思いまして。

 とりあえずユリスくんは学園に入ることを了承してくれました」

「おお、そうか。それは一安心だ」

「ただね、ユリスちゃん結構筆記がまずそうみたいでね。泊まる期間を延長して勉強してもらおうと思うの。図書室から教材を貸し出せばいいしね」

「筆記が?受け答えを見るに教養はありそうだったが」

「ええ、頭は悪くないのよ。むしろ規格外と言っていいレベルよ。

 ただ、王国の歴史を知らないのと素材とかの知識がありすぎてどこまで書けばいいのか分からないそうよ」

「正しい知識でも採点者が知らないと不正解になる恐れがありますからね。王都の常識を知るという意味でも学ばせた方がいいと思います」


(常識を学ばせないと、どんな情報をポロッとこぼすかわからないしね)


「ふむ、頭の良さが仇になるとはな。

 して、宿泊の延長だったな。それは構わんぞ。

 ただくれぐれも他の貴族にはバレんようにな」


どうやらユリスの王城暮らしはまだ続くようだ。


「そして身分証発行の段階になって彼の師匠の正体が判明したのですが、どうやらサラ・フローウェンのようなのです」

「ああ、手紙で予想はついていたがやはりそうだったか。

 いやはや、まさかダンジョンに隠れ住んでいたとはな…道理で見つからないわけだ」

「?父上、知っていたのですか?」


内心驚く顔を期待していたディランは肩透かしを食らってしまい、どことなく不満そうである。

その事に気付いてはいるジルバだが、どこ吹く風で理由を明かす。


「ああ、ユリスから手紙を預かっただろう?

 あれはサラが書いたものだ。もっとも我とアリシアにしか分からない書き方だったがな」

「あら、2人はサラと面識があったの?」

「まだ若い頃にな。一時期王族に対して魔法の手解きをしていたサラに師事をしていた事がある。

 それが終わってからはサラが工房から出てこなくなってしまったから婚約が決まっていたアリシアと2人で遊びに行ったりしていた。故に他の者達よりはそれなりに深い付き合いだったと言えよう」


そう言って2人に見せてきた手紙には

『この手紙を持ってるユリスって子は私が拾って鍛え上げた正式な弟子だから世話してあげて?実力は相当なレベルだけど一般常識までは教えきれなかったわ。私は仕事をしなきゃいけなくなったから兄弟子としての務めを果たしなさい。

 それと、生成ダンジョンに興味があるみたいだから身分証を作るのも忘れないように。

 貴方の憧れ、優しい魔女さんより』

と書いてあったが、2人には文面からサラだと判断する事は不可能だ。王都で1番有名なジルバ宛、兄弟子という単語、送り名の書き方からジルバはサラだと判断出来ただけなので関係者以外にはまず無理だろう。


「だが、ある時急に居なくなった。それ以来は音信不通だったし消えた理由も不明だ」

「何でもサラは研究者気質だったそうでして、工房での仕事を嫌がっていたようです。本人が厄介だと言うような人物にも絡まれていたそうですが」

「はあ…褒賞として与えた物が間違っていたということか。まあ、何も要らないの一点張りだったし国の利益を取った先々代を責めることは出来んな」

「あら、そんな前の事なの?

 弟子だからかユリスちゃんも似た気質のようね。押しには弱いみたいだからこっちで用意したものは受け取ってはくれるだろうけど、変に自由を制限するようなものだとサラと同じように途中で居なくなっちゃいそうね」

「それを考えると今回の褒賞の内容は正解でしたね。宝物庫のリストに興味津々でしたし。

 ああ、収納のスキル石の件は完了しましたよ。宝物庫に移してあります」


シャルティアをきっかけに話題はサラからユリスが作った湯沸かし器へと移っていく。


「そうか。確かに家名を継がせるなら箔付は必要になるか」

「弟子となると偽物も多く出ましたからね。技術を叩き込まれたと言っていましたし、念のため腕前を見ることにしたのですが…」

「すごいものが出来ちゃったわよね。」

「すごいもの?一体何が出来たのだ?」

「湯沸かし器ですね。

 既存の水道に取り付けることで湯を出すことができるようになります。温度調節も可能なので水のまま使用することも可能です。

 そしてこれが1番大きいのですが、水道の方にも手を加えたことで起動するだけで風呂場に5分程度で湯を張ることが出来ました」

「ほう…!それはいい!

 それなら国民の清潔感も増すだろう。流石はサラの弟子ということか」

「まったくです」


(清潔感が増せば心にもいい影響があるだろうし、国全体の活気が増せばいいのだけど)


湯沸かし器という新しい魔道具の誕生。長らく停滞していた魔道具業界に一石を投じたという点もそうなのだが、それ以上にユリスが生活魔道具の作成というサラの弟子に相応しい働きをした事にジルバは喜ぶ。


「ああそれでなのですが、販売したら売れることは間違いないので今のうちから魔石を集めております。物価には大きく影響しない範囲で少しづつ買っているので、その辺はご承知ください」

「…そうか、お前だったか」

「え?」


(何か問題があったのか…?

 いや、物価には影響しないよう細心の注意を払っていたから大丈夫なはず…)


「いや、先程までフォーグランドと話をしていてな。

 魔石の価格が微妙に上がり始めているから誰かが事業を始めるのだろうと言っておったよ」

「流石はフォーグランド卿ですね。細かな動きまで把握している上にそこまで察しているとは」

「まあ、鉱石の件のせいでフォーグランドには苦労をかけているからな。

 別の仕事としてあいつには物価の監視を依頼している」

「なるほど、そういうことでしたか。

 とにかく魔石に関してはもう少し慎重に集めていきます」

「うむ、そうしてくれ。

 それにしても、なんとかフォーグランドには持ち堪えてもらっているがもう1年も保たん。それまでにベルクトをなんとかしないと魔道具の普及も難しくなってくるぞ」

「ヨシュア・ベルクトですか…」


(鉱石の供給元だし黒い噂もあるけど、真贋がはっきりしないんだよね。

 何かのきっかけで強制的に捜索出来れば何とでもなりそうなのに)


「いやすまんな、話の腰を折ってしまって。

 報告を続けてくれ」


ベルクト家の話が出て部屋の空気が若干重たくなってしまう。気を改めてひとまずは報告が先だとジルバが続きを促すが…


「次は…何でしたっけ?」

「えーと…最後のインパクトが強すぎて、飛んでいっちゃったのよね。

 …あ!鑑定じゃないかしら」


最後にユリスが落とした爆弾のせいで2人ともそれまでの会話が曖昧になってしまっていたようだ。


「そうでした。

 収納のスキル石50個を作ってもらったのですが、その時にユリスくん鑑定項目の増やし方を知っていることが判明しまして」

「おいおい、しっかりしてくれよ。

 それにしても鑑定か…たしかフォーグランドは急に増えたと言っていたはずだが方法があったのだな。

 あいつも20年前くらいまではどうにか鑑定の使い勝手を良くしようと調べていたようだが、結局匙を投げたテーマだぞ」

「私も同じような感じですね。ちなみにその時にレベルの上がりづらさについて言及したらそちらにも心当たりがあるそうで」

「ほう…!それが分かればかなりの発見だ。して、その心当たりとはは結局何なのだ?」

「内容については入試の論述で書くように言っておきましたのでまだ分かりません。

 母様に言われて気付きましたが、この内容なら成績次第で第1種になれますから」

「危うくそのまま聞いちゃうところだったわ」

「確かに。第1種になるならその方がいいか…気になるがな」

「確かに気になりますが2ヶ月我慢しましょう。

 それと、彼は奥義も習得しているそうですよ。少なくとも攻撃系と強化系を1つずつ持っているようですね」

「まあ奥義持ちなのは納得だな。……ん?強化系でなんて出来るのか?」

「…出来たみたいですね。

 本人は何でもないようにシエラに教えてましたよ」


ディランからユリスの様子を聞いてジルバは思わず呆れてしまう。やはり早急に一般常識を学ばせる必要があると再認識されてしまったようだ。


残る報告は解毒薬のことだけになり、シャルティアの雰囲気が変わる。


「さて、残る報告は1点ですが…

 カレンの使用した薬についてです」

「薬だと?あれに何か問題があったのか?」

「どうやらユリスくんがサラに教わったレシピの中に同じ薬があったようなのですが、製法に問題はないとのことです。

 ただし、その薬は解毒薬であると」

「何?……!!」

「成果があるかは分かりませんが、この後にカレンの部屋を調べてみるつもりです」

「分かった、誰にも勘付かれないよう気をつけろよ。

 シャルティアがいればいつもの見舞いだと誤魔化せるだろう。念のためついて行ってくれ」

「分かったわ。

 それで、もし分からなかったらユリスちゃんに一度カレンを診てもらおうかと思ってるんだけどいいかしら?」

「母様?」


ディランも同じことを考えてはいたがまだ相談はしていなかったため驚いている。


「なんだ、シャルティアの思いつきか?

 まあユリスならいいだろう。ただシエラも連れて行け。彼女もよく気がつくようだし多少はストッパーにもなるだろう」


2人のやりとりを見てディランには別の驚きが出てくる。ジルバは国王というだけあって、そう簡単には他人を全面的に信用しない。そんなジルバが1度会っただけで娘のことを任せるのは異常と言っていいだろう。ユリスは間違いなく人が良いのだろうという証でもある。


「それにしても3日でこの内容か…濃いな。

 シャルティア、ディラン、おそらくこの先ユリスは王国にとって重要な人物になるだろう。

 我も気には留めるがそこまで時間は割けん。2人でサポートしてやってくれ」

「ええ、もちろんよ」

「はい、分かっています」


(個人的にも気に入っているしね。十中八九私より知識は深いだろうし今度専門的な話もしてみようかな?)


先程はジルバの対応に驚いたディランだが、結局のところ彼も既にユリスを信頼してしまっているのだ。さらに王国を代表する研究者でもある自分の知らない知識を持っているとなると気になってしょうがない。思う存分ユリスと語り合えるのはいつになるだろうと内心かなり楽しみにしているのであった。

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