第21話 謁見の裏側

―――sideジルバ


ユリスがディラン達と交流をしている一方でジルバはとある貴族と会談をしていた。


「フォーグランドよ、わざわざすまなかったな」

「いえ、陛下直々の依頼ですし我が家としても利はございますのでお気になさらず」

「そうか。では、報告を聞こうか。

 お主の目にはあの者はどう映った?」

「あの謁見での受け答えの内容、態度ともにとても子供とは思えませんでしたな。

 ただ、退出時のあの行動…実験とでも言いましょうか。あれの結果を鑑みるに本当に14歳なのでしょう。

 しかし、あの魔道具にあんな誤魔化し方があったとは。今後は信用しすぎると危ないかもしれません」

「そうだな。その辺も考える必要があるだろう。だが、嘘をついているかは分かるようだから返答内容を制限すればまだ充分に使えるだろう。

 年齢については本人に遠回しに伝えて反応も見たが、やはり偽りはなさそうだ」


2人が懸念をしているのは謁見室にある魔道具についてである。範囲内で嘘をついた者がいると光るという効果から長年運用してきたのだが、ユリスの実験により言い回しひとつでいくらでも誤魔化しが可能である事が判明。それによって今後の運用方法の変更を余儀なくされている。


「して、お主のスキルではどうだった?」

「はい、まず鑑定をしましたが家名もありませんでしたし名前に偽りはありません。レベルは35でしたので姿については偽っているでしょう。

 狐獣人なら身体変化を持っている可能性は高いですし、毛色も違う可能性は十分にあります。

 次に力の天秤の結果ですが、強くも弱くも感じませんでした。これまでの経験から言うと、私と同等ということになります」


どうやらユリスの実力について話しているようだ。

フォーグランドと呼ばれた貴族が持つ『力の天秤』というスキルは相手がどの程度の力を持っているか感覚的に分かるというユニークスキルである。

ここでいう“力”は戦闘において対象が現状最も得意だとしている立ち位置における力量のことであるが、バフ系のスキルなどは考慮されないため、対人だとあくまでも参考程度にしかならないという欠点もある。


「お主と同等か…

 高威力かつ長距離の狙撃魔法を駆使して一方的に魔物を倒していくお主の技量とバフ無しで同等となると…もし狐獣人でありながら近接型なのだとしたら末恐ろしいな」


ユリスの場合はバフなしでも魔力系のアビリティは異常と言っていいレベルだが、戦闘スタイルは近接である。あくまでも立ち位置での判定なため、物理系のアビリティと近接戦闘の技量が力の天秤による比較対象となる。

同年代と比較しても低いはずの物理系アビリティでありながらもユリスは遠距離のエキスパートと評されるフォーグランドと同等の力量。つまりはジルバの予感通り近接の技量がおかしい事になっているのだが、2人がその真実に辿り着く事はなかった。


「まあ、おそらくは遠距離型でしょう。だとしても私の立つ瀬がありませんがね。

 それよりも私が気になるのはレベルです。

 私は現在レベル46ですがそれだけ差があるのに同等の力量です。まあレベルではアビリティはあまり上がりませんが、高いレベルはそのまま戦闘経験の高さとも言えます。それを考えると強力な紋章やスキル、もしかしたら奥義も持っているかもしれません」

「そうだったな。単純に修行ばかりをしていて戦闘技術が高いというのもあるが、それはそれで手に負えんか」


(あやつの力量も未知数だが周囲への影響を考えると有する知識の方が危険だな)


「それと気になることがありまして。

 どちらかは分かりませんが発動に気づかれた可能性が高いのです。感知方法は不明ですが発動後に私に対してピンポイントで視線を送ってきました」


国王はフォーグランドの話を聞いて思わず頭を抱えてしまう。


「聞けば聞くほど規格外の存在に思えてくるぞ。とてもではないが問題を起こした場合に抑えられる気がせん。

 シャルティアの近衛であるシエラが信頼しているようだし、話をした感じも人柄に問題がなさそうなのが救いか」

「ですが、王都にとどまらせておくことが出来ればかなりの戦力になることは間違い無いでしょう。

 14歳ですし学園にでも入れて、試練を受けさせてしまえば引き込むこともできるのではないですか?」


「やはりお主もそう考えるか。

 一応学園を勧めてはおいたがその辺はディランに任せてある。だが、果たして学園に入っても抑えられるかどうか…」


「そういえば、お主の子供もそのくらいではなかったか?」

「ええ、下の娘が14歳ですね。婚約者が決まってからと思っておりましたが、流石に今年は受験させようかと思っております。特待に合格すればそのまま入学させるつもりです。

 もしあの者が入学するのであれば娘と交流させるのもいいかもしれません」

「まあ、強制はしないようにな。

 それと、退出の僅かな時間で魔道具を見極めるだけの知識を有していることを知ったディランが何やら画策しておるようだ。

 今後の展開次第ではお主の手を借りるかもしれん。その時は頼むぞ」

「はい、かしこまりました。

 魔道具のことなのであればお任せください」


ユリスについての話が終わり、話題は王都で起きている問題に移っていく。


「さて、現在の末端の物価はどうなっている?」

「はい、やはり鉱石全般が突出して上がっております。

 鉱石以外だとほとんどのものは大きな変動は見られませんが、魔石については少し上昇の兆しが見られます」


(全般だと?まさかヴェルモットまでが…いやそれはないだろう)


「特殊鉱石もか?」

「ええ、鉄や銅などの価格が炎鉱石などの特殊鉱石とそこまで差が無くなってきております。

 そのために、特殊鉱石へのハードルが下がってしまっているのでしょう。こちらは需要が上がったことによる物価上昇なのでヴェルモット卿に依頼すればそこまで問題になることはないと思われます」

「そうか…まだベルクトのみでよかったと言うべきか。

 今の現状で他の貴族まで変な動きをし始めたら対応できるかどうか分からんからな」


一瞬、ジルバの頭に最悪の展開がよぎったが杞憂だったようだ。


「やはりベルクトをどうにかしないとダメだな…

 だが、大義名分が用意できんことにはどうしようもないか。

 人員はそのままで採取量が低下していると正式な報告書を見せられてしまえば何も言えん。査察も上手いこと誤魔化しているようだし、どうするか…」

「ええ、これ以上高騰する品目が増えるのは国民感情を鑑みても不味いです。

 私のところにもまた鉱石の供給を絞るか価格を上げるか選べという内容の文書が来ましたし、放っておけばまだまだ止まらないでしょう。

 我が商会でも今の価格設定だともう3割くらいの赤字になっています。

 陛下からの依頼として報酬をいただいておりますから、あと1年くらいは何とか持たせられるかもしれませんが、それ以上は厳しいでしょう」


(後1年か…早いところ何かきっかけだけでも掴まんとな)


実はフォーグランド家はサラの設計図にあるような生活魔道具の製造と販売を事業とする商会を主として営んでいる貴族である。

国としては生活魔道具の価格が高騰するのは好ましくないため、意を汲んで価格を抑えてくれているフォーグランド家にジルバから適当な依頼をする事で報酬を渡して援助しているのだ。

だが、それでも鉱石の高騰により事業の継続が難しくなってきている。

やり方があからさま過ぎるため鉱石高騰をベルクト家が主導している事は明白であるが、不正の証拠が巧妙に隠されているのでなかなか踏み込めないでいるのだ。無理な捜査をして正当に報復をさせる理由を与える訳にもいかないと慎重になっているせいで、成果はほとんど得られていない。


「そういえば、魔石も上昇していると言ったか?」

「ええ、ここ数日のことなのですがどうやら何者かが複数の窓口から多めに購入したようなのです。

 まあ、何か事業を始めようとする者が現れる時によくあることですし、物価を上げないように配慮しているみたいなので様子を見て判断で問題ないとは思います」

「ふむ、高騰を促進させるような事態にならなければ良いが…」



一方その頃ユリス達は…


「え?もう注文してるんですか?」

「ああ、鉱石については供給自体が少ないからどうしようもないけど魔石については問題ないからね。

 早めに注文しておかないと予想される需要に追いつかないから今のうちからね」

「後でちゃんとジルバに報告しておきなさいね?」

「はい、分かっています。湯沸かし器の試作が出来てからと思っていましたので戻ったら報告しますよ」


ジルバは湯沸かし器の普及をさせるためという理由で魔石を買い漁っているものが身内にいようとは思ってもいないのだった。

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