第17話 王族との交流

「さてユリスよ、そちらからは何かあるか?」

「はい。その前に確認したいのですが…シエラ、あの手紙はまだ持ってる?」

「え!?あ、うん。渡しそびれてるからまだあるよ」

「じゃあ、渡してもらえる?」

「うん。陛下、こちらを」


シエラはユリスから預かった紹介状をジルバに手渡す。

そう、サラが王都で1番有名なジルバに渡せと言っていたあれである。国王の名前がジルバなのだからそれ以上に有名な人物は居ないだろうという事である。


「そちらは私の師匠から預かった紹介状なのですが、王都で1番有名なジルバという人物に渡せと言われておりまして…」

「ふむ、まあその条件なら我になるか。

 何か仕込んである訳でもない…か。中身は…

 ……ふっふっふ。ああ、そうかそうか。やはりまだ生きておったか」


手紙を読んで急に笑い出したジルバを皆驚くように見つめていたが、しばらくして落ち着いたジルバは視線を気にも留めずに話を続ける。


「ときにユリスよ。

 今後の目的などは決まっておるのか?」

「いえ、今のところは決まっておりません。

 探索者になって生成ダンジョンに潜るか、神造ダンジョンを巡って修行を続けるのもいいかなと考えてはおりますが」

「そうか、決まっていないのであれば学園へ入るのはどうだ?

 基本的に12から15歳の間で入学なのだが、退出時のあれを鑑みるに14歳なのだろう?生成ダンジョンも使えるし修行にもいいと思うぞ。

 ああ、身分証についてはこちらに任せておくといい。お主の師匠にも頼まれた事だしな」

「そう…ですね。

 選択肢の1つとして考えてみます」


(やっぱサラと知り合いだったのか?大丈夫だと言っていたがここまですんなり話が通るとは)


ダンジョンの話は終わったが、どうやらユリスを王都に引き留めておきたいという意図もあるのか学園への入学を薦められる。

退出時のお遊びのことを指摘されてしまったことで否定しづらいというのもあるが、ユリスはサラからの薦めもあり純粋に学園…というか生成ダンジョンに興味があったので前向きに考えている。


「学園についてはディランの担当だから詳しく聞くといい。

 それとディラン、既に用意してあるかもしれんがユリスの正式な身分証を作る手続きもしておいてくれ。

 ではユリスよ、我はここで退出させてもらおう。

 レイト、行くぞ」

「はい、かしこまりました。

 では皆様失礼致します」


国王と宰相が退出していったが、ディランはまだ話があるようで沢山の書類を携えている。


「さてと、とりあえず学園の話は後にしておこう。

 まず報奨金だけど構築盤で白金貨10枚、月光蘭は状況も鑑みて白金貨100枚ということになった。

 後は要望通り1割はシエラに支払われるからね。」

「ちょっとユーくん?要望ってどういう事?

 なんで私が貰うことになってるのよ!」

「構築盤も随分と高いですね?

 今後もこの金額なんですか?」


シエラが文句を言っているがユリスはスルーして話を進める。


「まだ王都にない種類だったら今後も同じ扱いになるかな。

 あと今回は中級だからというのも考慮されているよ。王都が今1番欲しているのは中級の構築盤だからね」

「確かに、下級しかない状況でいきなり上級を渡されても攻略できませんね」

「そういうことだね。だから追加の分はこの額から少し前後すると思っていてほしい。

 それと、これが謁見で言っていた宝物庫にある物のリストだよ。まあ、結構な量だから手の空いている時間にでも見ておいてもらえるかな」

「…かなり量が多いですね。承知しました」


ディランが渡してきたリストは軽く千ページを超えていそうだったため、この場で確認するのはユリスの頭でも無理だろう。


「ただし一応機密だからね。この離宮の外に出さないようにしてほしい。

 管理はシャルティア母様にお願いしますね」

「ええ、任せてちょうだい。ユリスくんも決まったら私に言ってね。

 シエラちゃんも決まったことなんだから文句言わないの。ユリスくんがくれるって言うんだから貰っておきなさいな。

 …それにこういう対応を望んでいたんでしょう?」

「はい、分かりました」

「うっ…はーい、分かりましたよー…」


シャルティアが耳打ちした事でシエラも大人しく引き下がる。ひとまず褒美の話は終わり、話題は学園の説明へと移っていく。


「学園の方なんだけど、実はもう一般入試の方は締め切ってしまっているんだ。残っているのは推薦入試か貴族用の入試だから平民だと推薦が必要なんだけど…」

「はい!私が推薦します!

 まだ推薦権が残っているので使ってください!」


シエラがすかさずアピールする。


(推薦権…そんなのもあるのか。騎士か貴族が持ってるのかな?)


「うん、ならお願いしようか。

 書類はこれになるから記入しておいて」

「はい!分かりました!」

「あの…そういえば、身分証がまだ仮のままなんですけど…先ほどの話だと正式なものは貰えるようですが間に合うのでしょうか?」

「ああ、父上にも言われたしすぐに手続きをするから大丈夫だよ。確かその書類も持ってきてたはずだし…あった。

 これに自分の名前と新規登録だから親の名前も書いてくれるかな」


(親か…そういえばサラに聞いたことなかったな)


「親の名前ですか……知らないんですよね。

 拾って育ててくれた師匠の名前でもいいですか?」

「そうか…それはこちらでなんとかするからその師匠の名前で問題ないよ。

 ちなみにその師匠はどこに住んで居るんだい?」

「12歳まで一緒に住んでいましたが、やる事があると言って何処かに行ってしまいました。戻ってこないと言っていたので所在は不明ですね」

「…すまないね」

「いえ、お気になさらず。…わぷっ!?」


そんなやりとりをしていると、何故かシャルティアがユリスを抱きしめながら頭を撫で始めた。


「ユリスちゃん、辛かったわね。

 そんなに我慢しなくてもいいのよ?」

「…えーと、あのー…ディラン様?」


(この人もか!

 ここの主従は抱き癖でもあるのか!?)


急な出来事に戸惑いを隠せないユリスは抵抗して王妃に何かあってもいけないとディランに助けを求める。


「母様は時折気に入った相手を自分の子供のように扱うことがある。そしてこうなったら止めることはできない。

 …すまないがしばらくはそうしていてくれ」


(子供扱い…まあそれなら理解できなくもない…のか?)


「そうですか…」

「ティア様ずるいです!

 私だってユーくんを抱きしめたいのに…!」

「それならシエラちゃんも来なさい。

 一緒にぎゅっとして癒してあげましょう」

「もう好きにしてくれ…」


シャルティアの言葉に反応したシエラが抱きしめに来た。

ユリスはもう諦めたのか、しばらくされるがままの状態だった。



「ディラン様、書き終わりました」


やっとのことで解放されたユリスは途中だった書類を完成させて提出する。


「ああ、ありがとう。

 …なっ!?…ユリスくん、この師匠の名前って家名もこれで本当に合ってるのかい?」

「??…ええ、本人から聞いた名前ですし間違ってはいない筈ですが」


(おいサラ。国王と知り合いな事といい、一体なにをやらかした)


「なんて事だ…!まさかこんな所に隠れ住んでいたとは。しかもまた所在不明か…」


書類を見たディランは頭を抱えるようにして俯いた後、天を仰いで嘆いていた。


「ディランがあんなになるなんて…

 ねえユリスちゃん、お師匠様の名前ってなんだったの?」

「はい、師匠の名前はサラ・フローウェンです」


シャルティアに問われ、普通に答えるとやはり返ってきた反応は驚きだった。


「ええ!ユーくんのお師匠様ってそんな凄い人だったの!?

 あ、でも確かにあの家の設備を考えたら納得かも」

「驚いたわ…でもそれならジルバやディランの反応も納得ね」

「…師匠ってそんなに有名なんですか?」

「有名なんてレベルの人ではないよ。

 サラ・フローウェンは王国の歴史において絶大な功績を上げた人物だ」

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