第16話 謁見と会談

謁見当日…

控室にいたユリスは案内に従って謁見の間に入り、事前に教えられた通りに中央の廊下を堂々と歩いていく。

ちなみに面倒な貴族に情報を渡したくないという理由でユリスは身体変化済みである。

そんな姿を両脇の席に座る貴族たちは値踏みする様に見ている。


(ん?なんだ?あの男からこっちに魔力が発せられているのか?…まあ実害はなさそうだし放っておくか)


ユリスは途中一瞬だけとある男に目を向けたが、すぐに戻って最奥に座っている黒髪をオールバックにした壮年の男の前で跪いた。

この男が国王なのだろう。


「其方が今回の品を献上をしたという者か。

 宰相、名は何というのだ?」

「はい陛下、名はユリスというそうです」


謁見では基本的に発言を求められるまで話す必要はないということで、ユリスが黙って頭を下げていると、国王の隣にいる宰相と呼ばれた男が代わりに名前を告げる。


「そうか、ではユリスよ、面を上げて良いぞ」


国王の言葉を受け、ユリスは顔を上げる。


「ふむ…随分と幼いな…まあ良い。

 宰相、早速献上の品を見せてもらおうか」

「かしこまりました。こちらに」


宰相の合図で前もって渡していた構築盤が持って来られる。


「この度の献上品はダンジョン構築盤でございます」

「ほう!もしやとは思ったがやはり構築盤か!

 して、ベースは何だ?」

「はい、こちらを鑑定したところダンジョン構築盤(森)とありましたので、ベースは森であると思われます。」

「森か…そんな神造ダンジョンあったか?」

「いえ、現在国内に森型の神造ダンジョンは確認されておりません」

「やはりそうか、ユリスよ発言を許そう。

 この構築盤はどこで入手したのだ?」


(やっぱりずっと黙ったまま終わるなんてそんな話はなかったか)


国王に発言を求められたため、ユリスは説明を始める。

ちなみにこの流れになることは事前に説明されていなかったが予想していたのだろう。ユリスの説明は澱みないものであった。


「はい陛下、そちらの構築盤はタルミの西にある森…一般に魔の森と呼ばれている森にて入手致しました物です」


ユリスの言葉に後に座っていた貴族達から騒めきが広がる。


「魔の森だって…!?」

「あそこは天然だって話じゃ…」

「でも確かに魔物が森から出たという話は…」

「こんな子供がダンジョン攻略…」

「2尾の茶色の分際…」

「信じられん…」

「嘘をついて…」

「だがあれが反応していないと…」


段々と否定的な声がで始め、誰かが何かに言及しようとした時…


「静まれい!」


(いや、全員を威圧するって…

 一部の貴族は悲鳴を上げてたぞ…でもそんなに強い威圧か?)


国王の一言と共に周囲への威圧感が増し、一部の貴族は青ざめてしまうほどであった。


「後ろの者どもが何か言っておるが気にせんで良い、して魔の森が神造ダンジョンとなると転移装置があるはずだが知っておるか?」

「はい、入口とボス部屋に1つづつとおそらくセーフティエリアだと思われますが、中間にある湖に1つ確認しております。

 しかしながら、入口の装置の時点で既に森の中にあるため、やみくもに探していてはなかなか見つからないと思います」


(入口から外に出るまで2時間くらいかかったし、場所がわかってないとたどり着くのはまず無理だろうな…

 まあ裏技っぽい方法はあるにはあるが)


「そうか森の中に入口があるのか…

 情報提供感謝する。もし地図上で場所が分かるのであれば後ほど担当の者に教えてやってくれ」

「かしこまりました。ですが、私はまだ地理に疎いため地図上での位置は把握しかねます。

 魔の森から王都まで案内していただいた騎士様がおりますのでそちらにお聞きいただければと思います」


(めんどくさいし、シエラに投げておこう。

 そのほうがシエラも報酬を受け取りやすいだろうしいいだろう)


「ほう…?あいわかった。してその騎士の名は?」


国王が楽しそうな雰囲気を出しながらユリスに問う。


「はい、その騎士様はシエラ・ヴェルモットという方です」


(なんかこっちの本心バレてそうだなぁ)


「ふむ、その名は確かシャルティアの近衛にいたな」

「はい、そちらでお間違いないでしょう。

 確か現在は休暇を取得していたはずですので、そちらが明けてからお聞きいたしましょう」


国王の問いにすかさず宰相が答える。


「うむ。さて、ユリスに渡す褒美についてだが構築盤の献上と新たな神造ダンジョンの発見だ。それ相応の物を渡さねばなるまい。爵位はどうだ?」

「そうですね…現在、陛下が陞爵できるのは領地持ちのみとなっております。子供に領地を渡すとなると不安に思う領民も多いでしょう。

 私としてはいくらか多めにした報奨金と宝物庫から希望の品を贈呈するというのが妥当かと思います」

「まあ、それが妥当か…

 ユリスよ其方に渡す褒美だが、何か求める物はあるか?なければ後日宝物庫にある物のリストを見せるのでその中から選んでもらうことになるが」


国王と宰相の間で予定調和のように褒美の内容がすんなりと決まり、念の為という体でユリスに希望を聞いてくる。


(領地付きの爵位とか絶対にいらん!

 まだ満喫してないのに1箇所に縛られて仕事もしないといけないとか考えられないな。

 あ、借りてるお金返しておかないと)


「はい、ご提案いただいた内容で問題ありません。

 ただ、シエラ様には王都までの道中や到着後の生活などで大変お世話になりましたので、いただける褒美の中から幾許か振り分けていただけますと幸いです」

「良いだろう。宰相そのように取り計らうように。

 ユリスよ、この度は大義であった。

 では下がって良いぞ」

「はい、失礼致します」


ユリスは振り向いた際、ふと目線を扉の上に上げると気になる物を見つける。女神のレリーフのようだが手の位置に水晶のようなものが嵌め込まれていた。


(後ろ向いてて見えなかったから状況が分からないけど、これがさっき言っていた『あれ』かな?

 おそらくはこの部屋で嘘をつくと反応するんだろう。

 …面白そうだしちょっと試してみよう。)

「僕は14歳じゃない。お、光った。この声量でもいけるのか。

 なら、…僕はジュウヨンサイじゃない。…光らないな、なるほどそういう原理か。

 これなら言い回し次第でなんとでもなるか」


どうやら前者は年齢のつもりで後者は名前のつもりで言ったようだ。歩きながら近くにいても聞こえないくらいの小声で試して反応を見てから退出していった。

3人ほどユリスの遊びに感づいていたものがいたが、特に咎めるつもりはないようだった。


ユリスが控室に移動するとシエラが出迎えてくる。


「シエラ、確か昨日謁見では話すようなことにはならないって聞いた覚えがあるんだけど…?

 なんかすごい説明させられたよ?」

「え?そんな予定は聞いてないんだけど。

 …もしかして陛下がユーくんに興味を持っちゃったのかな?何かしたんじゃない?」


そんな話をしながら離宮の応接室に移動する。


「2人ともお帰りなさい」

「ティア様?もういらっしゃっていたんですね。

 お待たせしてしまい申し訳ありません」

「気にしなくていいわよ。

 ジルバたちはもう少しかかるみたいだから寛いでいてね」


しばらく待っていると扉をノックする音が聞こえて3人の男が入ってきた。


「すまない、少し待たせてしまったな」

「そうよ、何していたの?

 あまりにも来ないからお茶をしてしまっていたわ」

「すまんな、アリシア達が来たがっていたのを説得していたら長くなってしまった」


シャルティアの文句に国王が反応し謝罪をした。

どうやら他の王族も来たがっていたようだ。


「さて、今回は時間をとらせてもらってすまなかったな。

 まずは月光蘭を提供してくれたことを感謝する。本当にありがとう」

「いえ、余っていた素材を提供したまでですので」


(まだ100本以上あるしな)


「そうか、其方がそう言うのであれば、そうしておこう。

 そういえば我々の自己紹介がまだだったな。我は国王のジルバ・フォート・セラーティだ。そっちのが第2王子のディランでそのとなりが宰相のレイトだ」

「ディラン・フォート・セラーティだよ。よろしく」

「レイト・ファブロと申します。よろしくお願いします」


王族達の自己紹介を受け、周囲にいるのがサラが安全といった人物のみであることを確認したユリスは身体変化をとき自己紹介を始める。


「失礼いたしました。

 私はユリスと申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 姿については騙すような形になってしまい申し訳ありません。もっとも一部の方は気づかれていたようですが」

「ふむ、やはり姿を偽っていたか…

 まあ、どの貴族が信用できるか分からない以上は当然の判断だろう。気にする必要はない」

「ありがとうございます」


(一部の貴族は信用できないって言ってるようなものだけどいいのか?それにしてもジルバね…何か引っかかると思ったらそういう事か)


「さて、わざわざこの場を設けたのは他でもないダンジョンのことだ。

 其方が提供してくれた情報により長らく変化がなかった各方面に大きな影響を与えられそうだ。感謝する」

「そこまで影響が大きいのですか?」

「はは、君が持ってきてくれたダンジョン構築盤はもともと王都には数も種類も少なくてね。

 ベースの種類が増えれば手に入る素材も増えるからね、それらを扱う者達にとっては大事になるのさ」


ユリスの疑問にディランが答える。


「なるほど…

 ちなみにまだ構築盤を提供できるとしたらどういたしますか?」


(どうせ持っていても使えないし有効活用できるなら放出したほうがいいか?

 念のため2つずつは残しておくけど)


「あって困るような物でもないからな。全て買い取らせてもらうことになるだろう。

 もっとも支払いについては少し猶予をもらうことになるかもしれんが」

「わかりました。

 でしたら、林、森、樹海の3種類をそれぞれ10、4、2個までお売りいたしましょう」

「…は?いやいやちょっと待ってくれ。

 君はなんでそんなに構築盤を持っているんだい?

 確かダンジョンボスの攻略報酬でしか取得報告がない上にかなりレアな部類だったはずだ」


(そうなんだよなぁ…

 僕もレアだって聞いていたはずなんだけどなんかやけに出るんだよな)


余らせていた構築盤を国王に売りつけようとしたユリスに横から待ったがかかる。


「ええまあ、師匠との修行も含めると4年くらいは毎日魔の森のボスを倒しにいってたことになりますから。

 確かにレアではありますがそもそもの試行回数が多いのです」

「そんな期間毎日あれを…そりゃ倒し方があんなに洗練されてるわけだよ」


ユリスの話を聞いていたシエラが思わずといった感じでつぶやく。


「それでどうされますか?

 ちなみに鑑定したところ林が下級、森が中級、樹海が上級のダンジョンになります」

「なんと!中級だけでなく上級まであるのか!

 レイト、独断で悪いが最大数で買わせてもらう。後で試算を頼んだぞ」

「かしこまりました。

 確かにその内容であれば国にとって大きな利益になるでしょうし、私も異論はございません」

「…ユリスくん、先ほどの数全てを買わせてもらうことになると思うが、支払いには確実に時間がかかるだろう。すまないね」

「いえ、問題ありませんよ。

 それではこちらが品物になります」


(この言い方ってことは…

 もしかして王城には下級の構築盤しかないのか?

 それなら平均レベルの低さにも納得がいく)


そう言ってユリスは収納から残りの構築盤を取り出す。


「な!?収納だって!?」

「収納まで持っているとは…これは予想外だな。

 くっくっく…魔道具に気づいたことといい本当に面白い子供だ。

 ユリスよ、それを今見せたと言うことは対価さえあれば提供してもいいと、そういう風に受け取っても問題ないな?」


(あ…退出時の実験がバレてるな、これは)


「ええ、空のスキル石をそちらで用意していただけるのであれば構いません」

「そうか…レイトよ、これも可能な限り追加だ。

 収納の有用性を考えれば5億よりは価値が高いだろう。頼んだぞ」

「承知いたしました」

「あらあら、ユリスくんは商売上手ねぇ」

「ええ、王族相手に遠慮なくあそこまでやるとは…さすがユーくんですね」


王族相手にも容赦なく売りつけていくユリスに女性2人は思わず感心してしまうのであった。


「ふむ、少し本題からずれてしまったな。

 それでダンジョンについてなのだが、詳しい場所を知りたくてな。

 謁見の間ではシエラに聞けと言っておったが…シエラよ場所はわかるか?」

「はっ!地図を見せていただければ分かります。

(ユーくん、謁見で何言ったのよ…)」

「そうかでは後で頼むとしよう。

 では次だが、2人はどこであったのだ?」

「ダンジョンの中です。

 どうやら魔の森…正式には鋼樹の森ですが、そこは各パーティーで違う空間に飛ばされる一般的なダンジョンとは違うようですね。入口以外からも入れますし」

「そうか…そうなると学園などで教えているダンジョンの常識が変わるな。教育内容の変更が必要か。

 む、そろそろ我は時間だな…ではこちらからは最後にしよう。ダンジョン攻略において何か注意することはあるか?」

「そうですね…

 まず、あそこにいる魔物は全て硬いので、魔力依存の攻撃でないと適正レベル帯…30以下ではまずダメージが通りません。火力特化型なら話は別ですが。

 それと、RESが低い人も危ないですね。最低でも先ほどの陛下の威圧を軽く流せるくらいでないと」


(あれよりもやばい攻撃してくるのがいるからな)


「ふっ…ならあの場にいた貴族どものレベルでは厳しいということか」


遠回しに苦言を言ってみるも、国王には少しも効いた様子がない。


「あの森には『ウツセミ』というセミの魔物が居るのですが、それが発する鳴き声を聞くと鬱鬱とした気分になってくるのです。

 一種の精神状態異常ですので耐性があるかRESが十分でないとレジストできません」

「ふむ、あまり大したことはなさそうに聞こえるが?」

「この段階で倒して気を持ち直せればいいのですが、さらに声を聞き続けると段々と死にたくなってきて、最終的には自死を試みるようになります。私もこれで1度死にました」


(ほんとあれはきつかった。

 入口に飛ばされた時も治ってるはずなのにしばらく放心してたし。帰ってからも復活にはしばらく時間がかかった)


「なるほど、それは厄介だ。

 だが、そういうことならパーティーに1人組み込んで気つけ薬を持たせておけばなんとかなりそうか…

 よく分かった。調査が難航してきたら再度詳しく聞くこととして今回はこのくらいで良いな。

 協力感謝するぞ」

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