第8話 自己紹介
「入口からの方が近いって言ってたから森の外にあるのかと思ってたけど、まさかダンジョンの中にこんなちゃんとした家があったなんてね…
そういえばユリスくん構築盤は?持ってないみたいだけどまさか捨てたりしてないよね?」
家の前まできた時、手ぶらで鞄なんかも持っていないユリスの状態に気づいたシエラは慌てて問いただす。
「構築盤なら収納に入れてあるけど?ほら」
そう言って構築盤をどこからか取り出しながら家に入っていく。
「えっ!!収納なんて今の世には習得者がいないとまで言われてるのに…いや、それは後ね。
それより、早速薬草を見せてもらえる?月光蘭っていう花の葉っぱが欲しいの。文献でしか見たことがないから白っぽい黄色の花ってくらいしか分からないんだけどね」
(収納自体がそんな珍しいのか…エクストラ技能以外も見せる相手は選ばないといけないな)
「月光蘭ね…あ、あったあった。…うん、これで合ってるね。葉っぱにちゃんと薬効もあるみたいだし。
ただ葉っぱは兎獣人にしか効かないみたいだけど大丈夫なの?」
「え、ええ。でもなんでそんなことまで知って…って、なんか見てるみたいだし、もしかして鑑定も持ってるの?」
「ん?…もしかして鑑定も珍しいの?」
「スキル自体はそこまでではないんだけどね。
見れる情報が少ないからって使う人があまりいないのよ。人によって見られる情報が変わるらしいんだけど何でかは解明されてないから実用性がね。
私も鑑定がある紋章は持ってるけどアイテム名くらいしか見れないし、宿してないんだよね」
(ってことはエクストラ技能どころか鑑定結果を増やす方法も知られていないのか。聞かれたら適当に誤魔化しておこう)
「ふーん、それで目当ての薬草はこれでいいんだよね?」
鑑定について突っ込まれないように話を戻す。
「ええ、大丈夫よ。必要としてる人も兎獣人だしね。
念のためいくつか欲しいんだけど、どのくらいなら大丈夫かしら?」
「えーと…葉っぱの部分はほとんど使わないからなぁ…まあ100本分くらいなら特に問題ないと思う」
「ひゃっぽん……5本分くらいで大丈夫よ。
それで外の情報だったわね。何が知りたいの?」
「あー…それなんだけど、初めは王都までの道を聞こうかと思ってたんだ。でも、連れてってくれるんなら別に聞かなくても大丈夫だしなぁ」
当初のユリスが予定していた交渉は道中のやり取りで既に意味をなさなくなってしまっていた。
「あ、王都にいく日程だけどいつでも大丈夫だよ。家にあるものは収納に全部入るし、家自体もそのうち離れるつもりだったし」
「そ、そう。でもお礼をしないわけにはいかないし…
そうだ!ならちょうどいいわ。
王都では手続きとか手配とか色々あるから、王都にいる間は私が身の回りのお世話してあげる!」
「んー…まあ欲しいものも思いつかないし、それでお願いようかなぁ」
何がちょうどいいのかはよく分からなかったが、王都で放り出されても困るだろうことは目に見えてたので、ユリスにとってその提案は渡りに船だった。
言い回しが少し引っかかったもののシエラの提案を飲むことにする。
「わかったわ!
それといつでもいいならこの後一緒に来る?
薬草の届け先は王都だし、見つかるまでもっと時間かかると思ってたから帰りの行程にもかなり余裕あるのよね」
「流石に準備があるから今日これからは無理だよ?
せめて明日まで待って貰えばぎりぎりなんとかなると思うけど」
「なら待ってるわ。森の外に出られれば野営もできるしね。数日くらいなら問題ないわよ」
「流石に申し訳ないし、部屋なら空いてるから泊まっていっていいよ?
師匠の部屋だったから本とか片付けるまでちょっと待ってもらうけど」
野営をして自分を待つと申し出るシエラに申し訳なく思ったのか、家に泊まっていくことを提案する。
「あら、それならせっかくだしお言葉に甘えようかしら。
代わりに掃除とか料理とかの家事はスキルが無くても出来るし手伝うことがあったら言ってね」
「へー、なら食材は出しておくから夕飯をお願いしてもいい?
あ、お風呂に入りたかったら、あっちにある魔道具起動すれば沸くから自分でやってね」
「お風呂入れるの!?しかも起動するだけで沸く魔道具って…あれかなりの重労働なんだけど、それさえあればあの作業から解放される…?
早速入るからその魔道具見せて!あと一緒に来て使い方教えて!」
「え?…まあいっか。
魔道具はこれね。で、ここを押して少し待てば、こっちの湯船に一定量お湯が出てくるから。
僕も寝る前には入るから上がったら、お湯を抜くかそのままにしておいてくれればそれでいいよ」
本来の目的である薬草よりも食いつきがいいという予想外の展開に一瞬思考が停止してしまうユリスであったが、話に聞いていたこの世界の生活水準を思い出し納得の様相を見せる。
「ありがと♪
帰るまでお風呂に入れないのを覚悟してたのに、まさかこんなところで入れるなんてね」
「僕はあっちの方の部屋に居るから料理できたら声かけてもらえるかな?
それじゃごゆっくり〜」
(というか確か風呂って貴族ぐらいしか入れないって話だったよな。
騎士の格好してるけど貴族なのか?)
ユリスは部屋の掃除を始めたところでようやくシエラの発言に頭が回り、その立場に疑問が生じるのであった。
あらかた掃除(物を確認して収納に入れていっただけ)も終わった頃、シエラから声がかかったので居間に向かう。
するとそこには髪をおろし、鎧などを外したラフな姿のシエラがいた。
薄汚れていた髪も綺麗なピンクゴールドの輝きを取り戻し、さっきまで鎧でわかりづらかったスタイルも抜群という相当ハイレベルな容姿と言っていいだろう。
これまでのヴェルサロアやサラとの生活で美女に耐性の出来たユリスが思わず見惚れてしまうほどの美女であったのだ。
(ここまでレベルの高い美女だったとは…
ヴェルとかサラで見慣れてなかったら変な事口走っていたかもしれん…)
「ごめんね…
知らない食材ばっかりで使い方がよく分からなかったから簡単なものしか作れなかったの」
平静を装い席に着くユリスに対してそう言って出してきた物は、キャベツとベーコンのスープスパゲッティだ。
本人はあまり納得いってないようだが普通に美味しそうだった。
「い、いや、全然問題ないよ。
それじゃあ、いただきます…美味っ!
それに人の作った料理とか食べたのいつ以来だっけ…?」
「ほんと!?よかった〜…
ふふ、次からはいつでも作ってあげるからね。
じゃあ私も食べよっと」
ユリスは久々の他人の作った料理に遠い目になりそうになりながらも、夕食をいただくのであった。
夕食を堪能し終わり、満足感からユリスは気が抜けてしまったのか、シエラが近くで食器を洗っていることも忘れてステータス確認を始めてしまう。
(ここ最近見るの忘れてたしな、ステータスオープンっと)
―――
【名前】:ユリス
【年齢】:14歳
【種族】:狐獣人(4尾仙狐)
【レベル】:35
【HP】:D-
【MP】:EX
【STR】:H-
【VIT】:H
【INT】:EX
【RES】:B
【AGI】:G+
【紋章器(Lv.2)】
①[仙狐(無)]
スキル:『魔力充填(尾)』、『身体変化』、『隠密』、『魔力収束』、『感知』
アビリティ:MP+3、INT+3、RES+2、AGI+2
②[調律]
スキル:『調律』、『操作』、『干渉』、『制限強化』、『改良』、『潜在能力解放』
アビリティ:MP+6、INT+4、RES+4
③[魔化]
スキル:『魔化』、『付与』、『魔纒』、『変質』、『増幅』、『上位変換』
アビリティ:MP+6、INT+4、RES+4
④[創造]
スキル:『創造』、『障壁』、『結界』、『封印』、『魂宿』、『使い魔』
アビリティ:MP+6、INT+4、RES+4
【紋章効果】
①[魔神の愛し子]
(スキル:『魔力還元』、『魔の化身』)
【ユニークスキル】
『神の指先』、『残撃』
【パーソナルスキル】
『鑑定(EⅩ)』、『収納(EX)』、『合成』、『紋章術』、『武技』、『移動』、『追撃』
【奥義】
『
【加護】
『世界神の祝福』
―――
ユリスはこの2年でレベルが30を超えていた。これは中級ダンジョン下位の適正に達しているレベルなため、該当ランクであるこのダンジョン『
ちなみに10レベル毎に尻尾が増えているため、今では4本である。
「お、レベル上がってる。ようやく35か」
(あ……)
言い終わってから気づいたが時既に遅く、ステータス画面の向こうでは目が据わった状態のシエラがこっちを見ていた。
「…ねえ、ずっと気になってたんだけどさ、ユリスくんまだ子供だよね?なんでそんなに強いの?収納を持ってるだけでもすごいのに何をどうしたらボスを一撃で倒すなんて芸当が出来るの?そもそもレベル35であの威力って………―――」
シエラが捲し立てるようにして質問してくるが、途中で正気に戻ったのか説明を始める。
「…いや、ごめん。マナー違反だよね。嫌なら無理に答えなくてもいいからね。
ただね、構築盤を献上してもらうとなると向こうでもその辺絶対突っ込まれるから、あらかじめ根回ししておくためにも周囲に人がいない今のうちに聞いておきたいの」
「いや、そんなに隠すことでもないし別にいいんだけど…
それじゃあ改めて自己紹介がてら説明しようか」
そう言って紙にステータスを書き込んでいくが、直前でエクストラ技能ついては流石にそのままはまずいと思ったのか鑑定や収納については偽装していた。それでもシエラからすれば異常なのだが。
「名前はユリスで、歳は14歳だよ。
種族は狐獣人の4尾仙狐でレベルは35ね。
ステータスとか紋章とかはそれに書いたからそっちを見てもらえる?後は、師匠に教えてもらったしスキルもあるから一通り生産もできるよ。
…そのくらいかな?スキルの詳細とか知りたいのがあったら言って」
「……あ、うん。ありがと。見せてもらうね。
…!!……!!!!」
流石にステータスを丸々見せて貰えるとは思ってなかったようで、驚きながら紙を受け取るシエラだが中身を見て絶句していた。
「(何よこれ!?レベル35とか私とあまり変わらないのにアビリティ高すぎよ!それにEXなんて表記があるの初めて知ったわよ!?高いのか低いのかどっちよ!?どうせ高いんでしょうけど!紋章も種族以外見たことないし、やたらスキル多いし、何でか紋章器レベルも高いし、紋章効果まで発生してる…パーソナルスキルも多いし、紋章術まで持ってるの!?あと、奥義って何!?そして極め付けは祝福!?世界神の祝福とか聞いたことないわよ!?教会に知られたらどうなっちゃうのかしら…)
………うん、よく分かったわ。
王城に行くときは全部私に任せてね。ここに書いてあるものは全部私が大丈夫って言った相手にしか言っちゃダメだからね!絶対よ!?」
「う、うん。分かった」
(何かやばいもの書いたっけ?…あ、そういえば内容は書いてないけど祝福って書いちゃったからそれか?ヴェルがサラと僕しかいないって言ってたし…
ちょっと久々に人に会った上に綺麗で優しそうな人だったから気が抜けてたかな…気をつけないと)
あまりの剣幕にユリスは反射的に頷いてしまう。
考えていることをシエラが知ったら違うそうじゃないと頭を抱えて今すぐに徹底的に常識を叩き込み始めただろう。シエラの剣幕に押されたユリスが心の声を外に出す事はなかったためそうはならなかったが、果たしてそれが2人にとって良かったのかどうか。
「ふう…私だけ見るのも不公平だし、私のステータスも教えてあげる…けど、レベル上がってるわね。まあ、いいわ。
一応私のステータスで同年代では結構上の方にいるってことは覚えておいてね。まあ、5歳くらい上になれば流石に私よりも強い人はそれなりに居るけどね」
そう言ってステータスを書いた紙を渡してくる。
―――
【名前】:シエラ・ヴェルモット
【年齢】:23歳
【種族】:人間
【レベル】:35
【HP】:B-
【MP】:D-
【STR】:F+
【VIT】:E+
【INT】:F-
【RES】:D-
【AGI】:F-
【紋章器(Lv.1)】
①[人間(城塞騎士)]
スキル:『守護』、『鋼の精神』、『不屈』、『専属護衛』
アビリティ:HP+2、STR+2、VIT+2、 RES+2
②[夜天の騎士]
スキル:『闇魔法』、『闇纏い』、『暗視』
アビリティ:MP+2、VIT+3、INT+2、RES+3
③[剣の心得]
スキル:『剣術』、『剣技』
アビリティ:STR+2、AGI+2
④[盾の心得]
スキル:『盾術』、『盾技』
アビリティ:VIT+2、RES+2
【紋章効果】
①[初心への
スキル:なし
アビリティ:ALL+1
【ユニークスキル】
『星魔の剛腕』、『銀月の祈り』
【パーソナルスキル】
なし
【加護】
『世界神の加護』、『闇神の加護』
―――
「えっ…シエラさん王都だと強いの?」
「ええ、同年代ではだけどね。上から数えたほうが確実に早いかな?私の年齢だとレベル20前半で普通くらいね」
ユリスは口に出してから少し失礼な質問だったかと思ったが、特に気にした様子もなく普通に答えが返ってきた。そしてその答えは、ユリスにとって予想以上に驚くものだった。
「そう…なんだ」
(家名持ちってことはやっぱり貴族か。
にしても思ってたより平均レベル低いな?それだと中級ダンジョンはキツくないか?適正30だって言ってたよな。
あ、でも普通はパーティー組むからなんとかなる…のか?ヘイト操作系のスキルやアーツなんてサラの座学でも聞いた事ないしどうやって後衛を守るんだろう?一応いくつか作った覚えはあるけど、タンクっぽいシエラさんで覚えてないとなると一体どこに組み込まれているのか…
紋章構成は…レアっぽいのが1つで後は心得系か。人間族は種族紋章が職業系でスキルはその系統でランダムなはずだけど、城塞騎士だから防御系かぁ…しかも護衛系とか。アビリティもHPとMPを除けば高いのでRESのD-だし中級下位レベル、防御面は何とかなるけどソロはユニークが発動しないと攻撃面できついだろ。この森の敵が魔法に極端に弱いから何とかなってたってだけだなこれは。
紋章効果もこれって初めはいいけどレベルが30から極端に上がらなくなるデメリットあるしなぁ…よく5レベルも上げたもんだ。にしても何でそのままなんだろう。気づいてないのか?
それに奥義がない…という事はスキルとアーツのみか。アーツは表示されないしどんな戦い方をするのか分からないけど、スキル構成を見るにおそらく防御しながらの魔法か属性バフかけてからの近接…通りで蟷螂に苦戦してたわけだ。MP尽きたら有効打がないわ。
にしても、まだ少し強い程度で誤魔化せるレベルかと思っていたけどもう既に手遅れだったとはなぁ。まあこの年齢であれだけの修行をやってれば当然か)
「ん、ありがと。にしてもシエラさんって防御型だったんだね」
ユリスは自分の常識が世間と既にかけ離れていたことに内心驚くも、今までの修行内容を思い返し納得。かなり長考していたが、気を取り直したところで当たり障りのない感想を言い、紙をシエラに返す。
ちなみにシエラのユニークスキルである星魔の剛腕は星空の下のいる間は攻撃がSTRとINTの合計値依存になるという強力なスキルである。ただ、ダンジョン内では夜でも星が見えない場合が多いため、この世界の戦闘では発動しづらいスキルでもある。もう片方は回復系だが条件は似たりよったりである。
「あら、もういいの?
構成は種族紋章のスキルがそっち方面ばかりだったから自然とね。
…そろそろいい感じの時間かしらね。それで出発は明日で大丈夫そう?」
「うん、ただ昼頃になると思うけどそれでもいい?」
「夜までに森から出られるなら大丈夫よ。
近くの街まで行くだけでも何日か野営になるからね」
「了解ー
それじゃ部屋はこっちだよ。
この後少し作業するから音がすると思うけど、悪いけど我慢してね」
「そんなこと気にしないの。
部屋を使わせてくれるだけでもありがたいんだから」
シエラを部屋に案内したのち、ユリスは出立の準備を始めるのであった。
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