1章-新たな出会い-

第7話 騎士との出会い

女神ヴェルサロアの手伝いを了承し異世界へ転生したユリスは育て親にして師匠でもあるサラ・フローウェンとの12年間の修行生活を終えた。


その別れから2年が経ち、ユリスは14歳になっていた。


サラと別れてからというものの、ユリスは家を出発して採集や魔物狩りをしながら最深部に向かい、グリズリートレントを倒してから装置で湖に移動して帰宅という流れのこれまでと変わらない日々を送っていた。

初めは精神的な影響か丸1日かけて何とかできるという感じな上に死に戻りも何度かあったが、今ではガッツリと採集をしておきながらも危なげなく午前中で終わってしまうくらいユリスは強くなっていた。そして残った時間は基礎訓練や生産をして過ごしていた。

そんなユリスの目下の悩みは…


「もう14歳になったし、近いうちに王都に向かって出発したいんだけど、近場の村も王都も…それどころか現在地すらわからないんだよな…

 悩んでてても仕方ないし…いつもの行くか」


サラが言った期限の存在もあるため早めに王都へ向かうことに決めたのだが、そこで問題に気づく。そもそも王都の場所を知らないし、家の書物にも地図はない。

近くに人里がある保証もないためにあてのない旅に出るしかなく、なかなか踏ん切りがつかないのだ。


「さて、大体ここらへんの採集も終わったしそろそろボス部屋に向かうか……?」


(…ん?戦闘音がする…誰かいるのか?

 もしかしたら……行ってみるか)


最深部へ向かおうとすると、どこからか大きな音が聞こえてきた。ダンジョン内で魔物同士が戦うことはないため、大きな衝撃音がしたということは何者かが戦闘をしているということである。

ならず者である可能性もあるが、相手によっては王都の情報を得られるかもしれないことに気づき、音のする方に向かっていく。その先では騎士のような鎧姿をした人がハードマンティスと呼ばれる蟷螂型の魔物に苦戦していた。


「くっ…!硬すぎるわね。

 こいつも剣だけだとほとんど攻撃が通らないなあ…

 はあ…MPももう残ってないしどうしようかしら。

 目的も果たしてないし、こんなところで死ぬわけには……えっ?」


聞こえてきた口調からしておそらく女性なのだろう。

神造ダンジョンなので死んでも入口に戻るだけだ。しかし、わざわざ人が殺されるシーンを見る気はなかったため、横から割り込んでハードマンティスを殴り飛ばす。


「なんか苦戦してたみたいだし、勝手に手を出したけど大丈夫?」


(見たところ騎士だよな。この森に14年居るけど初めて見たな。

 ここが神造ダンジョンってことは全く知られていないってサラが言ってたし、何でこんな深いところに?

 …少し探ってみるか)


「え、ええ…子供?何でこんなところに…

 というか今殴り飛ばしたよね…?」


自分が苦戦していたハードマンティスを子供が素手で、しかも一撃で倒す光景に混乱しているようだ。

そんな騎士の様子を気にもせず、ユリスは話を進める。


「僕はユリスって言います。

 この辺りに住んでるんだけど、あなたは何でこのダンジョンに?」

「えっ?あっ、私はシエラよ。

 というかここってダンジョンなの?

 …ああそれよりもお礼が先よね。助けてくれてありがとう」


少し落ち着いたのか、シエラは疑問をこぼしながらもお礼を言ってくる。


「私はこの辺にあるって言われている薬草を取りに来たの。

 でもまあ見つからない上に迷っちゃってね…魔物と戦いながら彷徨ってたところなのよ。ただ、MPもほとんど使い切っちゃったし、ここの魔物すごい硬いからこれ以上戦うのがキツかったのよね…」

「へー、この辺の薬草かー

 確かにこの森は薬草がよく生えているけど…種類も多いし時間かかると思うし、さっきの魔物もまだまだいるよ?」


ユリスは言外に諦めて一旦戻ることを勧める。


「あなた…もしかしてこの森に詳しい?」

「まあそれなりには」

「…どうしても必要なの、あの方を救うためには。

 可能性があるなら何をしてでも見つけ出してみせるわ。

 それこそ会ったばかりのあなたに頭を下げて手伝いを頼んででもね」


佇まいを直し、真剣な顔でお願いしますと言いながら頭を下げる騎士。


「…いいよ、お手伝いしてあげる。

 その代わりというか、少し森の外のことを教えて欲しいんだけど」


(薬草ならうちに沢山あるし、よっぽどのレアものじゃなければすぐ終わるだろう。

 無かったとしても休息は必要そうだしとりあえず連れて帰るか)


頑なに探す事を諦めない騎士に根負けしたのか、心に響くものが騎士の言葉のどこかにあったのか、はたまたただの打算か、ユリスは今欲している外の情報を対価に薬草探しを承諾した。


「ほんと!?ありがとう!

 私に分かることなら何でも教えてあげるからね。

 あ、手伝いついでにもし分かるなら外までの道も教えてくれると嬉しいなあ…なんて」

「ん、それくらいなら問題ないよ。

 じゃあ早速うちに行こっか。

 …また魔物が来るかもしれないし最深部から転移した方が早いか?」


(うん、今日はまだ倒してないしそうしようか)


「え?家?…あ、ちょっと待ってよー!

 なんかこの子見た目は小ちゃくて可愛いのに、雰囲気があまり子供っぽくないんだよなぁ…

 …でも悪くはない、かな?」


家に向かうという内容に混乱していてユリスが最後にぼそっと言った内容は聞こえなかったのか、先導し始めるユリスに騎士は慌ててついていく。

そして、なぜ家に向かうのか説明をしながら歩くこと10分くらいで大きな広場に到着。もちろんボス部屋である。


「…ここにユリスくんの家があるの?

 なんか奥の方に魔物っぽいのが見えるんだけど…?」

「え?ここはダンジョンのボス部屋だよ?

 あそこからだとボス倒して入口に戻った方が家まで近いし」

「…ボス?え?って事は神造ダンジョン?

 というか、私もう戦えないってさっき言ったよね?

 なんでこの子倒す前提で話してるの?」


ユリスはシエラのもう戦えない発言を聞いてはいたが、どうせ戦うのは自分だしと気に留めていない。

一方でシエラは予想外の事態に混乱しているが、そんなことは気にせずユリスはグリズリートレントに向かっていく。


「『魔纒まてん』発動っと…セイッ!

 あとは本体ねー」


そして、スキルを発動すると拳の一撃でクマを破壊してしまう。

その後、近くにあった本体の切り株も蹴り飛ばすと中央に宝箱が1つ出現する。


「…………え?」

「今日は1つかー…何が入ってるかなっと。

 なんだまたこれか…最近多いなこれ。

 シエラさーん、終わったから奥に行くよー」


ユリスが宝箱から取り出したのはダンジョン構築盤だった。

それを見慣れたとでもいうかのように雑に扱うユリスを見て、シエラはボス戦の事などどうでもよくなり思わず詰め寄ってしまう。


「ちょっ…ちょっと!それってもしかしてダンジョン構築盤じゃないの!?

 王城に献上したら陞爵しょうしゃくものよ!?」

「え、え…?そうなの?」


(もしかしたら献上すれば制御機構を使わせてもらえるか?

 …ダメだな、王族相手に変に下心があると警戒されてしまうだろうしやめておこう)


「じゃあ持っていっていいよ。たくさん持ってるし」

「たくさん!?

 私何もしてないし、貰うわけにはいかないよ!?

 いらないなら王都に来た時に献上してもらうからね!」


(む、王都か。とりあえず王都には行っておきたいよな)


王都に来るという表現から目の前の騎士を王都の所属なのだと判断したようだ。


「むー…なら王都まで案内してくれない?

 それなら別に献上でも何でも構わないんだけど」

「ええ、もちろん!

 いつ頃向かうか後で教えてくれれば森の前までは迎えに来てあげる」

「ん、じゃあその話はまた後で。とりあえず奥に向かうよ。

 あ、ついでに祈っていったら?」


一旦、奥の立像のある部屋までいかないと移動装置が出てこないため奥へ向かう。

また、シエラの様子からここまでは来たことがないと判断したのか、ユリスは初回攻略の報酬を貰うために祈るように勧める。


「そうね、それならちょっと待っててもらえる?

 ………え?何この声?報酬ってどういうことなの?」

「もしかして神造ダンジョンの攻略って初めてだったの?

 ダンジョンは初めて攻略した時に各人に報酬がもらえるようになってるみたいだから、目の前の宝箱の中身はもらっておくといいよ

 僕はもう貰ってるからそれはシエラさんのだし」


(どうやらこの部屋に入れれば、ボス戦に参加していなくても攻略認定されるようだな。

 でも、知らないなら何で祈ったんだ?)


「そうなの?ボス戦参加してないんだけど…うん!まあいっか!ユリスくんありがとね。

 中身は水晶…じゃない、何かの紋章かな?…帰ったら鑑定を頼まなきゃ。

 …それじゃあ、ユリスくん案内お願いね」

「りょうかーい、じゃあ行こっか」


2人は前の広場に出てきた移動装置に向かい、入口に移動する。

シエラは家のある湖に辿り着いておらず直接転移が出来なかったので、家までの道案内ついでに入口から歩いて行く。


「ほんとにダンジョンだったのねここって。

 というか、入口が既に森の中って…これじゃあ境目なんて分からないし調査のしようがないわね。

 ねえユリスくん、ここのダンジョンってあの入口以外から入るとどうなるか知ってる?」

「えーと、確かそのままダンジョンに突入することになってたはずだよ。前に試した時はボス部屋までの最短ルートに途中で合流したから、さっきの入口に飛ばされてるってわけでもない。

 どれだけの距離があるか分からないけど、多分反対側からも出入り出来るんじゃないかな?

 ボス広場も森の端っこって感じでもないし、入口はあくまでダンジョンの装置があるから入口って呼んでるだけだし」

「そっかあ。まあ神造ダンジョンってわかっただけでもかなりの収穫ね。

 あれ?でも確か神造ダンジョンってパーティーごとに別の空間に飛ばされるはずだったけど、なんでユリスくんと会えたんだろう?」

「よく分からないけど、周囲の地形と一体化してるし、別空間じゃないのがこのダンジョンの特徴なんじゃないの?全方位から入れるっていうのも珍しいみたいだし」

「それが本当ならこれまでの神造ダンジョンの常識が変わることになるよ…」


そんな雑談をしながらユリスの先導で家に向かい、そして到着する。

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