第5話 お勉強(ダンジョン編)
ヴェルサロアによる解説が始まった翌日。
ステータスの説明は終わったため、次は世界の特徴についての説明に移っていく。
「さて、それじゃあ昨日の続きを始めるわ。
この世界についてといっても国だとか歴史についてはほとんど割愛するから自分で調べるかサラに聞いてちょうだい。
今回説明するのは主にダンジョンについてとかのシステム的な部分ね。いいかしら?」
「はーい。あ、その前に昨日聞き忘れた事があるんだけど」
「ん?どうしたの?」
「いや、よく師匠にも言われてるんだけど、これといったスキルも無いのに生産とか武器の扱いとか僕の上達スピードが色々とおかしくないか?
いやまあ、剣と体術だけなら天界で色々と手伝った時の経験が染み付いているって理由で分かるんだけども」
ユリスは記憶が戻ってからこれまでの3年間ナイフ、弓、槍などの武器術に加えて魔力操作、鍛冶、調薬など様々な分野の訓練をしてきた。そのどれもが教えているサラの方が引いてしまうくらい上達が早いのだ。思わず自身でも異常だと言ってしまうほどに。
もっとも彼の上達スピードの異常さは型通り、教えられた通りに身体を動かすという点に発揮されているため、難度の高い技をすぐに再現出来たとしてもそれを実戦でどう活かせばいいのかは全く分からない。天界での課題の手伝いの時も武術の型を極めていただけなのだ。つまるところ、戦闘において技は達人レベルだが駆け引きが素人というなんともチグハグな状態に仕上がっているのだ。
ちなみに、生産においてはそのチートっぷりは遺憾無く発揮されている。
「ああ、それはスキルとかのステータスの影響…もあるけど私が肉体を作った影響が大きいかしらね。
そもそもステータスは神の加護として後天的に得るもので、元の肉体を強化するものなのよ」
「ふむふむ」
「あなたの肉体を作る時に記憶力とか思考能力とかの頭脳方面を強化したせいで、ステータスが付与された事でさらに強化されちゃった感じね。多分見たまんまを思った通りに再現出来るのはそのせいよ。
まあ、動きを覚えてもそれをどう生かすかは経験とか才能次第だから結局は数をこなす必要があるわ。その辺は自分でがんばんなさい」
「はーい、そういえば頭を強化したとか言ってたっけ…どうりで記憶力も良くなってるわけだ」
(これが若さかと思ってたけど違ったんだな…
にしても肉体を強化ってことは基礎訓練が結構大事になってくるな)
「そうそう、言い忘れてたわ。
スキルの中にはステータスに表示されない強化をするものがあるし、元の肉体性能によってはアビリティが下の相手でも力負けしたりするから、あまりステータスを過信しすぎないようにしなさい。あなたのユニークスキルとかはその筆頭よ」
「りょーかい。まあ基礎訓練を続けてれば早々覆されることもないだろう」
「まあ、そうね。この世界の人はその辺疎かにしがちだからね…
とりあえず元のダンジョンの説明に戻りましょうか」
ユリスは気になっていた内容なので質問したが、流石にこれ以上脱線させるつもりはないようだ。それどころか一言一句聞き逃すまいとかなり真剣な表情である。
前世では異世界転生もののラノベにはダンジョン要素が必須と思っていたくらいにはダンジョンが好きだったのだ。そんなレベルであったため、自身のいる世界のダンジョンはどのようなものなのかと興味津々なのだ。
「まず、この世界には3種類のダンジョンがあるわ」
「3種類もあるのか?」
「ええ、まず神が作ったとされる神造ダンジョン。次に災害の様に突然発生する天然ダンジョン。最後が神造ダンジョンで手に入る魔道具…よくアーティファクトって言われてるわね、これを使うことで様々な姿に変わる生成ダンジョン。この3つね」
「なるほど…それぞれの特徴は?」
「1番大きいのは神造ダンジョンと生成ダンジョンでは死なないことかしら?
世界神の加護にある『転送』ってやつが関係するんだけどね。その2つはダンジョン内で殺されてもダンジョンの外に出されるだけで死なないのよ。
ただ、中で手に入れたものはなくなるけどね。逆にいえば天然ダンジョンでは死ねばそこで終わりよ」
(死ねば終わりか…サラがここは神造ダンジョンだって言ってたし大丈夫だろうけど、常に気にしていた方がいいかもな。いざ天然ダンジョンに出くわした時に油断が生まれる)
そう聞いてユリスは一層気を引き締める。
「後は、神造ダンジョンと生成ダンジョンは道中や攻略報酬に宝箱が出現するのに対して、天然ダンジョンだとそれがないってところかしら?
まあ、その代わりに天然ダンジョンでは他では手に入りにくい特殊な素材が手に入ることが多くなってるけどね」
「天然には宝箱がないのか」
「それと神造ダンジョンと生成ダンジョンの中でも中級以上の規模が大きいものには登録した場所まで一瞬で移動できる装置が置いてあるわ。
というか大枠では1点を除いて神造ダンジョンと生成ダンジョンは同じ仕様よ。神造ダンジョンをアーティファクトで再現したものが生成ダンジョンって位置付けだしね」
「1点って?」
「生成ダンジョンはダンジョン制御機構っていうアーティファクトにダンジョン構築盤を嵌めることで生成されるのよ。そして構築盤には9個までいろんな要素を持ったメダルを嵌めることができて、それらの種類や嵌める場所の組合せによっていろんな特徴を持つダンジョンが出来上がるの」
「ほうほう…!」
(サラが言ってたのはこれの事か!
つまりは制御機構っていう物さえ手に入れば、いつでも生成ダンジョンが作れるようになる訳か。
にしてもメダルの組み合わせで特徴が決まるのか。なんかレシピの売買とかもありそうだな)
ユリスは説明を聞いて生成ダンジョンに対して俄然興味が湧いてきたようだ。
「この世界では生成ダンジョンは王城関係か探索者ギルドしか所有していないみたいね。所有していてもギルドの方は色々と制約があるみたい」
「む…なら自由に生成する場合には王城と関わりを持つ必要があるのか。それか自分で手に入れるか…」
「まあ、その辺は自由にするといいわ。私的には王城の方に居てくれると嬉しいけどね」
「ん?何かして欲しいことでもあるのか?」
「今のところは…まだいいわ。
ただ、私が天界に戻っても祝福のおかげであなたとは連絡がとりやすいし、国の中枢に居てくれると世界の危険が私の神託として伝えやすくなるじゃない?」
「さいですか…」
「世界の管理って大変なのよ?
何故か文明滅亡レベルの問題がよく起こるのよこの世界。少なくとも1000年はひとつの文明を存続させないと世界が消去される上に、せっかく取ったライセンスを剥奪されちゃうってのに。そうなったらまた見習いに逆戻りよ…
今までは私やサラ達で対応してたけど、わざわざ要望以上の特典をあげたんだし、後200年だから今後は問題が起きた時はあなたにも手伝ってもらうわよ。狐獣人は寿命が1000年以上あるしね」
(転生直前に言ってた手伝いってこれのことか。
世界が生成できた時点で終わりと思っていたけど、まだ続くんだな…ってか見習いに戻ったらまた天界での手伝いに戻るのか?たしか約束は一人前になるまでだった気がするし。
…まあ協力しないと世界がなくなるし、200年経ったら自由にしていいっぽいし別にいいか。世界の崩壊から生き残れる保証もないしな)
「まあ協力はするけど、中枢に行くかは考えてみるよ。機会があるかもわからないしな。
それで天然ダンジョンについてはどうなんだ?」
そう言って、また脱線しそうになった話をダンジョンへと戻していく。
「そうね…神造ダンジョンは無くなることはないし場所が移動することもないけれど、天然ダンジョンはいろんなところに突然発生するし最深部にあるコアを壊せばなくなるわ。
そもそも天然ダンジョン自体が予定外の産物なのよ。私はそんな設定はした覚えがないんだけどね〜…」
「えぇー…予定外の産物って…」
(なーんか裏がありそうな感じだが…多分後々原因探って解決しろって流れになりそうだよなぁ…はぁ…)
「まあただ発生するだけなら問題ないんだけど、天然ダンジョン内の魔物って中がいっぱいになると外に溢れてくるのよ。スタンピードって言われてるけどほぼ天災扱いね」
「ほぼ?」
「中の魔物をしっかり間引けば溢れることはないからね。スタンピードは人災だっていう人が一定数いるのよ。
まあ、そういうのは被害者か一部の他人の足を引っ張りたがる貴族くらいね」
「そうか…」
(やっぱりそういう貴族はいるかー…)
テンプレとはいえ現実にいると考えると先の問題発言もあいまってユリスは若干げんなりとした表情を見せる。
「天然ダンジョンの発生原因はおおよそ分かってるんだけどねー…その原因が生まれた理由とそれで天然ダンジョンが出来ようになった理由が分からないから手が出せないのよ。
発生原因については勝手に排除しちゃうと世界干渉になるし、そのせいで他に何が起きるか分からないから、もしかしたらその内対応してもらう事になるかもね」
(ああ、やっぱり…でも完全には把握してない?神なのにそんな事ってあるのか?
でもヴェルだしあり得そうなのが何とも…)
「天然ダンジョンはこんな感じね。
後は…メダルは生成ダンジョンでしか手に入らないわ。制御機構や構築盤は基本的に神造ダンジョンで手に入るようになってるわね。構築盤は他にも入手方はあるけれど」
「まあメダルは生成ダンジョンでしか使わないみたいだし妥当か」
「それとダンジョンには等級があるわ。鑑定で見れば分かるけど今いる森は中級の神造ダンジョンよ。中級の中でも下位になるわね。
まあ、鑑定で見られる説明と国の基準で少し違うんだけど…大体は合ってるしどっちを見てもいいわ。国の基準の方は隠し部屋なんかは考慮されてないことが多いからそこだけは注意ね。
ダンジョンについてはこんな所かしら?何か気になった事とかある?」
ダンジョンについて開示出来る情報はおおよそ説明し終わったのだろう、残りの時間は質疑応答にするつもりのようだ
「おーけい、大体理解した…けどひとつ確認だな。
天然ダンジョンの魔物ってどんな感じなんだ?この森にいる奴らは傷は付かないけど条件次第で部位破壊はできる。死体は残らなくてアイテムがドロップするし、多分ステータスみたいなのがあるんだろ?スキル的なものも持ってそうだ」
「ああ、それがあったわね。
神造と生成ダンジョンはどっちもあなたの言う通りね。ステータスが付与されてるしスキルも持ってるわ。
天然ダンジョンの魔物はステータスの付与はされてないから死体は残るけど、魔力による身体強化と特殊な体内器官で似たような効果は得ているから同じ魔物なら強さはあまり変わらないわ」
「天然ダンジョンの魔物に間違ってステータスが付与される可能性はないのか?」
「ないわね。だって加護を得る条件に種族が魔物ではない事って項目があるもの。もっとも、ステータスと同じ効果を魔力で再現してるせいでダンジョンから溢れた魔物は魔力の補充として人を襲うんだけど」
「それ、なら大丈夫か…ん、後は特にないな」
「オッケーよ。じゃあ今日はここまでね。
今後はちょくちょく来るつもりだから、気になったことが出来たらいつでも言ってちょうだい。教えられそうな内容なら教えるから」
今日の勉強も終わった事でまたサラの指導を受ける日々が始まるようだ。ユリスからしたらそれも楽しい時間なのだが、長らく一緒に暮らしていたヴェルサロアが今後は定期的に来ると聞いてユリスの気分はこれまで以上に上がるのであった。
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