第33話 猫と眠れ(6)

 女が部屋に戻るまで、凛音りんねは空の上から見守っていた

 ほっと胸をなで下ろす。

 黒江くろえだったら、あざれだったら馬鹿にするかもしれない――死にたいやつは死なせておけと。

 杏菜あんなだってどう言うかは分からない。

 でも、凛音は助けたかった。そうするのが当然だと思っているからだ。

 ――そういうのはアダムが一番嫌うわよ。

 心の中で誰かが言った。

 わかっている。

 でもこれだけは確実にいえる。見殺しにするのが自分の欲望の範疇はんちゅうにあるはずは絶対にない。

 アパート街にいると、面白いものが視界に入ってきた。

 三階建ての階段をのぼっていく男の姿。背の高い、肩幅の広い、ロックなTシャツ、ブラックジーンズの、リーゼント・ヘアーの男。忘れるはずもない。彼からもらったものは今も身につけている。

 山嶺やまみね篤志あつしだ。

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