第30話 猫と眠れ(3)

 浮遊してマンション向かいの空中庭園に戻った。ベンチの上に依頼人がいた。腕時計を見れば、あれから時間にして十分も経っていないようだった。

「終わったよ」

 杏菜あんなは言った。

「ありがとう」

 依頼人は言った。

「どうして嘘をついたの? あんたは妹じゃなかった」

「真実を言うとあいつらをやってくれるか疑問だったから」

 女の目は虚空を向いていた。目には無数の星が反射してきらめいている。

「あんたは共犯者だったけど、あたしは責めない。とにかく、やることはやった。これで気は晴れたかい?」

「分かんない」

 しばらく考えてから女は答えた。まなざあしはうつろで、きっといかなる景色もとらえてはいない。

 それから少し待ってみたが、女が椅子の上に釘で打ち付けられたかのように動きを見せなかった。

 杏菜は肩をすくめて「仕事は終わりみたいだね」と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る