第26話 無秩序(4)
その後、
「ありがとうね、凛音ちゃん。花鈴ちゃん。今日はたくさん助けられたよ。この後の打ち上げもお招きしたかったけどね!」
タッくんは言った。
「えーん、もうちょっと一緒にいたかったよう」と聖歌。
「私も〜! 行きたかった、焼肉〜!」と花鈴。
「すみません、うち門限が厳しいもので」
凛音はタッくんに頭を下げた。
「いいんだ。その家の教育の方針もあるだろうし、それは僕らの口出しすることではないしね。でもこのお礼は必ずどこかでさせてもらうから」
「ぜったいお願いします! 絶対焼肉で!」と花鈴。
「もちろんだとも。特上カルビをご馳走するよ。二人ともうちに遊びに来てね。プルルも凛音ちゃんに会いたがってるよ」
「プルルって何?」
杏菜が凛音の耳元でささやいた。
「犬」
「ああ」
「杏菜くんも帰っちゃうんだっけ? 残念だな」
タッくんは言った。
「バイトがあるので」
「杏菜くんも次こそ参加してくれよ。それじゃ気をつけて!」
何人かの友人らしき男たちがヒップホップアーティストがよくやるような手を内側に曲げるポーズを杏菜に向ける。彼らにはチョコレート色の中指が突き立てられた。
杏菜は何も言わずに凛音に手を振った。ペデストリアンデッキを駅の向こうに渡っていくのを見守った。
凛音と花鈴がバス乗り場を目指して歩き出すと、聖歌が息を切らして追いかけてきた。
「りんりん、きょうは本当にありがとう。手伝ってくれたこともだけど、そもそもここに参加したらって言ってくれたおかげだよ。参加して本当によかった」
聖歌は凛音の手を取りぎゅっとにぎった。
「ねえねえ、本当に帰っちゃうの? 私まだりんりんと――かりんりんとも――一緒にいたいよ」
「私だってそうだよ」と花鈴。「なんとかお母さんを説得できないかなあ。たまにはいいじゃんって思う。いつもきびしいんだもん」
正直なところ、凛音もこのまま帰るのがもったいないように感じていた。
「説得してみる」
「本当!?」
花鈴と聖歌の顔が明るくなった。
「決めた。そうするよ。私だってみんなと焼肉が食べたい。花鈴はここで待ってて。一度家に戻ってくるよ」
凛音は花鈴たちと十分に距離をとった後で、身体を透明化し飛行した。
母親といちど
対象と目を合わせないことには凛音の催眠術は効かないのだ。
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