第18話 欲望(3)

 ギャル軍団のサト、アイナ、ミオコが隣のクラスから集まりに加わった。にぎやかな声に意識が過去から呼び戻された。

「心配したよ、すぐかけつけられなくてゴメン」

 キネタにまっ先に抱きついたのは長身のミオコだった。それからアイナ、サトもキネタに体を寄せる。

「いいっていいって。こっちこそ心配かけて悪かったよ」

 キネタはほおを赤く染めた。

「タバコなんてもうやめような」とサト。

「サボりなんてもうやめような」とアイナ。

「えっ、やめちゃうの⁉︎ どっちも⁉︎」とキネタ。

りてねえな、コイツ。ウケる」

「お兄さんの件は大丈夫だった?」

 聖歌がミオコにきいた。

「うん。おかげ様で。こっちも病院から出てこられたんだよ」

「もう放課後だけど、結構時間かかったんだね」

「午前中には片付いたんだけど、色々調べたいことがあってね。って、あたしのことより今はキネタだよ。本当によかった。よくあんな高さから落ちて無事だったよ」

「オレも不思議なくらいさ。メガネさんがすぐに助けを呼んできてくれてさ。それから病院に行って即退院できたってワケ」とキネタは凛音にほほえんだ。「重ね重ね言うけど、メガネさんマジでありがとうなんだ」

「そうなの、見上みかみさんが」

 ミオコは視線を合わせてきた。

「ありがとう、親友を助けてくれて」

 ミオコは距離を近づけた。さっきキネタにそうしたように背中に手をまわしてきた。首の後ろからホワイトムスクの香りが漂ってくる。香水が過剰な聖歌やコイコとは違い適切な塩梅あんばいで、センスが感じられた。

「ありがとう。親友を助けてくれて。今日から私たちも親友同士だよ」

 ミオコは右手をさし出した。その手を無視するような凛音ではない。すぐににぎり返した。

「話は後にして準備しろ、準備」とコイコ。

「準備って何の?」

 聖歌がきいた。

「カラオケだってさ。今日が今日だってのに、ウケるよな。よくやるよ、キネタは」

「えっ、本当に?」

「景気づけにいいじゃん。もちろん聖歌とメガネさんも参加だぞ。予定は空いてンだよな?」

「あたしは大丈夫。途中でタッくんとのデートで抜けるけど。りんりんは?」

「私は」

 その場にいる全員の期待が集まっているのを感じる。こんなふうに注目を集めるのは初めてだ。それも全く接点のなかった人たちからの注目を。

「行きたい。私も」

 みんながよろこんでくれた。凛音はうれしくなった。

「決まりだな」とコイコ。「部屋の予約は取れてるか?」

「バッチリだよ。駅前のトコ。広い部屋を取れた。十六時十五分から二時間」とサト。

「禁煙ルームだよね?」

「えっと……」

「冗談だよ。ウケる。もう行こうぜ、みんな」

 コイコの声に従うようにめいめい廊下に向かった。凛音も椅子から立って教室から出ようとしたところ、誰かが肩に手を置いた。

「そうだ。ねえ、いいかな」

 ミオコだった。

「ここ、凛音の席なんだね。きのうなんだけどさ、この辺で口紅落としちゃったんだよ。見かけなかったかな? 真珠しんじゅ色のケースのやつなんだけど」

「ごめん、見てないや」

 凛音は言った。

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