第5話

「普段から君を疎んじていたこの女性の遺言を聞くかい?」

 ビリーの手が、彼女の口に嵌められた猿ぐつわを外す。

「っはぁ!! スミス君、私を助けて!!!!」

「エバンズさん、落ち着いてください、きっと助けが来ます、深呼吸して」

 深呼吸をするエバンズさん。ビリーが彼女の頭に手を置いた。

「この女性が、君を悪し様にしているのを辛く思っていたんだよ。彼女を殺したら、君も救われるんじゃないかな」

「勝手に決めないでください、僕は彼女をどうとも思っていない」

「ごめんなさい、スミス君……私、アンディに気に入られてたあなたが好きではなかったの……」

 そうだったのか。

「別にいいんですよ、エバンズさん」

「おやぁ? エディ、本心を言わないといけないよ。彼女を憎んでいるんだろう? 君が親を憎んでいるように」

 サッと頭に血が上った。

「……僕に親なんかいない」

「君はアンドロイドに育てられたと頑なに思い込んでいるようだけどね。君は両親に慈しまれて育てられたんだよ」

 記憶にぶたれたように、僕は過去を思い出した。手を引かれて家に帰った時のこと、3人で食卓を囲み、談笑していたこと……都合の悪い記憶だった。だって、弟を殺したのは両親なんだ。だから許すわけにはいかない。

「……違う」

「弟さんのことは残念だったね。でも、弟さんを死に至らしめたのは君自身なんだ。その記憶を封印したと同時に、君は両親に愛される君自身を罰した。本当に憎んでいるのは、両親ではなくて、弟さんが享受できなかった幸せを得ている自分自身なんじゃないかい?」

 吐きそうだった。ロボットの熱……それしか僕には与えられなかった。そう信じて生きていきたかったのに、この男は、それを突き崩そうとしている。

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