第3話

「とんでもないことになったな」

 仕事場に着くなり、ケストナーさんが僕にそう言う。

「そうですね」

 僕は椅子に座りながら言った。

「エバンズさん、無事だといいけど」

「もし“ナタの男”の犯行だとすると、無事じゃ済まねぇかもな」

 エバンズさんのいない職場は、いつもよりも静かだった。変わった人だけど、やっぱりいるのといないのとじゃ違う。

「そんな不吉なこと言わないでくださいよ」

「わりぃわりぃ。ま、どちらにせよ今日の記事はエバンズについてだな。自社の人間が対象になるなんて今までなかったことだが」

 黙々と作業をする。記事は無事に新聞に掲載された。

 昼休みにビリーが牛乳と珈琲を補充しにやってきた。

「よう、エディ。えらいことになったな」

「やぁビリー。そうなんだよ」

「通りで静かだと思った」

 カシャン、カシャンと飲料ケースに飲み物を入れていくビリー。入れ終わると、僕の頭をヨシヨシと撫でて去っていった。

 定時に会社を出る。冷たい秋風が通りに吹いていた。ずっと嫌な予感がしていた。なんだか静かすぎる。通りには僕の足音しか響いていなかった。夕闇が濃くなっていく。駅に向かって足早に歩いていると、口元を誰かに押さえられた。甘い香りが鼻腔を貫く。徐々に意識が後退して、僕は膝から崩れ落ちた。それ以降の記憶がない。

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