第3話 再開
その日はきーんと空気が冷え切っていたが、空には雲ひとつなく、気持ちの良い日だった。
今日もいないだろうな、と思いつつこん助は雪をふみふみ化かし合い勝負の場所へと向かった。最後にぽん太に会ってから、もう2ヶ月近く経っていた。
木々の枝には葉っぱの代わりに雪とつららがついていた。オレンジ色に変わりゆく空と共に弱く柔らかく輝いていた。
「あれ…?」
こん助はぴたりと足を止めた。何かがおかしい。いつもと様子が違う。こん助はすぐに気がついた。違和感の原因は、切り株だった。景色に溶け込んでいるが、先週まではなかった。こん助はにやけてしまいそうになる口元に目一杯力を入れて、厳しい表情をつくって言った。
「ぽん太、見つけたぞ!」
ぽんっと軽い音を立てて、切り株はたぬきの姿に変わった。
「よくわかったな!」
ぽん太は以前と変わらない調子でそう言った。
「当たり前だろ!先週までなかったし、年輪の模様が君の目の周りの模様とそっくりだもん。ところで、なんで…。」
ずっと来なかったの…と言う言葉をこん助は飲み込んだ。ぽん太がこん助の口を手で塞いでしまったからだ。
「いいからいいから。次は君の番!僕だって負けないんだから!」
こん助は俄然やる気になって、ぽん太のいない間に練習した変化を披露することにした。
「見てろよー!」
木の葉を頭に載せ、どろん!と変化する。
「え…これは…。」
ぽん太はあ然としている。それもそのはずだ。こん助の変化はいつもの物とは一味違った。
「きつねが…7匹?」
そう、こん助は景色に溶け込む変化をしなかったのだ。自分以外の幻の6匹のきつねを出現させた。それぞれ大きさや毛色、顔つきは違う。幻なので、もちろんさわれないしその内消えてしまう。しかし、制限時間の3分ぐらいは持つ。
「さあ、どれが僕かな?」
7匹のきつねが同時に言う。本物は、いつものこん助と同じ姿をしているきつねだ。すぐに当てられてしまう可能性もあったが、ぽん太はあえてこんな簡単な選択肢は選ばないはずだとこん助は考えていた。こん助の思惑通り、ぽん太はかなり迷っているようだった。
「ヒントをちょうだいよ。こんなの難しすぎるよ!!」
ぽん太が泣きそうな顔をして訴えた。少し可愛そうな気もしたが、こん助は勝ちたい気持ちとほっとかれて苛立っていたのとあり、意地悪をすることにした。
「いいよ。ヒントはね、君が大好きなものさ。」
こう言われて、本来の自分の姿と同じものをぽん太が選ぶわけがないとこん助は考えた。自分たちはきつねとたぬき。毎週会っていたのは、勝負のため。それに、その勝負でさえぽん太はサボっていた。ぽん太が自分の事を好いているなんてあり得ない。きっとぽん太は、好物の柿の色の毛色のきつねを選ぶはずだ。
「それじゃあ、君が本物だ!」
「え…。」
ぽんっと音を立てて、偽物は消えた。ぽん太が迷うことなく手を触れたのは、本物のこん助だった。驚き戸惑いながらも、喜びで綻びそうになる顔をこん助は必死で抑えた。
「ヒントはもらっちゃったけど…今回も引き分けだね!ねぇ、いいでしょ?」
最後の言葉は、こん助に向けられたものではなかった。ぽん、ぽん、ぽん…と辺りで軽い音がして、つららや雪の塊などがたぬきに変わっていった。
ざっと20匹はいるだろうか。大人のたぬき達がこん助を見つめていた。その中でも1番大柄で歳が上に見えるたぬきが口を開いた。
「うむ、そうじゃなぁ。しかし…きつねの小僧、お前は今嘘をついたな。」
こん助はギクリと身を固くした。嘘をついたからどうなるのだろうか。大勢のたぬきに囲まれて、こん助はわけが分からなかった。
みんなにボコボコにされるのかな…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます