第4話 これからも
「しかし、その嘘は…。」
そう言うと、大柄なたぬきはしかめつらをパッと緩めて、微笑んだ。
「ぽん太に会えなかった寂しさゆえだな。本来の負けず嫌いな性格もあるようじゃが、それはそれで良い練習相手じゃ。」
こん助の考えは完全に見透かされているようだった。こん助は恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてうつむいた。大だぬきは今度はぽん太に顔を向けた。
「いいだろう。ぽん太、お前の気持ちも分かったし、そのきつねの小僧が悪いやつではないことも分かった。みんなも、同じ考えか?」
周りのたぬき達が、うんうんと頷いた。こん助には、何が起こっているのかよくわからない。
「では、わしらは先に戻る。きつねの小僧、あまり自分の気持ちを誤魔化すでないぞ。ぽん太、あまり遅くなるなよ。」
「わかってるよ、じいさま。」
ぽん太の言葉に大きなたぬきは頷いて、くるりと背を向けて行ってしまった。他のたぬき達もそのあとを追っていなくなった。
「今の…どういうこと?」
「あのね…。」
困惑するこん助に、ぽん太はこの2ヶ月のことを話した。
およそ2ヶ月前、ぽん太はこん助との化かし合い勝負へ行こうとしたところを、長老のたぬきに見つかってしまったのだ。ぽん太は言い訳したが、すぐに見抜かれてしまい「きつねと会うなんて、もってのほかだ!」と止められてしまった。こっそり約束の場所に行こうとしても、すぐに見つかってしまった。
毎週あの手この手を使って縄張りを抜け出そうとするぽん太を「きつねと会うなんて、だめだ!」と長老のみならず、大人達はみな阻んだ。大人には敵わない…ぽん太はこっそり抜け出すのを諦めた。代わりに提案をした。
「その目で見てみてよ。あの勝負は僕の変化の良い練習になってるんだよ。それに、そのきつねの子は、悪い子じゃないんだ。」
あまりにもしつこく縄張りを抜け出そうとしていたぽん太を、少し哀れに思い始めていた大人たぬき達は、ぽん太の提案を受け入れた。
「ただし、お前がその勝負で無様に負けたり、わしらがそのきつねを悪意あるものだと判断したら、諦めるんじゃぞ?」
長老の言葉に、ぽん太は頷いた。
「…ってことなんだ。ごめんね、びっくりさせて。」
まさかの出来事に驚きっぱなしだったこん助は、話を聞いてしばらくしてから口を開いた。
「じゃあ、君は僕のことが嫌になっちゃったんじゃないんだ。」
ぽん太はブンブンと首を振った。
「逆だよ!僕は君のことが大好きさ。」
何だ、良かった…こん助は涙が出そうになるのをぐっとこらえた。
「って、あれ?僕が君のことを好きだって、君は知ってたんじゃないの?」
さっき自分がついた嘘のヒントだ。こん助は先程の自分の思惑を正直に話した。自分は嫌われていると思っていたこと、わざと当てられないようなヒントにしようとしたこと、たぬきの長老はそれを見抜いてあんなことを言ったこと。
「あはは、君らしいね!」
一通り笑ってから、ぽん太はこん助の手を取って続けた。
「僕の切り株の変化に気付いたとき『先週までなかった』って言ってたでしょ。君はずっと来てくれてたんだよね、この約束の場所に。」
今度はこらえきれず、こん助の目からはポロポロと涙ごこぼれた。
「来週もまた、僕と勝負してくれる?」
ぽん太はこん助の濡れた瞳を覗き込む。こん助はうんうんと、激しくうなずいた。
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