継ぐか、継がないか

ボクが、魔界に連れてこられたのは、

次期、魔王となるためだと知った、午後。


ボクは、いとこ達に会った。もちろん、魔界側の血縁の。


いとこは、言った。

「キミは、魔王になるために、に連れてこられたのだから。

 魔王に、なってよ」


無邪気に、言った。


魔王になるか、ならないか。

ボクには、選択権なんて、与えられているとは思わなくって。

だから、いとこ達の言葉に驚いて。


ボクに、魔王にならない選択なんて、なかった。

だって、

魔王になったら、ずっと、魔界にいられるんだよ。

魔界って、こんなに、楽しいんだよ。


元いた世界に戻る方法も知らないし。


『元の世界に戻りたいのですか』

って、従者にきかれたとき、

ボクは、

「べつに」って、答えてた。


魔界で、特に不自由してないし。


食べるものも、着るものも、遊ぶものにも、

特に不自由を感じていないし。


不思議とね、この世界になじんでいる、ボクがいる。


だからね、

魔王を継げと言われても、

母を呼ぼうと言われても、

全てに「はい」と答えていたんだ。


何の疑問も抱かずに、ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る