第3話 優しさから始まる不幸

兄弟が目覚めたのは、シャルの居る修道院の中だった。他の負傷兵とは、離れた物置部屋に先輩達の計らいで、身体が治るまで、居候させてもらう事になった。取り分け、弟、ナチャの過労と脱水は、酷く、何日も、昏睡する日が続いていた。兄は、やはり、年齢から言って、体力もあったのか、弟より、回復力は早かった。食料も少なく、居候の身で、食事を貰うのは、肩身が狭かったのか、体が元に戻ると、兄のハワードは、村の力仕事や、山に入り、狩の仕事を手伝って過ごす様になっていった。

「これでも、食べなさい」

先輩達は、気遣い残り物のスープの差し入れをしたり、シャルの癒し手の能力もあり、少しずつ、回復していった。

 年月は流れたが、兄弟が、修道院を離れる気配はなかった。女性ばかりが暮らす、修道院に気遣い、兄弟は、村外れの水車小屋に、寝ぐらを借りる事になり、村の雑用や力仕事で、生活を立てていった。兄弟は、どこかの戦から、逃げてきた様で、どこか、訳ありの様子だったが、誰も、詳細を聞く事はしなかった。兄は、精悍で逞しく、信頼があり、弟は、対象的に繊細で、美しく、女性達に人気があった。だが、修道院の先輩達は、兄弟達が長く、修道院に関わる事を嫌っていた。

「シャル。もう、あの兄弟に関わるのはやめなさい」

修道院の先輩は、そう告げた。よからぬ噂を立てられるのも、修道院として、困るし、シャルも次第に年頃の女性として成長していく。年齢が近い事もあり、兄弟の様に、仲が良いのも、いいが、大きな心配事があった。癒し手である。シャルの能力は、この時代に不謹慎であり、修道女の祈りの力で治ったなんて、嘘が通じる訳がない。先輩は、シャルが兄弟達と会うのを禁じた。

「もう、会わない方がいいいと思う」

お裾分けに、立ち寄った兄弟達の水車小屋で、シャルはそう言った。ハワードとナチャは動揺した。

「僕らが、どこから来たのか、怪しいから?」

ナチャは、寂しそうだった。

「村の人達が良からぬ事を言うから、暫くは会わないほうがいいって」

シャルは言った。

「それなら、一緒にどこかに行こう」

兄のハワードは言った。明らかに、シャルに好意を抱いていた。

「それは、できない。門の前に捨てられていた私を、先輩達は、育ててくれた。ここで、働いて、恩を返したいの」

シャルは毅然と答えたが、あう事を禁じられて、ハワードの思いは、募っていった。何かと、口実を作っては、シャルに会いにき、それは、周りの者達から、不自然に映った。

「シャル。噂になるわ」

先輩は、神経質になった。シャルを修道院にある高い塔に閉じ込めることにした。塔は高く、そして、周りからも、よく見える為、ハワードは会う事ができなかった。

「これで、安心」

先輩達は、安心し、塔の中での仕事をシャルにお願いし、食事や雑用を村娘にお願いし、暫く様子を見る事にした。そんなある日。

「食事を届けに来ました」

シャルのいる部屋のドアをノックしたのは、村娘だった。体の華奢で淡い髪の色を持つ、美しい村娘。1日に何度も、村娘は、食事を届け、仕事を運んでいく。シャルは、この娘の深く被ったフードの中の顔を見た時、声をあげそうになった。

「ナチャ?」

兄とは、違い華奢で、色の白いナチャは、女装し、シャルに会いに現れたのだ。

「兄さんにも、黙ってきた」

ナチャは、シャルにそう言い、抱きつくのだった。

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