第4話 儚い恋の行方
フードの中から現れた顔にシャルは、驚きの声をあげそうになったが、そのまま、ナチャは、シャルの唇に覆い被さった。
「待って!」
息も切れそうに、ナチャの顔を押し戻すと、慌てて扉の中に、引き入れた。
「どうして?どうしてなの?来た事がバレたら・・・」
ナチャは、申し訳なさそうに俯いた。
「顔が見たかったから」
「だからと言って、危険すぎる。私達は、何も、関係ない。お互いの為に」
「だめだよ。そんな。僕らの為に」
ナチャは、まだ、子供で、分別が効かない。成人の男性として自覚してきたハワードと違い、全くの子供だった。ナチャは、両腕で、シャルの腰を抱きしめた。
「それとも、僕らの噂を聞いたから?」
土這いの一族が、滅び、その王子達が逃げ出した。土這の一族は、シャルのいる修道院とは、全くの敵同士となる。
「それは、関係ないけど」
ナチャは、純真だ。誰が、何に恐れているのか。善意の奥にある悪意を知らない。答えながら、シャルは言葉に詰まっていた。関係ないのは、嘘だ。この兄弟と自分が、何か、関係があれば、自分は、愚か、魔女狩りで、ピリピリしている街の人達は、これ幸いとここを焼き払いに来るだろう。
「怪我をしている人達の手当てを優先したいの。わかる?みんなが元気になれば、安心して会えるわ」
シャルは、ナチャのフードを下ろし、帰るように促した。
「また、来ていい?」
「だめよ。」
シャルは、ナチャを返すと、その後は、誰かと会う事は、避ける様にしていた。恐れている事が、起こらないように・・・・。だが、願いは、虚しく。土這いの王子が、修道院に逃げ込み、魔術を使う修道女と恋仲になっている噂が、街中に流れていった。修道院が焼き払われる。そんな噂が広がり、負傷兵達を保護する事もできなくなっていた。そんないく日か過ぎたある日の事だった。
「シャル!逃げて」
いつもの様に、塔で眠りにつくと、叫び声で目が覚めて。声の主は、明らかだった。塔の窓越しに、見えたのは、地を赤く染め、倒れいく仲間達の姿だった。
「何が?」
人々の叫び声と共に、聴こえ来たのは、鎧とぶつかり合う音と、漂ってくる強い香の匂いだった。
「魔女狩りだ!」
「ここに、魔女がいる」
狂った様な民衆の声と投石が、塔の壁にあたり弾ける。ついに、恐れている事が起きてしま。シャルの癒しの術の事や匿っていた地這いの兄弟の事が誰かの口を通して知れ渡っていた。
「早く逃げて!」
声と同時に、悲鳴が上がった。シャルは、聞き覚えのある声に、思わず窓から体を乗り出した。
「嘘!」
思わず叫んでいた。声を上げたのは、母親の様に育ててくれていたシスターだった。体を切り刻まれながらも、シャルに何かを叫んでいる。
「止めて!」
自分を愛おしみ大切に育ててきたシスターの体が、無惨にも、目の前で切り刻まれていく。その光景に、身体中の血液が、沸騰した。自分達は、何もしていない。戦で負けた人達を助けてきたのに、どうして?体の中の炎が、燃え上がり、沸点に達した。
「やめろー!」
恐ろしい能力が、体の中で、爆発した。
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