第4話 王都からの使者
街外れの店に王都からの使者が来た。兵士が店の周囲を囲み、馬車から恰幅の良い上等な服を着た一目で上位貴族であるというのがわかる男が現れて、店に入っていった。ジョンは何が起こっているのか混乱して呆然と立ち尽くしていた。
「ここにマリンカという女性が居ると聞いた。王の思し召しにより迎えに来た。」
ジョンはスタンとの話で女癖の悪い王様について聞いていた。血の気がひいた顔で
「俺は独り身で、そんな女性はおりません。」
震えながらもまっすぐに貴族の男と対峙した。
「この家の外にでることは不可能だよ。」
「いえ、ここには俺一人しかいません。お引取りください。」
そんなやり取りをしていると、奥の部屋が騒がしい。ジョンは慌てて作業場に入ると、マリンカが兵士に捉えられていた。
「何をする。」
ジョンが兵士に飛びかかったが、屈強な兵士と商人のジョンではもともとお話にならない。ジョンは壁まで殴り飛ばされた。
「ジョン!」
マリンカの叫びが聞こえるが、ジョンは体が言うことを聞かない。軽く脳震盪をおこしているのだろう。
「手荒な真似はよさないか。勝手に裏口から入るとは私の面目を潰す気か。」
店から奥に入っきた上位貴族が兵士を睨めつけた。
「宰相閣下、しかし。」
「マリンカ殿に何かあれば、王は貴様も私も許しはしまい。」
兵士は慌てて押さえつけていたマリンカから離れた。宰相はジョンに近寄り回復薬を飲ませた。しばらくするとジョンは痛みがとれ意識がはっきりするのを感じていた。
「マリンカは私の妻です。王は婚姻している者も取り上げるのですか。」
「王命である。かの方は女性が絡むと我慢が効かぬ。もしマリンカ殿が五体満足でかの方の元に傅かねば、この街もどうなるか判らない。」
脅しではなく真実であることを宰相は口にした。その眼はじっとマリンカに向けられていた。
「夫としばらくの間2人にしてください。」
マリンカは宰相にそう願い出た。
「暇乞いを告げるぐらいの時間は与えよう。この建物の周囲は囲んである、逃げられはせぬ。繰り返すが、マリンカ殿にご同行願えない場合はこの街はなくなると思ってくれ。」
宰相は兵士を連れて部屋の外へと出ていった。マリンカは机の引き出しから何かを取り出してから、うなだれたジョンを優しく抱きしめた。
「これを使って。使い方はわかるはずよ。迎えに来てくれるのを待っています。きっと大丈夫よ。」
そう言ってジョンの右腕に翡翠色のブレスレッドをはめた。そして自分の親指には榛色の指輪をつけた。
「マリンカ…。」
そして二人は、店の外へと出ていった。
マリンカは連れて行かれてしまった。茫然と店の前で立ち尽くしたままのジョンを憐れむ周囲の人々は、何も声をかけられなかった。何もできない、できなかった人々は徐々に去っていった。
ジョンはのろのろと店の中に戻った。様々な思いが胸中を駆け巡る。自分が彼女の絵姿を王都で風に飛ばされることがなければ、抑々絵姿なんて書いてもらわなければ、後悔しても全ては終わってしまったことだ。
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