第3話 絵姿の行方
その絵の女性に王の目は奪われた。偶然、街中で見つけた一枚の絵であった。
「すぐにこの女性を我が後宮へ招待するのだ。このように美しい女性は私に傅いてしかるべきだ。」
側に控えていた宰相はうんざりした顔を隠そうともしなかった。
王は女性にだらしがない。気に入った女性を見ると、かの女性に婚約者がいようと結婚していようと後宮にと望んだ。そのくせ、側妃のままで王妃にした者はない。覚悟を決めて後宮で暮らす女性たちが自分の王妃を目指して争うのを楽しんでいるのだ。
後宮の女性たちが自分の情を求めて、自分のために争っているのを見たいのだろう。実際の彼女たちは、王の寵愛を受けたいというよりもこうなったら少しでも待遇の良い状態になろうとして、もしくは残してきた家族のためにと争っているに過ぎない。貴族たちも自分の娘がさらわれてはと、娘をあまり着飾らせることがなくなり病弱な娘が増えた。王都の平民たちには王がお忍びで街中に現れるのが知られていて、見目の良い女性は顔を隠したり地味めの様相になっている。それでも、偶に見つかってしまい後宮へと半ば強制的に連行されていく。
王はひたすら女癖が悪かったのだが、外交面や治世に対する能力が高かった。努力してそうなったというよりも才覚があったのだろう。王都とその周辺の女性たちが目を瞑れば、王国は治安が良い健やかな国ではあったのだ。好みの女性が手に入らなければ、王は荒れる。国のために少数の女性たちに犠牲になってもらうしかない、そう宰相たちは思っていた。そう思いながらも自分に娘がいないことに安心している己に罪悪感も感じており、ブランカ王が王である以上仕方がないと諦めていた。
門番が女性の似顔絵を探しているという噂が宰相の耳に入った。
なんでも知り合いの妻の絵姿らしい。門番に直接聞きに行っては、王に目をつけられたと女性が逃げてしまう可能性がある。間接的に探りを入れ、カシウスの雑貨屋の女房だという情報を得た。
女性を連れてくる時に、兵士に一方的に命じるだけでは騒動になる。王の命は絶対だと考える兵士によって対抗した女性の夫や婚約者が暴力に晒され、最悪女性が自害するケースもあった。そのため、必ず最低でも宰相の補佐官を同行させることにしていた。
本来であれば宰相自ら出向くような用件ではないが、今回は己自らが出向くことにした。多分、自己満足なのだと宰相自身にもわかっていた。
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