大荒神武装

朱霊村しゅれいむら

燃え盛る炎に村は侵食されていく。逃げ惑う人々が大勢いた。タタリ神に教われ、血が流し倒れ亡くなっている者もいた。心苦しいが、もう救うことが出来ない。ヤクモは十二聖者の元へ走り続けた。

(急がないと。もっと被害が拡大する前に…。)

ヤクモの頬に冷や汗が滴る。

「居たっ!」

ヤクモの目の前に十二聖者が立ちはだかっている。ヤクモは髪に付けていた勾玉の髪飾りを取った。すると勾玉が青白い光を放ち、ヤマタノオロチの力を宿した大薙刀に変化させた。ヤクモの振り翳した大薙刀は、十二聖者の胴体を真っ二つに斬った。

「荒ぶる魂よ。我が刃と共に踊り狂え!」

ヤクモの声に応えるように大薙刀は周囲の雨水を操作し、雨雲を呼び寄せた。雨は槍へと変化し、十二聖者へ冷酷に降り注いだ。


しばらく時間が経った。今、なくなってしまった人の遺体の回収を行っている。ある人は腹を切られ、ある人は燃える瓦礫がれきに押し潰され、血の生臭い異臭もする。でも一番ヤクモの心に突き刺さったのはそれを見て泣いている人々である。遺体は顔は見えないように白い布をかけている。その遺体を抱え込むように泣いている。声にもならないようなかすれた声で泣いている。その光景がヤクモにとっては一番心に響いた。少しでも早く戻っていたら助けられた命かもしれないのだから。


全てが終わった次の日。朝の景色は戦場の名にふさわしい地獄絵図。土地は荒れ果て、家屋も焼かれた家も何件もヤクモには見えた。ヤクモの大薙刀のおかげで火災の被害は抑えられ、十二聖者も討伐された。それは事実だ。しかし、心の中にはどろどろに混ざり合った気持ちが渦巻いていた。亡くなった人は、二十人近くだった。その中には祭りの中で見つけた家族もいた。

「もっと早く気づいていたら、この人たちはこんなことにならずに済んだはずなのに…。」

ヤクモがそう言って自己嫌悪じこけんおをしていた。すると後ろから肩を優しくポンッと叩かれた。振り返るとそこにいたのはヤクモに焼きそばを売ってくれたお婆さんが立っていた。

「そんな風に気を落とさないで。お嬢さんがいなかったらこの村の人は殆ど亡くなっていたかもしれないんだから。村のみんな、きっと感謝しているわ。ありがとうね。」

ヤクモは確かに全員は救えなかった。それは揺るぎない真実だ。けど、守れるものもあったのだ。

「そうだね…。うんっ。気を落としてたらダメだよね。勇気づけてくれてありがとう。お婆ちゃん。」

ヤクモは声をかけてくれたお婆さんの手を両手でキュッと優しく握った。ヤクモの手からこぼれ落ちてしまった魂たちを無意味にするわけにはいかない。

(天に旅立ってしまった人のためにも、十二聖者を倒さないと…。)

この出来事はヤクモの目的をより強固な目標とすることとなった。


あの事件から三日後、ヤクモは宿で荷物をまとめていた。そう、この村から離れるためである。そのための準備だ。村の周辺にいた十二聖者の討伐を終え、新しい場所へ行く。村の人が本当に優しかったからだろう。村を去ることがやはり悲しくて仕方がなかった。村の人へは昨日から明日去ることを話した。その際、家族を失ってしまった人の話を聞いたりなどもした。

(みんなまた、あの祭りの日みたいに元気になってくれるといいな…。)

そんな心配もしながら宿屋の扉を開けた。すると、村の人たちが立っていた。

(わ、私何か悪いことでもしちゃったのかなっ。やっぱり昨日家に突然訪れちゃったのがよくなかったのかな。)

そう思っていると、あの日の焼きそばのお婆ちゃんが前に出てきた。昨日ヤクモは分かったことだが、この村の村長だったそうだ。

「元気でね。ヤクモちゃん。またこの村に来たら焼きそばつくってあげるからね。」

「うんっ。またくるよっ。絶対っ!」

そうして村の門のところまで村の人たちが来てくれた。

「じゃあ、行ってきますっ。」

「行ってらっしゃい。」

村のみんながヤクモへ手を振ってくれた。ヤクモも大きく手を振り、そして目的の場所 霊光樹林れいこうしんじゅ へと歩いていった。

(みんなならきっと大丈夫だよねっ。よーしっ、頑張るぞー。)

ヤクモは決意を固め、再び歩き出した。


霊光樹林れいこうしんじゅ

薄暗く月明かりが光る頃、ヤクモは森の中で十二聖者の討伐を続けていた。

「これであと半分かー。先は長いなー。」

ヤクモは地面にしゃがんで、袋にあったヒルコの欠片を近付けた。すると、地面にあったヒルコの欠片を吸収した。

「じゃあ、行こっかなっ。」

立ち上がろうと足に力をいれた時、急に体に激痛が走った。

「なに…これ?今日はどこも怪我をしてないはずなのにっ。」

ヤクモに流れる血液がドクンっと激しく鼓動を打っていった。そしてヤクモは自身の勾玉にある転移装置で神殺し衆の治療室へ行った。


ー和の国 診察室ー

「いきなり帰ってきて何事かと思ったよ。頑張っていることはすごいけどもう少し自分を大切にしてね。」

「はい、ごめんなさい。」

今、ヤクモの目の前にいる白衣を来ている医者は、和の国に雇われている医師だ。ヤクモのはよく怪我をしてお世話になっていた。その度に怒られているのだが…。

「まあ、話を変えて。今、君の体にはヒルコの力が流れちゃってる状態なんだよねー。多分、君の体がそれに対応できなくて倒れたんじゃないかな。まあ元々君は神様の末裔みたいだしね。まあ誰かは分からないけど…。まあ普通の人だったら速攻十二聖者になるところだけど、君の中に宿ってる力が中和してる感じだね。」

「そうですか…。あの、治す方法ってありますか?」

流石にヒルコの欠片が戦いのなかでまた暴発でもしたら十二聖者にやられてしまう。

「うーん。残念だけど治すことはできないんじゃないかな。でも二つ方法はあるよ。一つはヒルコの魂の話を聞くことかな。まあこれは感情の共鳴が必須になるだろうから難しいだろうけど。だから、もう一つ。十二聖者を倒してオノゴロ島にいる親玉のクラウスを倒す。これが現実的だね。」

(やっぱりそれしかないんだよね。じゃあちょうどいいかな。目標は一つな訳だし。)

「じゃあ行ってきます。私ならオノゴロ島に入れるでしょうし。」

そう、オノゴロ島に入るためにはその島にある邪気をはねのける神の力が必要だそうだ。そのためにみんな血眼ちまなこでヒルコの欠片を集めている。ヒルコの欠片には神の力が宿っているからだ。

そうしてヤクモが診察室を出ようとした時、医者が止めた。

「行くのはいいけれどもうここには来れないからね。幕府にこの情報を送らないといけないから。君みたいに怪しい人をほったらかしにしないだろうから。だからこれ。」

そしてその医者が持っていたのは傷止めと包帯だった。

「まあ頑張ってきて。君以外可能性がある人いないからね。みんな君みたいに強くないから。まあ群れたら面倒だけどね。」

きっと神殺し衆に追いかけられると遠回しで教えてくれたのだろう。

「ありがとうございます。じゃあよろしくお願いします。」

きっと少し時間を稼いでという意図を理解したのだろう。医者は縦に首を振った。正直ヤクモはまだ理解はできていなかった。でも、止まっていてもなにも解決はしないのだ。進むしか道は残っていないのだから。


ー和の国 幕府会議所 本部ー

「以上が神殺し衆 ヤクモの診察結果です。医者は一年間の牢獄労働の刑に処しました。如何なさいますか?」

大名や幹部がその秘書の話を聞いていた。

「うむ。やはり厄災となり得る者をほおっておくわけにはいかないな。」

ある大名がそう言うと皆、首を縦に振る。

「これより、神殺し衆 ヤクモを抹殺対象とする。取り押さえられない場合、その場で斬る事を許可する。他の神殺し衆を向かわせろ!」

ヤクモが和の国から逃げて一日後、ヤクモへ魔の手が迫っていく。


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