勝利の味。
ポロ、三十四匹。少年、三十一匹。女の子、二十四匹。その他諸々でポロ優勝。
ちなみに俺は六十ジャスト。おじさんは八十くらい釣ってて意味不明。この川そんなに居るのかよ。
「ふんっ」
ポロは嫌味などを言ってきた少年に渾身のドヤ顔を披露して見下してた。身長的に某女海賊みたいに見下しすぎて見上げてる状態だけど。
男の子は悔しすぎて歯を食いしばって真っ赤な顔で涙を流してる。どんだけ悔しいんだよお前。
「よぉし、約束だから明日は一日時間取ってやるぞ。水魔法の基礎を教えてやろう」
そもそも、あんまり釣り過ぎると魚が消えるので日数に制限があるんだとか。
他の名人とかも月に数回の権利があり、名人同士が話し合ってそれぞれが釣りをする日をずらすんだとか。
昨日は領主からの頼みだからノーカン。おじさんは今月にあと二回しか釣りに来れないそうだ。
川に魚が居なくなるとは言っても、上流にも下流にもガガは居るので、少し待てば魚影も戻るとか。イワナに似てるくせにイワナよりも丈夫で図太い魚らしい。
日も傾き始めた夕方の初め頃、オレは河原でせっせと魚を捌いて串を打ってる。年長の少年は悔しすぎて死にそうだが、他の子達はポロを称えて仲良くしてる。
そして年齢を知ってビックリする所までがセットだ。あと女の子に「結婚もしてるのっ!?」と驚かれてる。どうも、旦那です。
「ぷはぁ、美味しい。あー美味しい。いつもより串焼き美味しい。四十三匹目のガガは美味しい」
ポロは子供達を引き連れ、焼けたガガの串焼きを齧りながら少年を煽ってた。ねぇどんな気持ちをリアルにやると血を見るから程々にな。
「つ、次は負けねぇぞ……!」
「ふんっ、次とか言ってる時点で負け犬。勝負に次なんて無い。次勝てば良いとか思うから負ける。今日の勝負で勝てるのは、今日だけ」
真理である。次勝ててもそれは『次の勝ち』であり『今の負け』は覆らない。
しかし相手が十五くらいとはいえ、二歳上なのに大人気ねぇな。そんな子供っぽいところも好きだけどさ。
「そうだなぁ。いつも次が用意されると思って生きてると、痛い目見るよなぁ」
「せ、先生まで……!?」
おじさんもポロの言い分に頷いてる。ああ、冒険者だったんだもんな。次勝てば良いで負けたら魔物に殺されちゃう生活をしてたんだから、ポロの言い分に賛成しちゃうのも仕方無い。
「その点、ポロの旦那様は凄い。エントリーで海竜に遭遇して、そのまま釣り上げた。カイトは次なんて生ぬるい事言わない。出会ったその場で釣った」
「は、はぁッ!? 海竜なんて釣れる訳ねぇだろ! 嘘つくんじゃねぇぞチビ!」
「嘘違う。証拠もある」
張り合ったポロが俺の方に来て裾をくいくい引っ張る。はいはい、出しますよ出しますよ。
「
フルサイズのバハムートを出して川の上に浮かべる。ぷえーからギュオオアアって迫力のある鳴き声に変わったバハムートが、顔を寄せてポロにすりすりした。手懐けてる証拠だ。
「この子はバハムート。カイトが釣って、食べて、加護のチカラで精霊にした。これが証拠。カイトの加護は、自分で釣らないと精霊に出来ない」
突然現れた10メートルオーバーの化け物にビビり散らした少年は尻もちをつき、代わりに他の子供達が「しゅげぇえええ!?」とバハムートに集まる。
「…………こりゃ、たまげたなぁ。兄さん、本当かい?」
「え? まぁ、バハムートは俺が一人で釣りましたよ。八時間掛かりました」
「たまげたなぁ……」
おじさんも感心してくれた。せやろ? 俺もちょっと凄いやろ? まぁ神器のお陰なんですけどね。
「兄さんは他に、どんな魚を釣ったんだい? 良かったら見せちゃくれねぇかなぁ」
それから俺の加護を聞いたおじさんがちょっと思い付いて聞いてくる。だよね、やっぱ魚拓を思い付くよね?
やっぱ釣り人はこうじゃなきゃ。精霊を呼び出せる? うわつよーいじゃなくて「魚拓になるよね!? どんなの釣ったの!?」が正しいのよ。
俺は特に大きかったチビトラやスカーレットを召喚しておじさんに見せた。泳いでる状態の魚を隅々から見れるのは珍しい体験なのだろう。おじさんは食い入るように見て周囲をぐるぐると回ってた。
「…………こいつぁ、良い加護だなぁ」
「でっしょ!? そう思いますよね!?」
「俺ぁ釣った魚は食うしか考えねぇけど、こうやって見るのも良いもんだなぁ」
そうだよ。魚を見るって良いんだよ。実際、観賞魚を眺めてると心に良い効果があるって科学的にも実証されてんだよ。アクアリウムセラピーはちゃんと効果があるのだ。
「良いなぁ、僕も海で釣りしてみたいなぁ」
「無理に決まってるでしょ? 海ってすんごーく遠いんだから! お金いくら掛かると思ってるの?」
「そうそう。俺達がこうやって外に出てるのも先生のお陰だけど、本当はすっごいお金掛かるんだぞ」
俺は日本という比較的先進国に生まれたお陰で海が近かったが、いや島国って事を入れても恵まれてたと思うから置いといて、この都市で生まれた釣り人が海を知らずに朽ちていくのは勿体無いと思う。
「なぁ、領主様が釣り好きって言うなら、釣り人の教育だって言えば海までの旅費とか出してくれないのか?」
「…………………………良いかもなぁ、それ」
思い付いて呟いて見たが、おじさんには好感触だ。知り合いであるおじさんがそう言うのなら、本当に有り得るかもしれないのだろう。
まぁ毎年ここで冒険者を大量に雇って釣り大会をするって言うなら、教育の為に海までの旅費を出すくらいは本当にするのかも。
領主と言う立場なら海に面した領地を持つ貴族に根回しも出来るだろうし、可能性はゼロじゃない。
「もし海で会ったら、また釣りしましょうね」
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