第64話


 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、帰る時間が迫る。


「あぁ、もうこんな時間か……」


 花音は腕時計を見てボヤく。

 夕方の時間帯になり、そろそろお暇することがちらつく時間。

 花音は顔合わせ程度で帰るつもりだった。

 多忙の花音は明日から忙しい日々が始まる。


「えぇ? 花音ちゃん帰っちゃうの?」


 真っ先に悔やんだのは明日香だ。


「もう少し居たいけど、明日からバイトや実習があるから帰らなくちゃ」

「えぇ、もう少し遊びたいよ」


 子供のように駄駄を捏ねる明日香に花音は困った表情を浮かべる。


「立川さんもまだ帰ってほしくないですよね?」


 何故か、明日香は俺に話を振る。

 勿論、花音にはまだ居てほしいが、花音を困らせるようなことはしたくない。


「ごめんね。また会いに来るからさ。時間があれば電話もするし」

「じゃ、ハグしてください」


 明日香の提案に花音は迷うことなくハグをした。

 その状態で明日香は羨ましいだろうと言っているようにドヤ顔を見せる。


「はい。おしまい。じゃ、私帰るよ」


 あっさりと花音は言う。


「新幹線の時間は?」

「えっと、十九時四十五分」

「私のママの車で送るよ! はい、すぐ支度する!」

「うん。ありがとう」


 花音が帰る。次はいつ会えるだろうか。今だって久しぶりなんだ。

 半年後? もっと先? ダメだ。耐えられない。


「立川さん。何をやっているんですか。早く乗ってください」


 明日香が俺を呼ぶ。


「え?」

「え? じゃないですよ。彼女を送らないなんて何を考えているんですか。さぁ、乗った! 乗った!」


 明日香は無理やり俺を後部座席の真ん中に乗せた。


「しゅっぱーつ! ママ、早く出して」

「はい、はい」


 明日香の母は渋々と言った感じで車を出す。

 車で走ること四十五分。ようやく駅に着いた。

 運転手の明日香の母を車に置いていき、俺と明日香は花音の見送りに出る。


「ねぇ、花音ちゃん」

「な、なに?」

「私の秘密。立川さんに言ってあげてよ」

「なんで私が言うの?」

「いいから。おあいこ!」


 明日香は花音の秘密を言ったことに対して気にしている様子である。

 言われたら言い返してほしいと言った具合だ。


「家では裸族」

「それは立川さんも知っている話でしょ。あるじゃないもっとすごいやつ」

「えぇ、そんなのあったかな?」


 花音は惚けるように言った。

 何だ? 明日香の秘密って。そう言う言い方をされると気になってしまう。


「あるでしょ。花音ちゃんしか知らないすっごいやつ!」

「んーまぁ」


 白々しいような反応をする花音に明日香は少しムキになるように言った。


「もう! 意地悪。私は自転車に乗れないの!」

「あはは。まだ克服していないんだ」


 愛想笑いする花音。

 高校生にもなって自転車に乗れないってなかなかレアだなと心の中で思う。


「ふん。次、花音ちゃんと会う時はサイクリングしようよ。克服してやる」

「うん。期待せずに待っておくね」

「期待してよ!」


 和やかになった空気に明日香は真顔になった。


「じゃ、私はこれで。先に戻っているから後はお二人でどうぞ」


 明日香は気を使ってくれたのか、駆け足でその場を立ち去った。


「嵐のような子だったでしょ」

「うん。でも、良い子だよ」

「私の自慢の妹だからね」


 刻々と花音との別れが近づく。

 こうして一緒に居られる時間は限られている。

 ちゃんと言うべきことはここで言えないと次はいつ言えるか分からない。


「飲み物でも買うよ。何が良い?」

「良いの? じゃ、水で!」

「……意識高いな」


 俺は近くの自販機に駆け寄った。

 俺はこの数分の間に花音との距離を縮める決定的な何かが求められている気がした。




⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

お久しぶりです。

新作の告知になります。

是非ともよろしくお願い致します。

https://kakuyomu.jp/works/16818023213774200557


 


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肉体関係にしていた美少女、実は高スペックJKであることが判明する。その美少女にセフレがいると噂が広がる中、それが俺だと死んでも言えない タキテル @takiteru

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