第63話


 明日香から花音の秘密が明かされたが、それは全く気に留めるものではないと俺は思う。

 昔がどうであれ、花音は花音。何も変わることはない。


「明日香ちゃん。結果的に何もなかったけど、後で覚えていなさい」


 冷めた口調で花音は圧をかけた。

 それを見た明日香はブルッと身を震わせた。


「あ、あの。花音さん? 暴力的なことはちょっと……」

「大丈夫だよ。そんな野蛮なことするわけないでしょ。ただ、ちょっ……とお仕置きするだけだよ」


 にこやかに笑顔で言う花音は少し怖かった。


「わ、私お腹空いちゃったなぁ。下で何かあるかな。ちょっと食べてこよっと」


 そそくさと明日香は部屋から出て一階に降りていく。

 二人になって花音は昔話をするように言った。


「私ね。昔は結構甘やかされて育ったんだよね。一人っ子だったし、その頃は両親も仲良かったし。だから子供の頃は幸せ太り? ってやつだったんだよね。でも、同級生にバカにされたりしてさ。すっごく悔しかった。今に見てろ! って思って努力した。でも食べなければ食べないで周りから心配されて心配させないようにとにかく食べた。結局なりたい自分に近づいたのは中学の頃。その頃には両親の仲が悪くなりはじめて結構痩せたんだ。そこから理想の自分を思い描いて今の体系を維持した。そんなところかな」


 話切って花音は俺の方を見た。


「そう、何だ。そんなことが……」


 気の利いたことが言えない俺は情けないと思う。

 こう言う時、なんて言ってあげれば正解なんだ? 頑張ったね? 偉いね?

 いや、なんか違う気がする。結局何を言っても正解なんてないかもしれない。

 かと言って不正解もない。


「ねぇ、たっちー。明日香ちゃんはね、私にとって唯一素の自分で居られる相手なんだよね」

「素の自分?」

「相手によく見られたい。自分の嫌なところを隠したい。本当の自分を出せない。そう言う感情ってあるじゃない? 明日香ちゃんはそれらを全てさらけ出せる相手何だよね。同じようにあの子の嫌なところも良いところも全部知っている。だから憎めない相手なんだよね。たまにウザいところもあるけど、それは愛嬌ってやつで」


 照れたように花音は言う。


「花音は俺に対しても本当の自分をさらけ出せなかったり……する?」


 ふと、思ったことを口にしていた。

 すると花音は少し考えた様子を見せた後、応えた。


「まぁ、好きな相手には嫌われたくないって感情はあると思う。反射的に出せていないと言えばその通りかもしれないね。たっちーもそうでしょ? 好きな相手には嫌われたくないって気持ち。少なからずあると思うけどな」

「俺は……どんな花音の姿、言動、仕草を見ても嫌いになることはないと思う。どんな花音でも見たい。だから……可能な限りでいいからその、明日香ちゃんに見せている姿を俺にも見せてほしい。なんて」


 言いたいことを言えず少しぼかしながら言うのが精一杯だった。

 それでも花音に伝わってくれただろうか。


「うん。それはさっきの対応を見ればよく分かるよ。たっちーは私の全てを許してくれるんだろうなって。でも、そんなに甘えても負担にならないかな? 私、意外と甘えん坊だし、わがままだし、感情的になることだってあるし、自分でも性格悪いって思う瞬間もあるし、全部を全部受け止めると結構大変かもしれないよ。少なからずたっちーには面倒臭い女って思われたくないかな」

「大丈夫。全部受け止めるから!」


 即答で答えた俺に対して花音は口を開けたまま呆然としていた。

 状況を飲み込んだ花音は再び笑顔に戻り答えた。


「うん。じゃ、可能な限り少しずつ素の自分をたっちーの前でも出すようにするから……ね?」

「あ、ありがとう?」

「じゃ、手始めに一つアホになっていい?」

「どうぞ」

 花音は上着を脱ぎ捨てて薄着になった。

「せーの!」


 花音はダンスを披露した。何のダンスか分からない。

 しかしその動きにキレがあり、様になっていた。


「これは私が部屋にいる時、ストレス発散のためにするダンスなの。ダイエットにもなるし眠気防止にもなるし身体を動かすことによって脳を刺激して勉強に集中できるんだ。私の日課なんだよね」

「そうなんだ。上手だね」

「たっちーも一緒にどうですか?」

「え? 俺も?」

「二人でアホになろう。大人ぶってもダメ。基本、皆子供みたいなものだからこう言う息抜きは大事だよ。私の動きを真似して」


 花音に急かされて俺は一緒になってダンスする。

 最初は恥ずかしかったけど、やってみると楽しくなってきた。

 これがアホになるってことなのか。花音はいつもより楽しそうである。


「うるさーい! 上でバタバタしないでよ。底が抜け落ちたらどうするのよ」


 血相を掻いて明日香が部屋に入ってきた。


「あ、ごめん。たっちー。外でやろうか。明日香ちゃんも一緒にいかが?」


「……仕方がないわね」と三人で大汗を掻きながら激しいダンスをした。


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

お久しぶりです。

新作始めました。こちらも是非、よろしくお願い致します。

デスゲーム系の作品です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330669294685224


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