第57話
暗闇の道を歩き進めていた時だ。
「ねぇ、たっちー。変じゃなかった?」
「ほら、さっきすれ違った女の人」
「花音、お前も気づいたか」
「うん。たっちーも気づいたんだね。きっとあの人、フラれちゃったんだよ」
「へ?」
「夜景を見ながら良い雰囲気になったけど、何か揉めてそのままフラれちゃった。だから一人で下山していたのよ。普通だったらこんなところ女が一人で来るわけない。相手の顔を見たくないあまりそそくさと一人で帰った。きっと頂上にいる相手は今頃、呆然としている頃ね。なんだか、ちょっと悲惨」
花音はありもしない物語を勝手に想像し、勝手に哀れみになっていた。
「いや、多分そうじゃないと思うけど」
「ん? たっちー私の仮説とは違う考えなんだね。どんなシナリオを予想したか教えてよ」
「シナリオがどうと言うよりか、あの人……多分、生きている方じゃないかと」
「どう言うこと?」
「だからその……俺たちが今すれ違った人は幽霊だったんじゃないかって」
「幽霊? まっさかぁ」
と、花音は俺が冗談でも言ったように軽くあしらった。
「私、占いとか非現実的なことは信じないタイプなんだよね。結局は自分の目で見たものしか信じないから。幽霊なんて空想上のものじゃない。あははは」
いや、今その目で見たものがそうなんですが、と俺は思った。
俺はスマホで公園の名前と幽霊で検索した。
すると自殺したニュースが表示された。
三年前に公園内のトイレで女性が自殺したと言う記事である。
別のページでは掲示板には幽霊を目撃したと言う内容が書き込まれている。
表向きは夜景の隠れスポット。裏向きでは心霊スポット。このような二面性のある公園だったのだ。
俺は最後まで記事に目を通さなかったが、公園の事実を知って絶望した。
「花音、引き返さない?」
「何で? もう少しで頂上だよ?」
「いや、でもここは色々訳ありというか……」
「あ、見えてきたよ。頂上だ! 私、一番乗り」
意気揚々と花音は駆け足になりながら頂上へ踏み出した。
これはもう行くしかないと俺も決心した。
「うわぁ! 綺麗!」
頂上では街を一望できる景色が広がっていた。
工場のライトが星のようにキラキラと輝く。偶然が重なり合った奇跡の夜景と言える。
「噂通り、綺麗なところ。来て良かったね」
花音は満足そうに言う。
確かに花音とこのような夜景が見られて俺も満足だった。
「人工的に作られた柵にベンチもある。絶対、観光スポットとして狙っているよね、ここ」
「そうだね」
「風当たりがいい。ちょっと寒いけど」
「俺の上着羽織りなよ。ありがとう」
しばらくの間、俺と花音は夜景を見ながら老けっていた。
風で花音の髪がなびいた時、絵になるくらい綺麗なものだった。
「よし! 記念写真撮ろう!」
「うん」
準備がよく花音は自撮り棒を取り出す。
夜景をバックに花音とツーショットを撮ることに。
「はい。チーズ!」
カシャッと記念の一枚が撮られた。
「うん。よく撮れている。たっちーに写真送るね」
「ありがとう」
夜景の綺麗さもあるが、花音の可愛さがより引き立っているように見えた。
まさにベストショット。
「今年はなかなか会えなかったけど、来年は出来る限り会える頻度を増やそうね。旅行とか行きたいね。時間あまり取れないから近場になっちゃうけど」
「花音とならどこでもきっと楽しいよ。以前行ったキャンプも最高だったし、あんな感じで」
「あぁ、付き合った日の時か。懐かしい。そういう日もあったね。それもいいけど、グレードアップしたことをしたいね。例えば、海で水上スキーとか!」
花音はアウトドア系の旅行が好みのようだ。これは体力を付けておかないと花音を楽しませてあげられない。今のうちに筋トレをしておこうかな。
頂上には何組かのカップルがいた。地元だけが知るスポットというより知られている名所であることが窺える。
「うーん。妙だな」と小さい名探偵のように花音は首を傾げる。
「何が?」
「男の人がいない。あれから誰ともすれ違わなかったから頂上にいると思ったんだけど、どこにもそれっぽい人がいないね」
花音はすれ違った女の人の連れがいると思い込んでいるようだ。
「ここにいる人に聞いてみようか」
「興味本位でカップルの時間を邪魔したら悪いよ」
「それもそうか。でも気になるんだよね。一度気になるとずっと気になる性格なんだよね、私って」
好奇心があることは良いことなのだが、今回ばかりは抑えてほしいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます