第54話
花音と半年ぶりに身体で語り合った。文字通り。
一通り終えて花音は服を着る。
「ふぅ。色々分かったよ。今のたっちーの状況が」
「分かったって何が?」
「今の感情。これまで溜まっていたもの。日々のモヤモヤ。これからどうしたいのか」
「言葉なく分かるかよ」
「分かるよ。言葉なんてなくても。ずっと最低限の人付き合いしかしてこなかったんじゃないの?」
「まぁ、それは当たっている」
「他には……最近、相談できる人が出来たんじゃない?」
「え?」
俺は花音に見透かされたようで驚いた。
「やっぱり。他にも色々あるけど、キリがない」
「行為でそんなに分かるものなんだ」
「私だけかもしれないね。実はね、たっちーと友達になる前もどんな人か察しがついていたんだよ」
「そうなの?」
「性格、好きなこと、嫌いなこと、後は男として魅力があるかとか」
最後は行為関係なしに見た目だけの話に感じるが、少なからず花音は行為だけで相手を見透かしていることが窺える。
「それでも今のたっちーはどう? 胸のモヤモヤは消えたんじゃない?」
そう言われて俺は自分の胸に手を当てた。
モヤモヤが無い。むしろホッとしている自分がいる。
「よし。気持ちは落ち着いたね。じゃ、出かけようか」
「出かける?」
「今日は大晦日だよ。家でテレビを見ながら年を越すのもいいけど、今日はたっちーがいるから」
五分で支度を済ませて家を出る。
時刻は十九時を回っている。年越しまで五時間足らずだ。
「昔はまだ学生だったから夜歩くのは抵抗あったけど、今は気にせず歩けていいよね」
「そうだね」
花音と夜の街を二人で歩くことは新鮮に感じた。初めてというわけでは無いのだが、髪が伸びて少し大人っぽくなった花音と歩くことがそう感じた。
目的地は特に決めていない。ただ、なんとなく歩いているだけだった。
「この辺、何かあったっけ?」
「いや、そんな目新しいものは無いと思うけど」
「あの派手な建物ってなんだろう」
花音が目を向けた建物に俺は答える。
「あれはパチンコ屋だよ」
「へぇ。一回打ってみない?」
「え? 花音ってギャンブラーだったの?」
「したことないけど? こういうのは経験って言うじゃない? 私ハマることはないから大丈夫。だからいいでしょ?」
「花音がどうしてもって言うなら俺はいいけど」
「ありがとう。せっかくだから勝負しよう。一時間でどちらが多くの玉を出せるか。負けたら罰ゲームね」
「え? 勝負するの?」
「そっちの方が燃えるじゃない」
花音の強引な誘いで俺たちはパチンコ屋に入店する。
店内に入ると凄まじい騒音が響いた。
「うわー。これは鼓膜やられるわ。さて私はどの台にしようかな。たっちーはどれにする?」
「じゃ、あれにしようかな」
「あのアニメ知っている。有名なやつだよね」
「うん。どうせやるなら知っているやつの方がいいし」
「じゃ、私はあれにしようかな」
花音が選択したのは魔法少女系のアニメの台である。
「それ知っているの?」
「知らない。見た目が可愛いからなんとなく」
少し離れてしまうが、振り向けば近くにいるので花音を見守れる位置である。
「ここにお札を入れればいいのかな?」
お金の入れ方も玉の出し方もお互い初めてだったので覚束ない。
周りの人のやり方を見よう見まねでパチンコを楽しむ。
「くっ。金がドンドン飲み込まれていく。一瞬で玉が無くなったじゃん」
現時点で五千円も台に飲み込まれている俺は無性に怒りが込み上がった。
これじゃ台の養分になるだけだ。
いくら続けても同じことの繰り返し。俺は台を変えようと席を立ったその時だ。当たりの演出と共にジャラジャラと玉が出る音が響いていた。
「わ、わ、わわわわわ! たっちー。ヘルプ。玉がどんどん溢れてくるよ。これどうしたらいいの? 止まらないんだけど」
花音は俺に助けを求めた。
振り向くと花音の台は大当たりで玉が一気に放出されていた。
「嘘……だろ?」
花音のあまりの幸運ぷりに気が引けた。
言うまでもないが、この勝負は花音の勝ちで俺は罰ゲームを受けることになった。
大晦日の二十時を少し過ぎた頃の出来事である。
「たっちー、ねぇってば」と花音は俺を呼ぶが、俺は冷静に店員を呼んだ。
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