第52話


「うぅ。寒っ! 今日は一段と冷えるな。早く帰って温まりたい」


 嬉野との食事を終えて帰宅するとポストに何かが挟まっていることに気付く。

 茶色の包みがポストからはみ出ているのだ。

 玄関先でジッと確認する。差出人が書いていない。

 と、いうことは誰かが直接ポストに入れたことになる。

 中を開けてみるとそこにはワイヤレスイヤフォンが入っていた。


「これって……」


 包みを広げるとメッセージカードが床に落ちた。

 そこにはこう書かれている。


【ちょっと早いけど、メリークリスマス。クリスマスプレゼントなのだ。大事に使ってちょ! 花音より】


 今日は十二月二十一日。

 早いクリスマスの前にここに花音が来たってことか?

 慌てて周囲を確認するが、花音がまだ近くにいるはずもなく。

 仕方がなく俺は電話をすることにした。

 三コールで花音は電話に出た。


「もしもし! 花音?」


【ハロー。おひさ! たっちー。その慌てた様子だと例のプレゼントは見てくれたんだね? 今、見たってことは遊び歩いていたな?】


「見た! いや、仕事仲間と食事することになって……。それよりここに来たのか?」


【うん。ビックリさせようと思ってね】


「今、どこにいるの?」


【もう近くにはいないよ? 家の方に戻ってきた。今日はたまたま近くで研修があってさ。ついでに寄っただけなの】


「言ってくれたら仕事でも飛んで帰ったのに」


【それをされたら困るから言わなかったの。それよりプレゼントは気に入ってくれたかな?】


「気に入った! 大事にするよ!」


【そう。喜んでくれたならよかった】


 プレゼントのサプライズもそうだが、花音の声を聞いたのはいつぶりだろうか。しばらく聞いていないので懐かしさを感じた。


「あ、あのさ……。最近はどう?」


 だぁ、俺はなんてざっくりしたことを聞いているんだろうか。


【うん。それなりに忙しくしている。医者になる夢はまだまだ先の話かな。そっちはどうなの?】


「仕事には慣れたところだよ。毎日つまらない生活を送っているって感じ」


【つまらないんだ。私は今の生活は楽しいよ? そりゃ、辛いこともあるけど、それを含めて楽しいんだよね】


「花音はいいな。楽しいことがいっぱいで」


【なんか皮肉に聞こえるなぁ。何かあった?】


 俺はせっかく花音と電話しているのに不安を漏らしていた。

 その結果、心配をかけてしまった。


「いや、別に。最近、うまくいかなくて愚痴っちゃった。ごめん」


【それは別に構わないよ。私だってそういう時はあるから。何か気にしていることがあるなら聞くよ?】


「花音は俺に会えていない間、ずっと楽しいって言っていた。俺が居なくても楽しいってことなのかな?」


【なによ、それ】


 少しピリッとした声色で花音は言った。

 流石にまずいと思った俺はすぐに謝罪する。


「あ、いや、ごめん。勝手なことを言って。忘れて」


【たっちーの気持ちはよく分かった。よし、じゃこうしよう。大晦日に会おうか。そこで腹を割って話そうではないか】


「え? 会えるの? でも忙しいんじゃ?」


【年末年始くらいは実家に戻れるよ。だから会える時間も多少はあると思う。たっちーは私と会えていないことでおかしくなっているんだよね? だから会っていっぱい話そう。それでいいかな?】


「う、うん。分かった」


【また連絡する。私がたっちーのナヨナヨを正してやるから覚悟しておきなさい。それじゃまたね】


 花音との通話は切れた。

 久しぶりに聞いた花音の声はいつもと変わらず明るく活気的で元気にさせてくれるものだった。





 それから何事もなく時間だけが経過して大晦日を迎えた。

 花音は昨日から実家に戻っているそうだが、家族との時間があり、俺とはまともに連絡を取れなかったそうだ。

 俺の家に来るって話だったが、予定の時間を過ぎても花音は現れない。


「何かあったのかな?」


 そわそわする俺だったが、それから数時間が過ぎて時刻は十五時を迎えていた。ドタキャン。そう頭に過ぎった俺は悲しくなった。

 花音は俺よりも今の生活で新しい彼氏を作ったのだろうか。

 嬉野の言ったことが実現したのかもしれない。

 そんな時だ。呼び鈴が鳴った。


「花音?」


 急いでドアを開けるとそこには花音が立っていた。


「やぁ。ごめん。遅れてごめんね。たっちー」


 実に半年ぶりの再会の瞬間である。

 嬉しいというよりも複雑な感情が入り混じっていた。

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