第50話
焼肉屋で同期の嬉野悠里と対面になって話が盛り上がっていた。
「よく作者の理想のヒロインが出るって言うけど、立川くんも理想を書いていたりするの?」
「まぁ、全部が全部そうってわけじゃないけど、理想は混ぜているかも」
「ふーん。じゃ、立川くんは真面目で活発な女の子が好きなんだ」
「……そうかも。と言うよりそういうヒロインの方が物語として動きやすいから」
「確かに地味な女の子は動かしづらいかも。そういえばいつから小説書いているの?」
「中学の頃かな。きっかけは教室が居づらくて図書室に通うようになって自然と書きたいと思ったから」
「立川くんって昔から人付き合い苦手だったんだね。分かるわ。逃げ場所が図書室になること」
「嬉野は違うだろ?」
「私は単純に本が好きだから図書室に通っていたかな。タダで読めるんだから通わないと損かなって」
「なんだよ、それ」
「私も自分で小説書いたことあるんだよ?」
「え、なにそれ。見たい」
「残念。結局完結まで書けずに押入れにいき。読むのはいいけど、書く人って凄いや。私にはできない」
嬉野は育てた肉を俺の更に置いた。
俺はその肉にタレを絡めて食べた。
「立川くんの作品は時間を掛けて見るとして実際どうなの?」
「実際って?」
「これよ」と嬉野はマネーを手で示した。
「本を出しているならそれなりに貰っているんだよね?」
「バカ言え。貰っていたらこうして働いていないよ。貰ったとしても小遣い程度しかもらえない」
「で? いくら?」
嬉野はしつこく聞いてきた。確かに一般人からして作家がいくら貰っているのか気になるものだ。
仕方がなく俺は指で示した。
「え? それだけ?」
「当たり前だ。本出しただけで食える奴は一握りだけ。殆どの作家は俺みたいに兼業しながら書いているんだよ」
「そっか。それでも書き続けているんだね」
「別に俺は金のために書いているわけじゃない。勿論、本を出したら金は付きまとう話だけど、それでも書き続けるのは小説が好きだから。それに尽きるな」
「立川くん。今、カッコイイこと言ったね」
「別に普通だよ。好きじゃなきゃ書くものも書けないし」
「確かにそれは言えている。はへー。私の身近にこんな凄い人がいたなんて知らなかったよ」
「別に俺は凄くないからな?」
「またまたぁ。そう言えばもう一つ気になることがあるんだけど」
「なんだよ」
この際、答えるつもりだった。
嬉野なら別に言っても問題なさそうだと思ったからだ。
「立川くんって彼女いるの?」
「小説に関してじゃないのかよ」
「それはもうお腹一杯。それよりいるの? いないか。立川くん仕事しながら小説書いているんだもんね。彼女作る時間もなさそうだし」
「誰がいないって?」
「……え? 彼女いるの?」
「まぁ、一応」
俺は目線を下に逸らしていた。
「なんだ。だったらそう言ってくれれば良かったのに。あ、自分のことは喋りたがらないから言わないか」
「別に聞かれたら言うし」
「もしかして立川くんの彼女って小説に出てくるヒロインみたいな人?」
「まぁ、その彼女をモデルにした作品もあるくらいだから」
「それ、どの作品よ?」
俺は小説投稿サイトのページからその作品を教えた。
「この作品、絶対読む」
「やめろ。恥ずかしいだろ」
「立川くんの彼女がどんな人か気になるから。じゃ、頻繁にデートもしているんだね。へぇ、いいな」
嬉野は勝手に解釈して盛り上がりを見せた。そんな嬉野の勘違いに俺は否定する。
「していないよ」
「え?」
「いや、だからデートとか頻繁にしていない。最近、なかなか会えていないし」
「え? 付き合っているんだよね?」
「付き合っているけど、お互い忙しいから会うのは二ヶ月に一回。最近では半年くらい会っていないかも」
「半年? なに、それどう言うこと?」
嬉野の興味は俺の彼女へ向けられた。
普通では考えられないかもしれないが、お互い納得して付き合っている。
俺の事情を聞かない限り帰らないと言わんばかりに嬉野は興奮していた。
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