第48話 一時の別れ
電車に乗っている間は終始無言だった。
遊び疲れていることもあるが、不安と安心が混ざり合って言葉なんていらないと言うのが導き出された。
しかし、会話がなくてもしっかりと手は繋がれていた。
そして電車の乗り継ぎで最寄駅についていよいよ別れてそれぞれに家に帰る直後のこと。
「ここでバイバイだね」
花音が切り出した。
「そうだね」
「私たち、付き合っているんだよね?」
「それはまぁ……」
「何でそんな自信無さげなわけ?」
「いや、なんか現実感がないと言うか。今まで思い描いていた理想が現実になって混乱している」
「じゃこれが夢だったら良かった?」
「いや、現実であってほしい」
「安心してよ。これは現実だよ。たっちーの彼女はここにいるから」
「うん。そうだね。本当に花音が彼女になったんだ」
「そうだよ。身体の関係から始まって順番は逆だったけど、行き着いた先は最高の始まりだと思っている。私のことを応援してくれる人なんて他にいないよ。ありがとう。私の彼氏になってくれて」
「こちらこそありがとう。俺の彼女になってくれて」
花音は顔を隠した。
「花音?」
「いや、改めて言われると照れる。やっぱり言葉って興奮するね」
急に恥ずかしくなってしまい、俺たちは数分の間、また黙り込んでしまう。
だが、この間にも少しずつ別れの時間は迫っている。
「次は……いつ会えるかな?」
ボソリと花音は呟く。
そうだ。付き合えたと言ってもこれからは簡単に会えなくなってしまう。
応援すると宣言した今、俺のわがままですぐに会いたいとは言えない。
言えないけど、やっぱり花音との時間が減るのは寂しいのが正直なところ。
言いたいけど、言えないもどかしさが付きまとう。
「勿論、時間が取れそうな時はちゃんと報告する。電話でもメールでも時間が許される時は連絡するから。それでもちゃんと待ってくれる?」
「当たり前だ。いつでも待つって言っただろ? それに俺も考えることがあってさ」
「考えること?」
「待っているだけじゃなく俺も花音のように夢を追いたい。お互いに夢を叶えよう」
「たっちーの叶えたいものって何?」
「今。良いアイデアが思い浮かんだんだ。新作を書いて多くの読者の心に刺さる作品を出したい。今は駆け出しだけど、多くの世間に知られる作家になりたい」
「それは凄いね。でもたっちーなら出来るよ。良い作品読ませてね」
「うん。任せろ」
会えなくても二人は繋がっている。
そう信じて俺と花音は誓い合った。
応援される側と応援する側ではなくお互いがどちらにもなれる関係性でいよう。それは言葉ではなく目で分かち合えた。
「そろそろ時間だね。たっちー」
「うん。気をつけて」
「たっちーもね」
電車に乗ってからずっと繋がれた手は離された。
次はいつ会えるか分からない。
それでも問題ない。
だって信頼関係が出来上がっている。
お互いの時間は無限ではない。会えた時に愛し合えればそれでいい。
背中合わせでそれぞれの道へ帰る。
楽しかった時間も終わりを告げる。でもこれは永遠ではない。
次までしばし待たれよ。そう心で念じた。
「たっちー」
別れたはずの花音の声が背中に突き刺さる。俺は思わず振り返った。
「ありがとう。次会った時は〇〇○しよう!」
女の子の口から恥ずかしい言葉に俺はドキッとした。
いや、恋人同士全然いいのだが、サラッと言ってしまう花音の精神は強かった。
勿論、近くにいた通行人は花音を不思議そうに見ていた。
人の目を気にしてほしいものだが、その言葉がとても嬉しかった。
俺は親指を立てて頷いた。
それを見た花音は満足そうに手を振りながら笑った。
最高の形で別れた俺はホッとしていた。花音は本当に良い子だ。
しばらく会えないのは寂しいが、会った時のためにそれは取っておこう。
家に帰っても花音の最後の笑顔が鮮明に頭に残っていた。
今日の今日だか、やはり花音のことで頭がいっぱい。
「花音……」
振られて二度と会えないみたいになっているが、そうじゃない。
むしろその逆。俺は今、最高の幸せ者なんだと言い聞かせた。
■■■■■
もうちっとだけ続くのじゃ。
新作準備も併用してますので投稿頻度は激遅です。
申し訳ありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます