第47話 成立


 一時間待ってようやく電車に乗って二人掛けの座席に座っていた。

 俺も花音も電車内での会話はない。

 ただ、二人の間の手はしっかりと握られていた。

 この旅行が最後かもしれないと花音から言われたことで俺なりに思うことがあった。

 今の楽しいを取るか、今後の将来のために頑張ることを取るか。

 普通であれば将来のために頑張ることを優先するべきだ。

 しかし、今だからこそ出来ることがいっぱいあるのでどちらが正しいかと言われたら難しいところもある。

 あの問いに俺はこう答えた。


「花音の考えは正しいと思うよ。今よりも将来が大事に決まっている」


「たっちーは私と遊べなくなるのは平気ってこと?」


「それは勿論、嫌だよ。でも永遠じゃないだろ? 今は我慢しなくちゃいけない期間だから仕方がないけど、落ち着いたらまた遊べるじゃないか」


「それがずっと先になっても大丈夫ってこと?」


「勿論。俺は花音の将来を応援したい。頑張っている花音が何より好きだからさ」


 俺がそう言った瞬間、花音は俺の胸に飛び込んだ。


「ごめんね。そしてありがとう」


「ど、どうした? 急に飛び込んで」


「いやね。たっちーがもし私の考えを否定したらどうしようと思って。もし考えが合わなかったらこの旅行でお別れだと思ったからさ。嬉しくて」


「何を言っているんだ。俺は花音のことが何より大切だ。それに花音がやりたいことを俺は全力で応援したい」


「やっぱりたっちーは私の思った通りの人だ。私の目の付け所は間違っていなかった」


「それはどうも。俺も花音に向き合えて本当に良かったと思っている」


「それでね。遊ぶ時間は極力無くなることになると思うけど、私たちの関係はこれからも続く。もう一つ考えていることがあって。これが胆なんだよね」


「何を考えている?」


「勉強に専念して頑張ることは定まったんだけど、もし恋愛を続けてそれが勉強の妨げになったらどうしようって考えているの。成績が落ちて医学部の大学に入れなかったらそれこそ本末転倒じゃない?」


「勉強と恋愛の両立か。それは人によると思うよ。理解のある人だったら全然問題ない。でも理解がない人だったら両立なんて出来ない。でも俺は花音に理解したいし、理解するように努力する」


「どうしてそんなに私に合わせてくれるの? たっちーからしたらメリットなくない?」


「メリット? そんなのいらないよ。俺が花音に合わせるのは好きだから。大好きだから。それ以外に理由なんていらないよ」


「私と会えなくても平気?」


「永遠じゃなかったら平気」


「私と連絡が取れなくなっても?」


「今までだってそんな感じだったし、今更連絡取れなくても大したことないさ」


「エッチしばらく出来なくても?」


「……それは困るかもしれないけど、我慢するし」


「別の子としたら?」


「浮気了承するの?」


「要相談。でもされたらショック」


「しないよ。俺は花音一筋だから」


「信用します」


「信用されます」


「ぷっ。何よ、それ」


 空気が和やかになったことで花音は俺と数メートルの距離を保つ。


「聞いてくれる? たっちー。今度は私から言わせて」


「え?」


 花音は突如、上の服を脱ぎ出した。


「か、花音。バカ、何脱いでいるんだよ」


 駅のホームで上半身裸になった花音の行動が分からなかった。

 幸いにも無人駅で他の乗客がいないからいいものを公共の場で裸になる花音は異常だった。


「私は立川怜君のことが大好きです。これはもう紛れもない事実。セフレでも友達でもなく一人の男性としてこれからもずっと好きであることを誓います。こんな私ですけど、付き合ってくれますか?」


 花音は頭を下げて手を伸ばした。

 これは俺が花音に対してラ○ホで突発的に出た告白を連想させた。

 まさか花音はそれを再現しているのだろうか。


「そ、その前に頼むから服を着てくれ。誰か来たらどうするんだ」


「私の問いに答えるまで服は着ません。誰かに見られたらたっちーのせいだから」


 花音の攻撃的な行動に真剣なものを感じた。これは嘘偽りなく答えないと花音が恥を掻くことを意味する。電車が到着するまでもう時間はない。

 これは即答が求められた。


「勿論、答えはイエスだ。花音、俺と付き合ってくれ」


「ありがとう。分かりきっていた答えだけど、それでもちゃんと言葉でほしかった」


 次の瞬間、電車が遠くから見えていた。


「花音! いいから早く服を着てくれ」と俺はヒヤヒヤしながら叫んでいた。

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