第45話 早起き
「ん……」
朝の日差しで目が覚め、身体を起こすと花音の姿が無いことに気付く。
「花音?」
まさかまたトラブルに巻き込まれているのでは無いかと焦った俺は外に出る。
するとウッドデッキに花音の後ろ姿を見つけた。
「あ、たっちー。おはよう」
振り返った花音はいつもと変わらない笑顔を俺に向けた。
「お、おはよう。花音、何をしているの?」
「体操。私の日課なんだ」
「そ、そうか。俺も一緒にしてもいいかな?」
「どうぞ」
二人でラジオ体操をしてしっかりと身体を慣らす。
ラジオ体操が終わると花音は既にセットしてあったマグカップを手に持つ。
「コーヒー飲む?」
「うん。頂くよ」
「砂糖とミルクは?」
「えっと、多めで」
「はいよ」
体操後に甘めのコーヒーを飲んで一息入れる。
花音はブラックを飲んでいた。コーヒーをブラックで飲む女の子がいるんだと思いながらその様子をチラチラ見る。
「何?」
「いや、別に?」
「昨日さ、途中から記憶がないんだけど、私最後どうなったんだっけ? 思い出そうとしても全然でさぁ。川に飛び込んだまでは記憶があるんだけど、その後どうやってベッドで寝たのか分からなくて。たっちー何か知っている?」
知っているけど、正直に言うべきだろうか。俺に迷惑をかけられたと思われたら気まずくなってしまう。
「お、覚えていないのか? 花音は昨日はしゃぎすぎて疲れて寝ちゃったんだよ。相当疲れが溜まっていた感じだったぞ? 川に飛び込んだ夢でも見たんじゃないのか?」
変に気を使わせないように俺はそれとなく誤魔化した。
花音は呆然としながら昨日のことを思い出そうと難しい顔をする。
それでも花音の記憶は掘り返せない様子だった。
「私の記憶は思い出せないけど、たっちーの嘘は見抜けるんだよね。昨日何かあったんだよね?」
「何でそう思うの?」
「なんか引っ掛かる言い方に聞こえるから。でもたっちーが無意味な嘘は付かないことは知っている。きっと私に気を使わせないように言っているんだよね?」
花音は全て見透かしている。俺がいくら嘘を並べても花音には分かってしまうのだ。
「ご、ごめん」
「やっぱり。でも言わなくてもいいよ。たっちーありがとう」
「え?」
「多分だけど、私が変なトラブルに首を突っ込んでそれをたっちーが助けてくれたんだよね? 聞かなくてもそれくらいのことは想像できる。だからありがとう」
「あ、あぁ。どういたしまして」
そう言うと花音はにっこりと笑顔を見せた。
内容が覚えていなくても二人の中で通じ合えている。それだけで充分だった。
「朝食食べようか。パンと昨日の食材がまだ余っているから適当に焼いてホットサンドを作ろう」
「いいね。今度はすぐに火を起こせるから」
「じゃ、頼んだ。私はお皿とかセッテングするね」
二人の朝食作りが始まった。昨日のやり方を思い出してすぐに火を起こすことが出来た。
後は焦げないように段取りよく焼くだけ。
意外にもホットサンド作りは順調よく出来てしまった。
「美味しい。天然の火で焼いたら美味しいね」
「天然の火って何だよ」
「うち、オール電化だから普段、火を見ることないから新鮮。やっぱ火は偉大だね」
何を言っているのか、花音は美味しそうにホットサンドを頬張った。
満腹になり、一通りの片付けが済んだ頃だった。
「チェックアウトまでまだ少し時間あるね」
チェックアウトは朝の十時。そして現在時刻は八時前と早起きをした分、まだまだ時間に余裕はあった。
「そうだ。昨日のお礼をしておかないと」
「お礼って?」
「昨日は疲れていたこともあってすぐ寝ちゃったでしょ? たっちーの相手も出来ずに。私、その気はあったんだけど、タイミング逃しちゃった。だから朝からヤっとく?」
「それって……」
「ほら。ベッド……行こう?」
そう言って花音はノリノリで俺の腕を引っ張った。
これは最高のお礼だと俺の興奮は一気に高まった。好きだ。花音。
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