第44話 捜索
すれ違いになっていないか、俺はもう一度コテージ内を確認する。
「やっぱりいないか」
花音の姿はない。外で何かあったことは間違いない。
「くっ! 俺のせいだ」
壁に拳を討ちつけて自分を責めた。
そんな時、扉が開いた。
「君、連れの子はいなかったか?」
一緒に探してくれていた大学生の男性が駆け寄って来てくれた。
「はい。いません」
「そうか。間違えないように彼女の写真があれば見せてほしい」
「写真ですか」
花音の写真は思いのほか少ない。唯一あったツーショット写真を見せる。
「真面目そうな子じゃないか」
「はい。花音に何かあったら俺は耐えられません」
「君はここに居てくれ。すれ違いになったら面倒だ。今、自分が一緒に来ている仲間に探してもらっている」
「ジッと出来ません。俺も探しに行きます」
「無茶だ。私有地内ならともかくそれより外に出たら危険だ。私有地内にいなかったら警察に連絡することになる」
「警察? それはダメです」
「何を言っているんだ。彼女に何かあったらどうする?」
「それはそうですけど、警察はまずいです。絶対に」
「何か訳ありだな……。事情を聞かせてくれるかい?」
俺は事実を言うか悩んだ。
だが、一緒に探してくれている身で信頼もそこそこ出来ると思い、俺はその男性に事情を話した。
高校生であること、親に内緒でキャンプに来ていること。その辺の内情を話した。
「そういうことか。まぁ、親には知らせたくないよな。でも、見つからなかった場合、警察への連絡は避けられないよ。あとでしっかり怒られるしかないな」
「で、ですよね」
警察まで話がいってしまえば学校や親にまで連絡が行く。そうなれば花音の立場上、何らかの処分が下ることになるだろう。
「まぁ、そんな気にするな。高校生でもしっかりした子なんだろ? 大丈夫。すぐ見つかるさ」
「はい」
俺は見つかるまでは不安が取れずにいた。
今は信じて花音が見つかることを祈るしかない。
それから数十分後。男性からのスマホに着信が入った。
「もしもし」
仲間からの連絡だ。俺は背筋が伸びた。
「あぁ、分かった。すぐに行く」と電話を切ると男性は俺に言う。
「見つかったよ」
「本当ですか?」
「あぁ、とにかく行こう」
見つかったと報告のあった場所に向かうとそこは昼間に釣りをした川辺である。その奥で何人かの気配を感じる。
「おーい。こっち、こっち」
男性の仲間と思われる女性二人と男性一人が待っていた。
一緒に探してくれたグループはどうやら大学のサークル仲間である。
仲間同士で今回のキャンプに参加していた。
「あの、花音はどこに?」
俺は男性よりも先に声をかけた。
「ボブちゃんの連れの人? ほらここだよ」
一人の女性の背中に花音が背負われていた。
何故か花音は深く眠っていた。とにかく無事であることと怪我がなかったことに俺は安堵した。
「一体、どう言うことですか?」
「あんまり怒らないであげて。これはボブちゃんの勇気ある行動だから」
「勇気ある行動?」
もう一人の女性は解説するように言う。
「この子、川で身動きが取れなくなっている狸を助けようと川に飛び込んだの。命懸けで助けたのにその狸は恩を返すことなく山に逃げちゃって。怪我はなさそうだけど、早く身体を温めて休ませた方がいいよ」
「そうですか。ありがとうございます。俺、背負います」
「そう? 重くはないけど重いよ?」
俺は女性から花音を受け取った。
確かに重くはないけど重い。要は意識のない人間は倍以上に重く感じるものである。
「ご迷惑かけてすみませんでした。なんてお礼を言ったらいいか」
「気にしないで。困った時はお互い様。事情は彼から聞いたけど、今回の件は内緒にしてあげる。良いものを見せてもらったよ。ボブちゃん免じて」
「ありがとうございます」
良いものを見せてもらった? 兎にも角にも俺は大学生サークルグループにお礼を言って花音をコテージに持ち帰った。
「ぐっ! よいしょ」
花音をベッドに寝かせて俺はようやく落ち着きを取り戻した。
花音の安らかな表情に俺はそっと髪を掻きあげた。
「ゆっくりおやすみ。花音」
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