第43話 失踪
「とにかくママを丸め込めたら私の負担はグッと軽減する。そうなれば心にゆとりが生まれて真剣交際も夢ではないってことだよ」
ジッと花音は俺の目を見て言った。
「また花音に自分のことを悪く言うなって怒られるかもしれないけど、俺って花音と釣り合っているかな? なんか見劣りしているようで迷惑になっていない?」
「何を今更。それより私も聞きたいんだけど、たっちーは将来、何か考えているの?」
「今の作家活動は続けたい。もっと頑張ろうって思えた。だけど、それ一本じゃ厳しいから安定の道を見つけたいところだな。まだ具体的には決まっていないけど」
「良いと思うよ。私、頑張っている人好き。たっちーはよく頑張っていると思うよ。他の人には見えないけど、私はちゃんと見ている。もし今がもやっとしているなら私と一緒に歩んでいかない?」
「医療の道に進もうって? 俺には無理だよ。そこまで出来た頭じゃないから」
「医者が特別、知識が必要ってだけで医療に関わるものでも一般的なものはあるよ。勿論、勉強は必要だけど」
「……考えておくよ」
「それはやんわり断るやつじゃん」
「いや、だって」
すると花音は急に立ち上がる。
「ちょっと冷えてきたね。ソファー中に戻そうか。手伝ってくれる?」
「あぁ、うん」
今、花音が一瞬苛立ったような感じに見えたけど、気のせいだろうか。
花音に限ってそんなことはないと思うけど、話に流れからして一緒の道に進みたいと純粋にそう思っていたのかもしれない。
ソファーを中に戻した直後、俺は花音に向き合った。
「花音。俺に勉強を教えてくれるか? 足を引っ張ることになると思うけど、花音と同じ道に進めるようにチャレンジしようかなって」
「それは自分の意思? それとも私に合わせているだけ?」
「両方だ! 言っただろ。俺は花音と少しでも一緒の時間を過ごしたい。なら同じ道に進めば一緒にいる時間も長く作れるじゃないか」
「フハハハ。相変わらず滅茶苦茶だね。それが良いところなんだけど。でも良いの? それが本当に自分のやりたいことか分からないのに」
「俺のやりたいことは花音と一緒に過ごすこと。それ以外何者でもないさ」
「そうきたか。いいよ。私が勉強を教えてあげる。でもやるって決めたら最後までやり遂げること」
「分かった。頑張るよ」
「じゃ、私。シャワー浴びてくるね」
そう言って花音は共有スペースのシャワールームへ向かった。
口ではやるとは言ったけど、出来るかどうかは分からない。
でも花音と一緒なら出来ないことも出来る気がした。
「俺もシャワー浴びるか」
今日はいっぱい動いていっぱい食べた。
身体の疲れが洗い流されるようにシャワーを浴びる。
狭くて洗い辛く不便だったが、今の俺にとって丁度良いくらいだ。
シャワールームを出ると完全に暗闇が広がっていた。
分かってはいたけど、こう何も見えないと心細いところがある。
「花音はもう戻っているかな?」
早足に俺はコテージへ戻っていく。
中にはまだ花音の姿はない。女子の風呂は長いものだろうとそこまで思い詰めるものではない。
戻ってくるまでの間、ゆっくりさせてもらおうとソファに腰掛ける。
スマホで動画を見てまったりとして一本目の動画が終わった頃である。
「遅いな……」
ふと、花音がまだ戻ってきていないことに対して心配になった。
この暗闇だ。もしかしたら迷っているかもしれない。
室内に取り付けてあった懐中電灯を持ち出して花音を探しに出かける。
シャワールームに戻り、女性用では使用中はなかった。
と言うことは既に出ていることになる。
「花音。いないのか?」
周囲に向けて呼びかけるが反応はない。
何かあったら大変だと思い、俺は急に焦り出していた。
シャワールームからコテージまでは一本道だ。暗闇とはいえ、迷うことはない。
「あの、どうかされましたか?」
ふと、声をかけられたことにより俺は懐中電灯の光を声のした方へ向けた。
そこには大学生くらいの男性が立っていた。
風呂上がりなのか、首にタオルを巻いた塩顔の男性だ。
「あ、いや。一緒に来ていた連れがいなくなっちゃって」
「それは大変だ。その人の特徴は?」
「茶髪でボブカットの女の子です」
「あぁ、そういえば昼間に釣りをしていたような」
「はい。その子です」
「なるほど。自分も探すよ。何かあったら大変だからね」
「ありがとうございます。助かります」
「自分はこっちを探す。君はもう一度部屋に戻っていないか確認してくれ」
「はい。分かりました」
俺はその場で出会った親切な人と共に花音を探すことになった。
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投稿頻度落ちてすみません。
告知。
新作準備中です。
第1話を5月12日から順次投稿予定。
新作も読みに来てくれると嬉しいです。
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