第41話 夜空


 陽は落ち切ってすっかり辺りが暗くなり始めていた。

 バーベキューが終わり後片付けをしている最中のこと。


「美味しかったね。もうお腹パンパン」


「うん。もう動けないや」


「それは困るなぁ。これからいっぱい動いてもらう予定なのに」


「それはどういう……」


「そうだ。ゴミ袋を管理人さんから貰わなきゃ。ちょっと行ってくる」


「あ、俺が行こうか?」


「今は動けないんでしょ? だったら無理しないで」


 そう言って花音は管理人室のある小屋へ小走りに向かった。

 これからいっぱい動く予定?

 と言っても片付けが終われば後はシャワーを浴びて寝るだけのはず。

 そう思った直後、俺はあることを連想する。


「そういえば花音って今日する予定あるのかな?」


 ふと、エッチなことを頭に浮かんだ。そういう意味で言えばさっきの花音の発言にも納得だ。

 しばらくご無沙汰だったし何よりこんなビッグイベントに何もないわけがない。する以外の選択肢しか思い浮かばない。


「クゥー。今から興奮してきた」


 グッと俺は拳を握り込み、興奮を高めた。


「たっちー。ゴミ捨て場は管理人室の向かい側だって」


「お、おう。そうか」


「どうかした?」


「いや、なんでも。それよりさっさと終わらせよう」


「何をそんなに急いでいるの?」


「いや、面倒毎は早く終わらせたいじゃん?」


「変なたっちー。でもいつまでもこんなことをしている時間も勿体ないよね。さぁ、纒めちゃおう」


 花音も片付けに専念した。この後の楽しみのために俺は無意識に手を早めていた。片付けが済んでようやく落ち着きを取り戻した頃である。


「たっちー。ちょっと手伝って。これ、外に出すから」


 花音は室内の中にあったソファーを運び出そうとする。


「備品を勝手に持ち出すのはダメだろ?」


「すぐ戻すからヘーキだよ。いいから早く」


 花音に促されて俺は仕方がなく手伝うことに。

 二人でソファーをウッドデッキの中央に設置する。


「一体、なんのためにこんなことを……?」


「はい。座った、座った」


 花音は既に着席しており、俺を隣に座るように促した。

 腰を下ろした瞬間、ソファーをわざわざ外に持ち出した意味が分かった。

 そこには無数の星が広がっていた。大自然でしか見られない夜空を二人で独占したかのようで素晴らしい特等席と言える。


「綺麗でしょ?」


「あぁ、街中では見られない光景だよ」


 わざわざ手間が掛かるキャンプに来た意味がここで意味する。

 景色とかロマンチストなものは自分に関係ないと思っていたが、実際に見てみるとこれはこれで良いものだと実感した。

 こういう良い景色を見ると素直な気持ちになれる。そこでふと思ったことを俺は聞いてみた。


「花音。聞きたいことがあるんだけど」


「何?」


「前にまだ付き合えないって言っただろ? 俺に原因があるなら教えてくれないか? 直せることなら直したいから」


「うーん。たっちーに問題があるわけじゃないよ。どちらかと言えば私の方かな」


「俺は聞いていいこと?」


「そうだね。待ってもらっている立場としては知る権利があると思う。私って何かと忙しい身でさ、勉強もそうだけど委員会の仕事や学校行事。学校以外では塾や資格の勉強の他にボランティア活動。それに家では親のご機嫌とり。と、まぁ一分一秒も無駄に出来ない日々を送っている。心にも身体にも余裕がないわけよ」


 花音は珍しく愚痴をこぼす。俺と会っている時はそんな素振りはなかったというより見せないようにしていたかもしれない。

 そんな発言に対して俺は気の利いたことが言えないから情けない。


「この連休で今、こうして遊べているのは奇跡と言ってもいいくらい。この先、こうやって星空を見られることなんてもうないくらい私には余裕がなかった」


 俺はソファから立ち上がって花音の正面に立った。


「俺は直接何かしてあげられることは少ないけど、また一緒にこの景色を見よう。そのために俺に出来ることはなんでも言ってくれ。全力で手伝うから」


 パカッと花音の口が開いて呆然とする。そして何かを悟ったように口元が笑った。


「ありがとう。忙しいのを理由にするつもりはないんだけど、現状お手上げ。でも、たっちーといる時だけ不思議とその忙しさを忘れられるんだよね。なんでだろう?」と花音は俺を試すような上目遣いをした。


「俺だけが心の安らぎとでも言いたいのか?」


「ふふっ。まぁ、そんなところ」


「なら正式に俺と付き合ってくれよ。俺は花音の日常を邪魔するつもりはない。だから後でも先でも同じことじゃないのか?」


「それは……違うよ」と花音は寂しそうに呟いた。

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