第38話 到着
「んー! 着いた!」
花音は駅のホームに降りた早々、両手を上げて伸びをした。
出発してから約二時間。ようやく目的の駅に辿り着く。
「見事に何もない田舎だな」
緑が広がる山が多く、家も殆どない。田舎に来てしまったと実感する。
「それよりキャンプ場はどこにあるんだ?」
「ここから車で三十分くらいのところだって」
「車? この辺、バス通っているかな?」
今回のプランは花音に任せっきりなので俺は何も調べていない。
こういう時は男が率先して誘導するべきだと今更感じた俺は慌ててスマホで調べようとする。
だが、流石田舎。なかなか電波が繋がらない。苛立っている俺の前方にバス停が目に飛び込む。
俺はバス停の時刻表を確認するため走り出した。
「あ、たっちー」
「えっと、次のバスは……」
次は二時間後になっている。事前に調べていなかった俺は自分を呪った。
「待つか? いや、歩きの方が早いかも」
「バス使わないよ?」
「え? 歩くの?」
「歩かないよ。もうすぐ管理人さんが迎えに来てくれるはず。あ、あれかも」
俺たちの前方に一台のSUVの車が止まった。窓が開くと中年男性がこちらに向けて声をかけてきた。
「栗見さんですか?」
「はい。そうです」
「どうぞお乗りください」
「はーい」
慣れた様子で花音は荷物を車に詰め込む。
「花音。どういうこと?」
「電車で来るお客さんは管理人さんが送迎してくれるサービスがあるんだよ。事前に予約していたから」
「流石だな。段取りいいじゃん」
「計画性がないとね。現場で慌てる時間が勿体無い」
全て花音の計画のうちであった。
次からは俺も事前に確認しておこうと誓った。
頼りにならない男として認識されたらせっかく好きという感情がなくなってしまう。それだけは避けなければならない。
後部座席に俺と花音が乗り込み、車はキャンプ場へ向けて走り出す。
「お客さんはどちらからお越しで?」
初対面の人に俺はあたふたしていたが、全て花音が管理人さんの質問に答えていた。花音の完璧すぎる対応に俺は横で頷いているしか出来なかった。
「お客さんは大学生ですか?」
「はい。そうです。レポートの関係で今日はキャンプに来たんです」
「へー。そうなんですか」
本当は高校生だが、花音は笑顔で嘘をついた。
本当のことを言えば怪しまれて警察に連絡されたら面倒なことになる。
それを避けるための嘘は必要だ。
それに花音は実年齢よりも大人びているところもあるので管理人さんもうまく騙せていることが大きい。
花音の大人な対応もあり、送迎中は怪しまれることなくキャンプ場へ着いた。
受付と施設内の注意事項を聞かされて先払いの料金を支払った。
「さて。受付も済ませたところだし、始めますか」
「便利グッズは追加料金制だけど、どうする? 薪とか買った方がいいかな?」
「うーん。その辺の薪を拾って使っても構わないって言っていたけど、それは上級者かな。初心者だし、お金の力を使いましょうか」
「なら俺、払うよ。ここまで何もしていないし」
「そう? ありがとう」
「じゃ、買ってくる」
俺はせめて今回のキャンプで貢献しようととにかく重い物や雑用を率先して動いた。
本格的なキャンプ場というわけではなくウッドデッキにコテージが完備されたものでどちらかと言えば半キャンプといった感じだ。
初心者がいきなり本格的なキャンプをしようと思ったら無理なところが出で来る。
俺はコテージの扉を開けて中を確認する。ベッドが二つにソファとテーブル。手洗い場がある。ウッドデッキにはバーベキュー用のスペースがあり、薪で火を起こすタイプになっている。トイレ、シャワールームは共有スペースで管理されているようだ。キャンプと言えるかは微妙なところだが、自然を満喫するという意味ではキャンプと言えるのではないだろうか。キャンプ初心者に優しい施設でありがたい。
「よし。荷物を置いて行きましょうか」
「行く? どこに?」
「釣り」
「釣り?」
「ここ、釣りも出来るのよ。それに釣った魚は食べてもいいのよ」
「へぇ、そんなサービスもあるんだ」
「てなわけで釣り勝負をしましょう。負けた方がこの旅行中に勝った方の言うことを聞くこと。いいわね?」
また変な勝負が始まった。
何気に花音はこういう勝負事が好きなのか?
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
カクヨムの規約により全話見直し中です。
性描写の表現が強い話数は非公開です。
話が繋がっていない場面がありますがご了承下さい。
タイトルの変更もあるかもしれません。
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