第35話 番外編


 これは俺と花音が知り合う前の話である。

 高校生活に慣れ始めてしばらくのことだった。

 俺には彼女と呼べる存在はいない。

 勿論、好きな人はいた。それは中学時代に遡り、三年間片思いを続けた女の子だった。

 その子は学年で人気がある子で付き合いたいと思う男子は後を絶えない。

 俺もその中の一人だった。

 中学を卒業すればその子とは会えなくなってしまう。

 そう考えたら居ても立っても居られなかった。

 卒業式の日、俺はその子を呼び出して告白をした。

 最後の最後で自分の思いを伝えたのだ。だが、それがよくなかったことを後悔することになる。


「付き合ってくださいって言われても困るんだけど。第一私たち一度も会話したことないよね? 普通に考えて無理だんだけど」


 ごもっともな返しに俺は言い返す言葉も見つからない。

 確かに相手の主張は分かる。だが、そこまでハッキリ言わなくてもいいだろ。

 それは二度と関わりを持ちたくないという表れかもしれない。

 この一件をきっかけに俺は恋愛に対して億劫になってしまった。





 そんな経験があり、恋愛に対してどこか慎重になっていた俺に一つの出会いがあった。

 それが栗見花音である。とあるサイトの掲示板で知り合って会うことになった。

 勿論、知らない人と会うことは怖いところもあったが、自分から何かアクションを取らないと一生きっかけなんて作れない。

 俺は指定された待ち合わせ場所に来たが、誰もいない。

 時間を過ぎても来ないことから騙されたのだと思い始めていた。


「何やっているんだろう。俺」


 馬鹿らしくなった俺が帰ろうとしたその時である。


「あなたがタチさん?」


 声を掛けられた方を振り向くと茶髪ボブの美少女がいた。


「私、カノン。ごめん。待ち合わせ場所には少し前から居たんだけど、遠くであなたの様子を見させてもらっていました」


「どうしてそんなことを?」


「観察させてもらった。もし、危ない人だったら知らない顔して帰ろうと思ったから。でも、普通の人そうだし、問題ないと思ったから声を掛けたの。ごめんね。試すような真似をして」


 そう言って花音は舌を出しながら謝る動作をする。


「そうですか。俺は別に構わないよ。女の子からすれば怖いと思うし」


「ありがとう。それじゃ、取引をしようか」


 取引と聞いて少しビジネスチックな雰囲気が漂う。

 会った目的はヤり目によるものだった。そんなことは分かった上で会っている訳で別におかしなところはない。俺は身構えた。


「私は定期的に会える都合のいいセ○レを探している。それはあなたも同じ考えっていう認識で合っているかな?」


「あぁ、その認識で合っているよ」


「そうですか。それは良かった。と、言っても無条件でセ○レ関係にはなれると思われたら叶わない。いくつか条件を踏んだ上でお願いしてもいいですか?」


「条件?」


「まず、セ○レ関係で大事なことは相性。お互い納得できる相性であること。それと個人情報は一切教えないこと。そして相性が良かったとしても私が納得できるまではお金を要求させてもらいます。勿論、ずっとじゃなく最初の数回は支払ってもらいます」


 金を支払うのは癪だが、こんな可愛い子とエッチができると考えれば安いものかもしれない。それに恋人だのデートだのそんな間際らしい関係をするより身体だけの関係で割り切った方が楽だとその時は思った。


「分かった。それでいいよ」


「ありがとう。じゃ、○○○に行こうか」


 いきなり? とは思いつつも払うものを払えば美少女の股を開かせるのは簡単らしい。

 今まで片思いをして告白をしてという段取りを踏んでいたのが馬鹿らしく思えるくらいだ。

 最終的に女の子とエッチがしたい。なら別に付き合うとか段階を踏むより最初からエッチを目的とする女の子とした方が早いのではないか。

 そんな思いがあったのかもしれない。




 カノンと名乗る女の子と○○を終えた直後、一つの達成感があった。


「うーん。ぶっちゃけ君、エッチ下手だね。もしかして初めて?」


「なっ!」


 花音は心にないことを言う。実際、その通りだが本当のことは言えない。

 しかし、身体の相性が悪ければこの一回限りで関係が終わってしまう。


「おっと。野暮なことは聞かないよ。そうだね。今後のことだけど……」


 今回限りで終わり。そんな言葉が予想できた。俺との行為は満足出来なかったならそう言われても仕方がない。


「お互いが気持ちよくなれるようにアドバイスしていこう。そしたら今よりずっと気持ちの良いエッチができるよ」


「それって二回目以降も出来るってこと?」


「ん? そうだけど? ダメだった?」


「いや、よろしく頼むよ。これからも」


「こちらこそ。割り切った関係で居ましょう」


 これをきっかけに花音との関係が始まった。

 二人だけの秘密の関係に。

 ただこの関係はお互いのメリットを尊重した関係であり、相手の素性は何も知らない。でも相手がどこの誰かなんてどうでもよかった。

 今は目の前の関係を楽しめればそれだけで。

 しかし、回数を重ねるにつれて俺の中で彼女のことをもっと深く知りたいと思ってしまったのだ。


「よし。今度、カノンのこと尾行してみるか」


 その思いつきが、今の関係へと繋がる。



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