第28話


 俺は花音に正直な気持ちを促されたことによって自分の思いを花音に伝えていた。セ○レ相手でも友達としてでもなく一人の女性として君が好きなんだと。

 面と向かって言ってやった。最初で最後かもしれない渾身の告白だった。


「ぷふ。あははは」


 突然、糸が切れたように花音はお腹を抱えて笑い出した。

 真面目な場面に不釣り合いとも言える笑いに俺はバカにされた感情が湧き上がった。


「おい。笑うことないだろ?」


「あ、ごめん。たっちーを小馬鹿にした訳じゃないの。真面目な場面だけに今の姿に全然説得力がなくて思わずね。流石に素っ○で女の子に告白って側から見ればヤバい人だからギャップで笑っちゃった」


「ぐっ。どのみち小馬鹿にしたことに代わりないのでは?」


「あははは。そうかもね。でもせめて服は着た方がいいよ」


「そ、それもそうだな」


 自分の今の姿が○であることを忘れていた。

 行為の後にそのままトイレへ駆け込んだのだ。服を着る時間はない。

 俺は素早く服に腕を通す。


「それで……どうなんだよ」


「ん?」


「返事だよ。俺、告白したのに笑われただけじゃバカみたいじゃないか」


「あぁ……そうだったね。返事か。たっちーが自分の気持ちを正直に言ってくれたんだもの。次は私の番だよね」


 そう言って花音は俯いた。気持ちを整理しているのか、しばらく無言が続いて部屋はシーンとした。


「一回、部屋出ようか。いいよね?」


 花音にそう促された俺は軽く頷いた。

 自分の荷物を持って部屋を後にする。





 花音が前を歩き、俺はその後ろを歩く。一体、どこに向かって歩いているのだろうか。


「花音。どこに行くんだ?」


「目的地は別に考えていないよ。ただ歩きたいだけ」


 普段、意味のない行動をしない花音だが、この時だけ何も考えていない様子だった。俺は特にどうしたいのか自分の意見がないため、ただ花音の後ろをついて行くしかなかった。

 とぼとぼと歩き続けてラブ○街から住宅街のある道なりまで来ていた。


「そこの公園。少し入ってみようか」


「うん」


 たまたま通りかかった公園に吸い込まれるように入る。

 花音はブランコに座って緩く動かした。


「なんかこういうの落ち着く。たっちーも隣どうぞ」


 隣のブランコに座るよう促される。


「どうしたの? 元気ないね。激しく動きすぎて生気空っぽになっちゃった?」


「別に普通だ。それよりも返事! 聞かせてくれるんじゃなかったのか?」


「ん? あぁ、そう言えばそうだったね」


「そう言えばって」


「じゃ、勝負しようか」


「勝負?」


「靴飛ばし。ブランコに乗ってどちらが遠くまで飛ばせるか」


 また逸らすのか。そう内心思う俺に対して花音は続けて言う。


「私に勝てたら本当のことを話してあげる」


「本当か?」


「うん。ただしたっちーが負けた場合、たっちーの告白は無かったことにするよ」


「なんで?」


「元々タブーなんだよ。セ○レ関係で割り切ったはずなのに友達を認めて更には告白まで認めたら私たちの本当の関係はなんだろうって。だから私が勝った場合、今と何も変わらない。それでいい?」


「俺が勝ったら返事を聞かせてくれるんだよな? 嘘偽りなく」


「そうだね。本当の気持ちを吐いてあげる」


「なら勝負だ。交代制か? それとも同時?」


「交代制。たっちー先攻。私が後攻でよろしく」


「分かった」


 この靴飛ばし一つの勝負で俺たちの関係に影響することになるとは。

 かなり重要な勝負に気を抜けなかった。

 絶対に勝たないとならない勝負に俺は全力でブランコを漕いだ。

 九十度近い角度まで漕いで右足に全神経を集中させる。


「うおりゃあああぁぁぁ!」


 自分の靴を蹴り上げて垂直に飛ばした。体感で五メートル以上は飛ばせたと思う。最初で最後の自己ベスト記録を叩き出した。


「へへ。どうだ」


 横にいる花音にドヤ顔を決め込むが、ふーんと言う感じで特に反応がなかった。まるでつまらないものを見せられたような感じだ。


「じゃ、次は私の番だね」


 当たり前のように花音はブランコを漕ぐ。

 まさか俺より遠くへ飛ばせる自信があると言うのだろうか。だとしたらあの薄い反応にも納得だ。花音は運動神経が良い。靴飛ばし程度なら十メートル以上飛ばすことなんて余裕なのかもしれない。そもそも花音にとって有利な勝負に乗った俺は大馬鹿者か。気づいた時にはもう遅かった。


「ヨッと!」と花音は助走をつけたブランコから靴が放たれた。

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