第27話



 俺は逃げるようにトイレに駆け込んだ。

 思わず逃げてきちゃったけど、あのままのどかと○○をしてもよかったのだろうか。

 花音は満更でもない様子だったけど、俺としては考えてしまう。

 別に関係的に問題はないはずだ。しかし、どうも花音以外とする勇気が直前になってもないことが不思議だった。

 一つだけ自分の中で沸き起こっていることは花音とは別の女性、いや、花音以外とはしたくないと言うものだった。


「たっちー。大丈夫?」


 花音は俺を心配して扉の前まで声を掛けてきた。


「ご、ごめん。少し気分が……。時間が掛かりそうだからもう帰っていいよ」


「そんなに体調悪いの?」


「うん。ちょっと見せられそうもないよ。ごめん。だからもう帰って」


「そう。分かった。お大事に」


 しばらくして花音たちが部屋から出て行く物音が聞こえた。


「帰った……のか?」


 トイレに篭っていた俺は鍵を開けて部屋に戻る。

 荷物が何もないことを見て俺は一安心してベッドにダイブする。

 顔を埋めながら俺は一言漏らす。


「はぁ。やっちゃったな」


「やっちゃったって何が?」


「何がってその気にさせておいて男から逃げるなんて情けないだろ……ん?」


 返事がしたことに驚いた俺は上半身を起こして後ろを振り向く。

 そこには着替えを済ませた花音が立っていた。


「お前、帰ったんじゃ……?」


「帰ったのはのどかだけ。訳言って先に帰ってもらったよ」


「訳って?」


「一人じゃ帰るのがしんどいと思うから私が付きそうって。でも体調が悪いのは嘘なんだよね」


「ご、ごめん」


「別に怒っている訳じゃないよ。ただ、最初から言ってくれればよかったのに。他の子とはしたくないって」


「でも花音の友達が困っているのに断れないよ」


「どうして?」


「花音の頼みだから断りたくないってだけ」


「断りたくない?」


「俺は花音を大事に思っているからどんなことでも受け入れてやりたい」


「そういえばたっちーって私の誘いとか言うこと全部聞いてくれるよね? それが大事にしているって意味ってこと?」


「わ、悪いかよ」


「断ったら私に嫌われるって思った? 嫌わないよ。私だってたっちーのことは大事に思っている。だから少しでも嫌な思いをしたなら謝らせてよ」


「俺は別に嫌な思いなんてしていないよ」


「じゃ、どうして嘘付いたの?」


「それは……ごめん」


 その場の空気が歪んだ気がする。花音の表情は少し浮かない様子だった。

 その場を変えたのは花音の発言だった。


「すれ違いがあると困るから正直でいよう。たっちーの正直な気持ちを吐き出してくれるかな?」


「俺の正直な気持ち?」


「断りたくないとか大事にしたいとかどういう意図でそう言っているのか分からないよ。曖昧なことは無しにして正直な気持ちを吐き出してってこと。たっちーは私に何を求めているのかな?」


 花音の言葉で俺は考えさせられた。

 俺が花音に対して何を思っているのか。それは○○の関係になる前からずっと思っていたことだ。しかし、○○の関係になってしまってからその思いはいつの間にか言いそびれてしまい、いつしか今の関係に落ち着いていた。

 その結果、俺は花音の願いを叶えるように率先して誘いや願いを聞くようになった。それが今の俺だ。


「言えば、今の関係じゃ居られなくなるかもしれない。それでも言わなきゃダメなのか?」


「うん。ダメ。例え、今の関係では居られなくなったとしても少しでもたっちーに不安を抱えている状態では私だって今の関係を気持ちよく続けられないよ。結局、これは避けて通れないものじゃないのかな?」


 そう花音に促された俺はグッと拳を強く握った。


「じゃ、そこまで言うなら言わせてもらうけど、俺は花音が好きだ。セ○レ相手でも友達としてでもなく一人の女性として君が好きなんだ」

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