第24話


 俺は花音に呼び出されて駅前の噴水広場に来ていた。

 約束は十三時だが、三十分前には到着した。

 誰であろうと遅刻は厳禁で特に花音との待ち合わせには遅刻をするなんてもってのほかだ。それほど花音との待ち合わせは大事な予定の一つだ。


「あれ。たっちー。もう来ていてんだ。早いね」


 約束の十分前に花音は姿を現した。


「おう。一人か?」


「うん。ここで待ち合わせって言ってあるからね」


 数分後に来ると思われる花音の友達にソワソワしていた。

 事前に詳細は教えてくれなかったので尚更だ。

 知っている情報は性事情に興味があって体験をしたいというものだけだった。

 立ち位置に困っている俺を察したのか、花音はからかうように言う。


「大丈夫だよ。結構可愛い子だよ」


「違う。可愛い可愛くないより初対面っていうのがもどかしいだけだ」


「緊張している?」


「それはそうでしょ」


「その割には断りもせずしっかり来たじゃない。今更緊張したところで意味ないって」


「お前……。人の気も知らず」


「無理そうなら断っていいよ。そのために私がいるんだから」


「いや、でも女の子で3○したいって変わり者だろ」


「そんなことないよ。皆、心ではしてみたいとは思っても実際、したいって言えないだけだよ」


「それはお前の価値観だろ」


「でも私と同じ価値観の子だから話は合うと思うよ」


 それが不安なんだが、と言い掛けたところで約束の時間である十三時を知らせるチャイムが辺りに鳴り響く。


「あ、花音。お待たせ」


 と、そこに待ち合わせをしていた人物が後ろに立った。

 一体、どんな子なのだろうか。期待と不安の中、俺は振り返った。

 黒髪セミロングに幼い顔つき。化粧なんていらない小顔の美少女だった。

 身長は百六十センチくらいで細身の身体つき。胸はやや大きい。

 全体的に見て特徴もない普通の女の子だった。


「花音。その人が例の?」


「うん。立川怜くん。たっちーって呼んでいるよ」


「初めまして。冴宮のどかって言います。花音とは小学生の時からの友達で幼馴染みたいな関係です。よろしくね。たっちー」


「こ、こちらこそ。よろしくお願いします。冴宮さん」


「のどかって呼んで下さい。一応、歳一緒ですよね」


「は、はい」


 名前も普通で見た目も普通。○には全く興味無さそうなのにそんなこと考える子なのか。


「どう? たっちー? ギャルっぽい子が来ると思ったでしょ?」


 花音は茶々を入れるように弄り倒す。


「とりあえず場所を変えましょうか。ここで棒立ちしているわけにもいかないですし」


「え? い、いきなりですか?」


「え? どこかカフェに行くだけですよ?」


「あ、ですよね。あははは」


「のどか。たっちーいきなりホ○ルに行くと勘違いしちゃったみたい」


「ばか。そんなこと平然とバラすな。俺ががっついているみたいだろ」


「そうじゃないの?」


「違う。いや、違くないけど」


「とりあえず場所。変えません?」


「は、はい」


 やばい。初対面の女の子に変な印象を持たれたか。

 これも花音が余計なことを言ったせいである。二人は仲がいいかもしれないが、俺はそういう軽いノリでいけないというのが分からないのだろうか。

 入ったのは半個室型のカフェだった。

 各席にカーテンが敷かれており、注文は全てタッチパネルで可能だ。何よりプライバシーが守られている良い店である。俺が一人で向かい側に花音とのどかが座る。


「良い店でしょ。他のお客さんの顔も話し声も聞こえない。変な話をしても大丈夫なんだよね。ここ」とのどかは着席と同時に呟いた。


「へぇ。こんな店が近くであったなんて知らなかったなぁ」


「変な話って?」と花音はのどかの曖昧な表現に突っ込んだ。


「もう。花音。分かっているのに言わせないでよ」


「えぇ。私、分かんないよ。ねぇ、たっちー変な話って何かな?」


「俺に言わせるな。わざわざ言わなくても皆分かっているからいいだろ」


「私だけ分からないじゃない」と花音はわざとらしく言う。


 花音に構わず、俺はタッチパネルから飲み物を注文する。

 店員が注文の品を持ってきたところでいよいよと話を切り出すタイミングが来た。


「えっと、のどかさんは俺たちの関係をどこまで把握していらっしゃるんですか?」と俺は腰を低くしながら目上の人に話すように言う。


「どこまで? 何もかも知っているよ。最近セ○レから普通の友達になったこともセ○レの時は金銭のやりとりをしていることも行為の方法など何もかも。知らないことと言えば二人がどういう経緯で知り合ってそういう関係になったかくらいかな」とのどかは達者な口調で言い切った。

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