第19話 ツーショット


 花音に良いところを見せてやろうと何度もクレーンゲームにチャレンジしていた。だが、惜しいところまでいくが獲得には至らなかった。

ただ、お金が機械に飲まれていくだけで続ければ続けるほど苦しい状況だった。


「クソ! なんで取れないんだよ」


 バンッと抑えきれない感情がアクリル板にぶつけていた。


「機械に当たってもダメだよ。壊れたらどうするの」


「ご、ごめん。つい、熱くなっちゃって。でももう少しなんだけどな」


 追加の小銭を入れるか悩ましい。だが、これ以上続けても取れるとは限らない。俺の懐は無限ではない。一体、どうすればいいんだ。


「私にもやらせてよ。ここに百円玉を入れるのよね?」


「え? あぁ」


 五百円玉を入れると一回分得であると伝えようとしたが、花音は自分の財布から百円玉を入れた。たった一回では取れるはずがない。だが、入れてしまったら戻すことはできない。


「ええと、最初にこのボタンを押すのよね」


 初心者丸出しの操作の仕方だが、アームの狙いは景品のぬいぐるみを捉えていた。絶対に取れっこないと見ていたが、アームはタグを引っ掛けた。

 タグに引っかかってしまえば取れる確率は上がる。

 そのままアームはぬいぐるみを出口に落とした。


「うわっ! 一回で取れた。これ貰ってもいいかな? そのまま持って歩いていたら万引きしたみたいじゃない?」


「袋は両替機の横にあるからそれを使うといいよ」


「ありがとう。やった。ぬいぐるみゲット」


 花音は子供みたいに喜んだ。まぐれにしては運がいい。


「他にもやってみたいな」


 そう言うと花音は別の台に挑戦しようとする。


「待て、花音。これ以上、無駄使いするな。俺みたいに破産するぞ」


「ただの遊びだよ。気にしない気にしない」


 取るのが目的ではなく楽しむことが目的だと言う花音だったが、その行動がどうも心配だった。

 動きは初心者丸出しなのに花音のプレーは数回で景品を獲得していた。


「また取れた。クレーンゲームって案外楽しいのね」


「まぁ、取れたら楽しいだろうな。お前、本当に初めてなのか?」


「そうだよ」


「じゃ、どうしてそんな簡単に取れるんだよ。何かしたのか?」


「したよ」


「やっぱりしたのか」


「うん。操作するボタンを押しただけ」


「そうじゃなくて何か裏技みたいなことをしたのかってことだよ」


「裏技? そんなものないよ。アームの開く角度や下降がどこまで行くとか先の行動を予測してみてボタンを押しただけ」


「お前、何気にそれ凄いな」


「そんなことないよ。頭の回転が早いだけで普通にできるよ」


 おそらく花音の才能の一つかもしれない。普通の人はそこまで上手くできないだろう。

 予想外の荷物を抱えながらふとある機械が目に付いた。

 プリクラ機だ。女子同士やカップルなどがよく撮影している光景を見かけるが、俺は一度も撮ったことがない。


「へぇ。あれがプリクラってやつか。そかそか。あれってゲーセンにあったんだ。通りで街中にないと思ったよ」と、花音は思ったことを言う。


「花音、プリクラ撮ったことないのか?」


「そうだよ。可愛く加工できるって聞くけど、アプリでそういうの出来るから必要性を感じないんだよね」


「へ、へぇ。最近のアプリって凄いからね」


 言いたいことを言えない俺は情けない。

 たった一言。一緒に撮らない? と、言いたいけどその勇気が俺にはない。


「そう言えばたっちーとツーショット撮ったことないよね」


「うん。でも俺なんかとツーショットって嫌だろ?」


「何でそう思ったの?」


「いや、だって俺はただのセフレ相手だし」


「まぁ、確かにセフレ止まりだったら嫌だったかな。でも今は違うでしょ? セフレであり友達じゃない?」


「じゃ、聞くけど。花音。俺とプリクラを撮ってくれないか?」


「うーん。無理」


 その一言で俺は凹んだ。


「別にプリクラじゃなくても写真でいいよね? はい。チーズ」


 カシャッと不意打ちのようにインカメラで写真を撮られた。


「お! 意外と上手く撮れていますな」


「おい。急に撮るなよ。絶対、俺変な顔だっただろ」


「えぇ? そんなことないけどな。よく撮れていると思うよ」


「見せてよ」


「へへーん。見せてあげない」


「ずるいぞ」


 ピロンとメッセージの通知が入る。開いてみると花音から先ほどの写真が送られていた。


「え? 上手く撮れていたでしょ?」


「まぁ、いいと思うよ」


 花音との初めてのツーショットは慌ただしい表情で自然な笑顔がよく表れていた。これはこれで思い出の一枚となること間違いなしだった。

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