第20話 尾行の末


 ゲーセンで散々遊んで景品を両手で抱え込む俺は複雑な気分だった。


「こんなに取ってどうするんだよ」


「欲しいならあげるよ?」


「花音が取ったなら自分で持ち帰れよ」


「そんなの家に持ち帰ったら親に怒られるよ」


「じゃ、捨てるのか?」


「勿体ないじゃない。たっちーが持って帰ってよ」


「何で俺が」


 取った景品の押し付け合いをしながら街中を歩く。

 取ったことはいいが、その処理が大変であることに気付かされる。

 想定していない荷物が増えた分、持って帰るが大変だし、持って帰った後でも置き場所に困る。

 花音の場合、取ることが目的ではなくあくまで楽しむ目的しかない。

 仕方がなく俺が大半を持ち帰ることで話は終わった。


「それよりたっちー。気付いている?」


「え? 何が?」


「ずっと私たちの後ろを付けてきている人がいる」


「え?」


「振り返らないで。気付かれるでしょ。あくまで気付いていないフリを続けて」


「もしかして例の犯人か?」


「可能性はあるかもね。ゲーセンにいる時からずっと私たちを見ていたから」


「何で教えてくれなかったんだよ」


「流石に気付いているかと思ってあえて言わなかったんだけど」


 ずっと見られているとも知らずに俺は普通に楽しんでいた。

 だが、俺の場合、気付いていたら平然とした態度を装えないのでよかったかもしれない。


「それでどうする?」


「マトに引っかかってくれたんだし、これを使わない手はない。誰もいないところに誘い込みましょう」


「でも危険じゃないのか?」


「二対一だしその気になれば何とかなるでしょ」


「暴力はやめろよ」


「しないよ。話し合いをするだけ。だけど相手が行動に出た場合は力技でお相手することになるけど」


 グッと花音は拳を突き出した。


 そう言えば花音はボクシングを極めている。力技には頼りになる存在だ。

 後ろについて来るものを確認しながら街中から人通りの少ない路地へ入る。

 辺りはラブ○街が多く立ち並ぶ。角に入り、視覚が離れた瞬間である。

 足音が近くなり、相手は走り出す。


「今よ!」


 ガッと正面に花音が立ち塞がることで相手は後退りをした。


「さて。コソコソするのはなし。話し合いをしましょうか」


 花音がそう言うと相手は走り出した。


「たっちー」


「おう!」


 俺と花音は相手を挟み撃ちにして行く手を阻んだ。

 フードを深く被っており、全体的に黒っぽい服装をしているが、その細身から女であると推測する。


「別にとって食おうって訳じゃない。話をしましょうって言っているの」


「くっ! そこをどいて!」


 相手は焦っているのか、強引に花音の方へ向かって強行突破を図る。


「いい加減にしなさい!」


 花音は鮮やかに相手の手を取り、羽交い締めを決める。

 相手は完全に身動きを封じられていた。


「は、放せ!」


「観念しなさい。あなた、一体誰なのよ。フード取るわよ?」


「わっ! や、やめて」


 花音は強引にフードを取った。その瞬間、花音の表情が曇る。


若月わかつきさん?」


「花音。知り合いか?」


「うん。私の後輩で生徒会委員が一緒なのよ。私が副生徒会長。そして彼女は書記担当よ」


 俺たちを付け回していた犯人は若月渚わかつきなぎさと言い、生徒会委員の書記であり、ソフトテニス部所属。

 黒髪のショートで幼さが残る彼女。全体的に細身で小柄な女の子だ。

 制服を着ていなかったら中学生以下に見間違えるような体型である。


「あなたが私の掲示板に貼った写真の犯人でいいのかな?」


 若月さんは頷くこともなく無表情で蹲っている。


「反応から見てこの子がやったことは間違いなさそうだな」


「一人でやったの? それとも誰かに頼まれたとか?」


 花音の問いに対して若月さんは苦い反応をする。


「誰に頼まれたの?」


「これは私の単独です。誰にも頼まれていません」


 ようやく若月さんは口を開いた。その声色はハッキリとしたものである。


「どうしてこんなコソコソした真似をしたの? 目的は何?」


「それはこっちのセリフです。栗見花音。私はあなたを心底見損ないました。最低極まりないです。これは私が栗見先輩に対する下克上です!」


 先ほどまで怯えたような反応をしていた若月さんだったが、急に強気な態度を示した。事態は急展開を迎える。

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