第17話 緊急電話


 とある平日の午前中。俺は学校にて授業を受けていた。

 朝一からつまらない授業に欠伸が止まらない。

 ブブブブブッ! と、ポケットに入れていたスマホのバイブが鳴ったことで机の下に隠しながら表示を確認する。


(え? 花音から? しかも電話?)


 普段、最低限の連絡しか取らない。会う約束をするために使われるツールだ。

 しかし、無料電話機能から電話が掛かってきたのは初めてのこと。

 緊急の用事か? しかし、今は授業中。

 電話に出ることは出来ない。しかし、花音からの電話が気になる。自席で電話に出るか出ないか悪戦苦闘して一刻の猶予がない中、俺は席を立ち上がった。


「先生! すみません。トイレに行かせて下さい」


「おう。構わないが、トイレは休み時間に行くようにしろよ」


「はい。気をつけます」


 逃げるように俺は教室を飛び出してトイレに駆け込む。

 そして鳴り続けた電話を出る。


「もしもし」


『あ、たっちー。ごめん。今、大丈夫だった?』


「授業中だったけど、抜け出してきた」


『え? ごめん。わざわざそこまでしてくれなくても後で掛け直してくれればよかったのに』


「それよりどうかした? 電話なんて初めてだよな?」


『うん。一刻も早く知らせた方がいいかなって思って電話しちゃった。驚いたよね?』


「驚いたことは驚いたけど、それより一体何があったの?」


『うん。どうしよう。晒されちゃった』


「晒されたって何を?」


『私たちの関係』


「え?」


ピクリと俺は眉を細めた。

つまりセ○レ関係が晒されたということに直結した。


『今から写真を送るから確認してもらえる?』


 花音から送られてきた写真を確認すると学校の掲示板に俺たちがラブホから出てきた写真と食事をしている写真が貼られていた。

 写真の外枠には『ヤリ○ン』や『尻○女』という手書きの文が添えられていた。幸いにも目元だけ隠されていたが、外観だけ見れば栗見花音だと分かってしまう。この写真は先日、花音と長く過ごした日のものだ。


『この張り紙は写真を撮ったあと、すぐに隠した。でも私が発見する前に他の子が見ていると思ったら隠しきれないよ』


「これ、花音の学校の掲示板か?」


『え? うん。そうだよ』


「じゃ、その犯人は花音の学校にいるってことだな」


『そうなるよね。塾だけじゃなく学校にも潜んでいるってことだから』


 あの日、ずっと俺たちを付け回して写真を撮ったことになる。

 一体誰がそんなことをしたのだろうか。

 俺のことはどう言われようと構わない。だが、花音を傷つけるような奴は許せないと思えた。これ以上、犯人の好きにさせる訳にはいかない。


「犯人を突き止めよう。二度とこんな真似をしないように釘をさすんだ。そうしないと俺たちの関係は終わりだ」


『それは困る。でも誰かも分からない状況でどうやって犯人を割り出せばいいか分からないよ』


 確かに特定するのは難しい。何か手掛かりやヒントになるものがあればいいのだが、そんなものあるのだろうか。


「花音。今、どこにいるんだ?」


『学校だけど。流石に授業は受けられないから倉庫の隅で電話をしている状況』


「とりあえず授業に戻った方がいい。犯人は花音が動揺している姿を見れば余計に攻め立てる。今は平常心を装って何事もないように学校生活を送ってくれ」


『張り紙を見た人が私のことをそういう目で見ているのよ? そんな状況の中、平常心で過ごせって? 無茶言わないでよ』


「無茶でも花音が事実だと逃げ回ったら周りは確実に真実だと断定する。そうなれば花音は余計に学校に居場所を無くしてしまう。だったら張り紙の件は誰かのイタズラだって振る舞えば周りも大ごとにはならない」


『まぁ、確かに理にはかなっているわね。でも、それでも変なことを言ってくる人や噂になったらどうするのよ』


「誰かのイタズラだって言い張ることだ。そうすれば犯人だって何も言い返せないさ」


『たっちーの言うとおりかもしれない。たまには良いこと言うね』


「なんだよ、それ」


『普通だったらセ○レ相手の面倒ごとを聞いたら自分は関係ないって言うと思うけど、真剣に考えてくれてちょっと見直しちゃった』


「何を言っているんだ。セ○レであると同時に友達だろ。友達が困っているのに知らんぷりできるかよ」


『セ○レだけの関係だったら知らないふりをしていた?』


「それはない。絶対に」と、俺は断言した。


『それが聞けて安心した。たっちーをセ○レ相手に選んだ私は見る目があったと言うわけだ』


「なんだよ。それ。褒められているか分からないぞ」


『褒めているよ。じゃ、私は授業に戻るよ。平常心で』


「おう。頑張れよ。呉々も野次に負けるな」


『ありがとう。それじゃ』と花音との通話は切れた。

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