第13話 勉強法


 俺は花音に勧められたテキストと過去問を購入してフードコートに戻った。


「それで勉強すれば間違いなく一発合格間違いないよ」


「なるほど。でも、テキストが薄くないか? 過去問は分厚いのに」


「資格勉強っていうのは過去問が大多数を占めるの。過去問を制するものが試験を制する。そう決まっているのよ」


 まぁ、花音が言うなら間違い無いのかもしれない。これで勉強すれば受かるなら良い投資になる。


「ところでたっちー。勉強の仕方は知っているの?」


「仕方って俺は高校生なんだから知っているも何も知っているに決まっているだろ」


「じゃ、具体的にどうやって勉強しているの?」


「それは教科書やテキストの重要な用語をノートに写して勉強しているよ」


 そう言うと花音は怪訝そうに首を傾げた。


「たっちー。つかぬ事を聞くけど、あなた成績は良い方かしら」


「よくはない。というより悪いかもしれない……かな」


「やっぱりね」


「どういうこと?」


「その勉強法じゃ成績は伸びないよ。それに資格だっていつまで経っても合格はできないと思う」


「そこまで言うのか?」


「全体的に勉強法が間違っている。私が正しい勉強法を教えてあげるよ」


 授業などではノートに書き写しているだけであり、一人でやる勉強とは誰かに教えてもらった経験はない。

 十七歳にして初めて自分の勉強のやり方が間違っていると言う衝撃を受けた俺は悲しくなった。だが、花音に教わったことで俺の勉強欲は伸び上がる。


「学校の勉強法と資格の勉強法は全然違う。今は資格の勉強法だけを教えていくね」


「お願いします」


「まず、ノートは使いません。今すぐに辞める。というより捨てなさい」


「ノートを使わない? そんなバカな」


「ノートを使うのはあくまで学校の勉強だけ。資格の勉強で使わない。まぁ、難しい用語とかノートに書き写す程度はしても良いけど基本はテキストに直接書き込むのが一般的かな」


「な、なるほど」


 そこから具体的な勉強のやり方など、内容以前のものを教わった。

 勉強する時間や場所、姿勢など根本的な内容だが、俺にとってそれは衝撃的なものが多かった。


「参考になった。花音に教えてもらったことを実践して勉強してみるよ」


「そう。それなら良かった。でも、これはあくまでスタートラインに立っただけだから頑張らないとね」


「なんか悪いな。基本的なことを教えてもらってばかりで花音の勉強を邪魔しちゃって」


「気にしないでよ。誘ったのは私なんだから。でも、そんなんでよく勉強していたね。絶対に効率悪いよ」


「ははは。かもな」と、俺は愛想笑いもいいところで悲しくなった。


 だが、花音のおかげで俺は一つ賢くなった気がする。あくまで勉強法を学んだに過ぎないが、それでも大きな成長だった。

 勉強に身が入り始めた頃である。突如、花音は顔をテーブルに伏せた。


「どうした? 体調でも悪いのか?」


「シー。前の席」


「前の席?」


 前方を確認すると四人組の女子グループがハンバーガーを食べて雑談していた。一見、おかしなことはない。


「そのまま聞いて。前のグループ。私の学校の子。しかも同じクラスの」


「え? 本当に?」


「やばいよ。見つかったらなんて言われるか」


「でも、変装しているし」


「変装していても私だって分かっちゃうかもしれない。席を変えましょう」


「そう言われても……」


 案の定、昼時ということもあり、フードコート内はどこも満席である。

 この席を逃せば座る場所はないかもしれない。


「仕方がない。勉強中止。片付けて退散しましょう」


「やむを得ないか」


 花音の都合で離席する選択肢を取る。例え変装していても知り合いと鉢合わせるリスクはある。

 花音一人だけなら問題ないかもしれないが、俺が一緒にいることで大きな負担になっていると考えると心苦しいとさえ思う。

 離席をして当てもなくショッピングモールを歩いている時だった。


「悪い。俺のせいで」


「こっちこそごめん。私の都合でつき合わせちゃって」


「俺、邪魔になりそうだから帰るよ」


 花音を置いて立ち去ろうとしたその時である。

 ふと、花音は俺の袖を掴んだ。


「まだ、帰らないでよ」


「花音?」


「今、帰られたらモヤモヤした気分が残っちゃうでしょ。もう少し一緒に居て。お願い」


 花音の指先はグッと強まった。俺は邪魔者扱いではないと安心する。

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