第12話 勉強しましょう
リフレッシュした俺は二巻分の修正まで書き上げた。
それに加えて思い付いたアイデア要素も作品に取り入れる。
「うん。これなら文句なしで出せるよ。無茶を言ったけど、期間内によく書き上げてくれたよ」と、稲垣さんは満足げに言った。
「そうですか。ではよろしくお願いします」
「これが売れたら三巻、四巻と続けていく形になる。まぁ、売れるだろね」
「それは良かったです」
「ところで立川くん、新作は書かないのかい?」
「新作?」
「作家なら何作も作品を生み出すべきだ。失敗してもいい。書き続けることが大事なんだ。立川くんはそういう覚悟はあるのかい?」
「そうですね。アイデアが思い浮かべばまたWebに投稿していきます。それで読者のニーズを分析してランキング上位に組み込みますよ」
「その粋だ。君なら何発もヒット作を生み出せる。期待しているよ」
「はい。ありがとうございます」
期待している、か。俺の才能ってどこまで通用するのか分からない。
それでもやり続けることが大事ってことか。
打ち合わせが終わった帰りのことだった。花音からメッセージが届く。
『そういえば、挑戦する資格は決めた?』
そういえばそんな話をしていた。
執筆活動に学校の勉強と実は余裕があるわけでもない状況の中、資格の勉強を加えるとますます余裕がない。
それでも何か挑戦してみたいとフワッと考えていた。
「どうせ取得するなら需要のあるものがいいよな」
資格試験初心者で需要のある資格。そんな都合のいいものなんてあるのだろうか。
ネットで調べるとある資格がヒットした。難易度が比較的難しくなく需要のある資格。これなら俺でも取得できるのではないだろうか。
「決まったよ」と、俺はすぐに花音に返信した。
『一緒に勉強しない? 一人より二人の方が捗ると思うし』
勉強って普通一人で集中するもので誰かとすると集中力が阻害されるのではないかと疑問を抱くが、花音の誘いは基本断りたくないと思っていた。
「了解」と返事をすると日時と場所を決めて会うことになった。
今回はセ○レではなく友人として会うことになる。
後日、俺は待ち合わせ場所に向かう。そこはショッピングモールのフードコートだ。休日ということもあり、家族連れや学生がワヤワヤしている中で呆然としている俺に声をかけてくれたのは花音だった。
「たっちー。こっち」
先に花音は席取りをして待っていた。勉強するだけのはずが、花音は高校生らしい清楚なオシャレを決め込んでいる。何より気になったのは茶髪のモブカットではなく黒髪のロングヘアーのウイッグを付けていることだ。
一瞬、誰か分からなかったが、よく見れば間違いなく花音だ。
「おう。それより良かったのか?」
「何のこと?」
「俺と会うときは目立ちたくないって言っていたじゃないか。それなのにこんな人混みの中でいいのかなって」
「勿論、最善の方法を考慮するよ。その為のこのウイッグよ。私の印象が一瞬で消える最強アイテムなんだから」
「まぁ、俺からしたら花音ってまるわかりだけど」
「それはしょっちゅう会っているからでしょ。学校の人や知り合いは絶対に分からない。それに勉強中は眼鏡をかけているから誰だか分からないよ」
凄い自信だが、確かによく見ないと花音とは分からないことは確かだ。
これなら人通りが多い場所でも分からないかもしれない。
「それより受ける資格は決めたんでしょ。何を受けるの?」
「ん? あぁ、これだよ」
俺は事前に買ったテキストを花音に見せた。
「あぁ、乙4か。いいんじゃないの?」
俺が選んだ資格は危険物乙種第4類の国家資格である。
比較的に取りやすく年に何回も試験が実施されていて初心者にも優しい資格と言われている。だが、簡単と言っても俺にして見たら難しく感じていた。
花音はパラパラとテキストの中身を確認する。
「ねぇ、これ中身ちゃんと見て買った?」
「いや、表紙見て文言で決めたけど」
「はぁ、これじゃダメね。表紙詐欺よ。ダメダメ。このテキストで勉強しても多分、落ちるわよ」
「そ、そこまで言うか? 合格まで二十八日間で一発合格って書いてあるんだぞ」
「それは事前にある程度知識がある人に対して有効。たっちーのように全くの初心者ではこのテキストは難しいよ」
「そうなのか?」
「解説だって専門用語ばかりで分かりにくい。言ってみればそう言う仕事をしている人向けのテキストだよ。初心者では無理」
「そ、そんな。じゃ、俺はテキスト選びからミスったのか」
「目指す資格は良い線だと思うよ。でも本が悪いわね。よし! 下のフロアに本屋があるからそこで書い直しましょう。私が選んであげる」
「面目ない」
勉強をする前にテキストがダメでは始められない。
俺は花音の指導の元、テキスト選びから面倒を見られることになる。
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